他の人は?
訳も分からずいきなりゲームさせられ、その挙句ヤキソバまで奢らされるが、雑賀のお金なので問題ない。雑賀も喜んで貸してくれたから遠慮くなく使わせてもらった。
結局、岩まではユウの勝ち。それもそうだろう。ボクがユウに勝てるとは思えない。ボクが25m泳いでいる内に、50m泳いでいるようなユウなのだ。
昔から体を動かす事はユウの方が得意だった。そこにゲームを付け加えるともはや一度も勝てたことは無い。ゲームでもユウの方が得意だから、キリとユウがバトルしてみたらどっちが勝つのか少し興味がある。
「ん~♪ やっぱり海に来てからのヤキソバは別格だよね♪」
出店の近くのベンチに座り、足をばたつかせておいしそうに食べるユウ。その横から寝虚も少しだけつついている。
まだ昼前だし、そんなにたくさん食べたら……と思ったからである。
「そういえばユウ。他にみんなはどこ行ったの?」
「ん? 他の人は確かビーチバレーするって言ってたよ♪ 後でユウも呼ばれてるんだ♪ でも、その前に海でたくさん泳ぎたかったからユウは海に居たんだよ♪」
笑顔でいうユウに、どれだけ羽根を伸ばしているのかがうかがえた。
夏休み期間に……などと思っていたが海水浴に来ただけと思えば、気が晴れると言ったところだろう。
「それに、あんまり離れて無いと思うよ? 十分広さがあったから……人ごみを探せばいいんじゃないかな?」
「え? どうして人ごみ?」
わざわざ人ごみを探す理由が分からない。だって人ごみが居る所って大体こういう出店か、海なのだ。
こうやって此処から見渡しても、浜辺に人ごみが鳴っている所なんて……。
「ほら、あそこじゃないかな?」
ユウが指さす方向。そこは確かに雑賀達が居る場所からはあまり離れておらず、そして人ごみが出来ていた。
浜辺には何も無いと思うのに、どうしてあそこだけ人ごみが作られているのだろう。
「お兄ちゃん、まだわからないの?」
ユウが不思議がるところに、上から声が掛かってきた。
「ねぇお譲さん達、暇?」
「暇だったら一緒に遊ばない? 俺らお金とかたくさん持ってるからさ」
聞き覚えの無い声に、ボクは顔をあげる。そこにはやっぱり見た事の無い男の人が二人立っており、ボク達をにやつきながら見ていたのだ。
一人は髪を金に染めているだろう色の髪をツンツンに仕立て上げ、耳にピアスをしている。
もう一人は黒い髪をリーゼントと言ういまどきどうかと思うような髪型で、鼻にピアスをつけていた。痛そう……。
どちらもアロハシャツに膝までの短パンと言う出で立ちだった。
「つまり、お兄ちゃんこう言う事」
ユウが先程の説明なのか、男の人達を指しながら言ってきた。
「ダメでしょユウ? あの、すみません、ユウが人に指なんか指して……」
ボクは膝に座っていた寝虚をイスへと座らせると、立ち上がって頭を下げる。
「別にいいよ。それより、今から俺達と遊ぼうぜ?」
「君達見たいな可愛い子がこんな所で話してるだけなんてもったいないってさ」
男たちの言葉にピクリと眉を動かす。
指輪をしているとはいえ、ボクは男なのだ。どうして可愛いなどと言われなければ……。
「お兄ちゃんってば。だから、こう言うのがナンパって言うの」
「なん……ぱ?」
ナンパと言うのは……あれだろうか。
男の人が女の人を誘うという……。
「おいおい、人聞き悪い事言うなって、俺達は遊びに誘ってるだけだってよ」
「そうそう。こんな所で花がしおれちゃダメだってさ。俺達と行こうぜ?」
男の人が……女の人を……。
「あ、ヤバい……。えぇっと、今お姉ちゃん機嫌悪いからさ、どこか行ってくれない?」
ぴくっ。
「機嫌が悪い? もしかして熱中症か何かか? だったら今すぐ俺達が解放するぜ?」
「おう。だったら俺達の背中乗ってきなよ。すぐに病院まで直行だ――」
ボクはそんな男たちのいうことも聞かず、寝虚の手を取って無視する事にする。
「ユウ、行こっ」
これ以上此処に居たらこの男達を今すぐにでも倒したい気分になる。
「う、うん。じゃあね~」
「ちょ、おい待てよ」
金髪の方の男がボクの肩へと触れてきた――瞬間。
「は?」
――男がめちゃくちゃ暑い砂へと顔を突っ込んだ。
「ぶへッ!」
「ヒューズ!?」
金髪の男と一緒にいた男が慌てて名前を呼ぶが、近づく事が出来なかった。
「お兄ちゃんに気安く触らないでよ、ド低能のクソッたれ変態ども」
「ちょ、ユウぅぅうう!?」
ボクが一生懸命怒りを押さえていたと言うのにユウがボクの肩へと触れてきた金髪の男。ヒューズの手を払って地面へと叩きつけたのだ。しかもその後にかなり見下した目でヒューズの頭を足で踏んでいた。
砂だから良かったものの……いや、よくない!
「ユウ! コンクリートとかだったらどうするつもりだったの!?」
「コンクリとかでもどうもしないでそのまま打つつもりだったよ?」
「はい!? と、とりあえず謝って! 謝ってユウ!」
「謝らないし! お兄ちゃんをユウの許可なく触る奴なんて全員ユウの敵だ!」
「それ意味わかんないし第一それだったら他の人だって触ってるでしょ!?」
「いつか殺すもん」
「何言ってんのユウ!? 今すぐに謝りなさい! とりあえずは足をどけて!」
仕方ない、と言った風にユウがヒューズの頭に乗せていた足をどかす。
「く……ツッ……テメェふざけんなよ!」
「ふざけて無いよ、本気だもん」
ユウが割と本気でヒューズを見下しながらそう言った。
「だから謝ってってば!」
「もう謝るだけで許すかよ! 代償は払わせてやる!」
どうやら謝るだけではもう許してもらえないらしい。それもそうだろう。後頭部を掴んで砂へとダイブさせた後、その後頭部を足で踏んだのだ。
あぁもう! 悶着は起こしたく無かったのに!
「な、なにをすれば許してくれますか……?」
不安げに、ボクは男たちを見上げる。
「…………」
「…………」
えっと、何か間違った事をしただろうか?
なぜか周りの空気が止まったようになった。
「お兄ちゃん! こんな屑どもに上目なんて使わなくていいんだよ!」
上目? いや、ボクは普通に男たちを普通に見上げただけなのだが……。
その時、ヒューズがようやっと口を開いてくれた。
――予想もできなかった言葉で。
「ガチで惚れた」
「「「は?」」」
ボクとユウ。そしてあろうことか名前も知らないもう一人の男の声が重なった。
さて皆さん。とはいっても外伝の『ヒスティマ~ゼロ~』を読んでくださっているみなさん。
この展開、何処かで見覚えが無いでしょうか?
えぇ、今思い出してくれた通りです。
つまり、母親と同じ道をリクちゃんは通っていると言う事ですよ……やり方は違ってもね(==;
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。