外道? いいえ、正当よ。
「ガチで惚れた」
「「「は?」」」
ボクとユウ。そしてあろうことか名前も知らないもう一人の男の声が重なった。
「俺はヒューズ・マタライト。召喚型だ。お前は?」
「え、えぇっと……赤砂……リクです……」
訳も分からないまま、名前を聞かれたので答えてしまった。
「リク……リク……。わかった。俺の事はヒューズって呼んでくれ。俺はお前をリクって――」
「呼ばせるかぁ!!」
ズパンッと激しい音がなったと思ったら、いきなりヒューズが後ろの方へと飛んでいった。
「ごばぁッ。お、お前またやりやがったな!? 女だと思って、調子に乗ったら承知しねぇぞ!?」
「あぁ? ユウのお兄ちゃんに勝手に触ってくるあんたの方が調子に乗ってるでしょう? 何なら、今ここで相手になってもいいよ?」
そうして、ユウがその手を虚空へと伸ばす。
あの構えは……いつもエングスを呼び出すときのポーズ!?
「エング――痛ぁ!? な、なにお兄ちゃん? 今からユウはこの男を消し炭に……」
ボクは遠慮なくユウの頭をチョップしてエングスを呼ぶのを中断させる。
「ユウ。やりすぎ。遊びに来てまでいざこざを起こさないの。まったく……。本当にすみません。ボクの妹がヒューズさんを踏んだり殴ったり……。ほら、ユウも頭を下げる!」
ボクはユウの後頭部を持って頭を下げさせる。ユウは必死に抵抗していたけど最終的にはおさまってなすがままに頭を下げられる。
だけど、ボクが手を話した瞬間に、チラッと横目でボクの肩らへん(?)を見ると、ユウは目線をヒューズへと向き直してべーっと舌を出して威嚇した。
「ユウ!」
「お兄ちゃん♪ 後であの人ごみに来てよね♪ きっと二人以外全員あそこに居ると思うから!」
ユウはボクの静止の言葉を聞かずにそのまま浜辺にある人ごみへと消えていった。
どうしてあそこまで自由なのか。そして目の前に居る人達を完全に放置だし……。
「あの、本当にごめんなさい!」
「別に気にして無いって。それより、あの子リクの妹なんだ」
「はい。本当に自由気ままで……。母親譲りの元気さなのでボクも大変です」
それにしても、どうしてユウはあんなにもこの人達を非難したのか。
ナンパしたと言っても、普通に断ればいいだけではないか。
「それよりさ~。やっぱりこれから俺達と一緒に遊ばない?」
「え? あ、あの、ボクはこれから行かなきゃ……」
寝虚も一緒に居ることだし。
「いいじゃんよ。せっかく遊びに来たんだからさ、俺達がいい場所教えてやるよ」
「で、でも……」
「やめなさい、貴方達。いい加減にしないと私の狼が貴方の喉元を引き裂くわよ?」
「あ?」
声が聞こえたと思ったら、ボクとヒューズ。そしてその後ろに居る男が同時にさきほどユウが消えた反対側に振り向いた。
すると、そこには聖獣である〈セイントウルフ〉を呼び出しているソウナとフランクやらヤキソバやらといろいろと持っているアキがそこに立っていた。
「次は誰だよ」
「名前を聞くときは自分から言うことね。それと、私達はその子と一緒に今日此処に来たのだから無関係とはいかないわ」
初めっからケンカ腰なこの人達はどうしたらいいのだろうか。誰か解決策を教えてください。
なんてボクの願いも通じるはずも無く、なぜか目の前に居るヒューズも魔力を解放していた。
「って何やってるんですか!?」
「俺の名はヒューズだよ。覚えとけクソ女」
「言葉使いが荒いわね。その根性叩き直してあげようかしら?」
ボクの声が聞こえていないのか、二人は互いを睨みあったままで訊く耳を持たなかった。
「へっ。言ってくれる! 我が名はヒューズ――」
そんな中、ヒューズがサモンのだいご味である何かを召喚しようとして――。
「やっちゃっていいわ」
「ガァッ」
「へ? ちょ、待てお前! 俺はまだ召喚してな――」
――〈セイントウルフ〉によって空高く舞い上がってしまっていた。
「せ、せけぇぞお前ぇぇええ!! 根性がねじ曲がってんのはお前だああああああぁぁぁぁぁぁ…………」
声は次第に聞こえなくなり、海の遠くの方へと落ちて行って、激しい水柱をあげて水面へと叩きつけられた。
ボクは、その様子をポカーンと見ていて、ヒューズが水柱をたてて沈んだ所で、ハッとして驚いた。
「ひ、ヒューズぅ!?」
一緒に居た鼻にピアスの男は慌ててそのヒューズが飛んでいった方へと走っていった。
「ふん。召喚している最中に攻撃しちゃダメなんて、甘い世界だけよ」
ものすごい外道だった。
「何やっているんですか!? 相手はまだ魔法も発動していない一般人ですよ!?」
「ついやってしまっただけよ。今は反省しているわ」
「反省の色がまったく見えません!!」
しれっとして言うソウナに突っ込むが彼女は全く聞いていない。
「それよりリクちゃん! 私達ビーチバレー始めたんだけどさ、リクちゃんも来ない?」
その間にアキがタイミングを見計らったようにして割って入ってきたのですこし後ずさりながら答える。
「ビーチバレー……ですか? でも、そんなのどこで……」
ボクは砂浜を見渡してみるも、どこにもボールが飛んでいるような場所は見えない。
「あそこだよ」
そう言ってアキが指さした所は、先程ユウが言っていた人ごみで……。
「え? 何であんなに人が居るんですか……」
「さぁ? 私達の美貌に引きつられてやってきた御仁さん達だよ!」
自分で美貌とかって言うのだろうか。しかも、御仁さんって誰……。
アキが元気に言うけど、物凄く心配になるボク。
とにかく、人ごみがあまり好きでないボクは行きたくないと言うのが本音なのだが……。
人ごみへと向けていた目線をチラッと隣に居るソウナやアキに移す。
とても期待に満ちている目だ。行かないかぎり一生ついてきそう。
「リクお兄ちゃん、寝虚はどっちでもいいよぉ。お姉ちゃんの勇姿も見たいもぉん」
「あははは……」
もう寝虚にお姉ちゃんと呼ばれる事に反抗する気も無いボクは期待に満ちている目で見る寝虚によって、あの人ごみへと向かう決断をした。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。