男の水着? そんなの――by雑賀
「それじゃあ、153号室と154号室ね。間違えんじゃないよ?」
女の人に鍵を渡されて、ボク達は階段を上がっていく。
この人数だから二部屋とったのだろう。同じ組織が店主としてやっているために、お金に困らないのだろう。おそらく。
ボク達は部屋の前に着く。番号が隣なので自然とお隣同士の部屋となる。
「それじゃあ、私達は153号室、天童さん達は154号室でお願いします」
「何!? 此処は公平にジャンケンで入り乱れてだな――すみません。マジですみません。だからそのいつの間にか持っている盾で俺の頭を叩こうとしないでくれ!」
妃鈴の手にいつの間にか握られている大盾。妃鈴は無言で構えたので雑賀は素早く謝っていた。
その後にすぐに154号室へと入っていく。
その間。ものの数秒としか掛からなかった。とても滑らかな早さだった。
「ンじゃ、俺達は154号室か。と言っても荷物なんて置くもんねぇけどなぁ」
キリがそう呟いて154号室へと入っていく。
なるほど。妃鈴が言った「私達」と言うのは女性陣の事を現していて、「天童さん達」と言うのは男性陣の事を現しているのか。
それだったらボクも154号室へと入ろうとして――。
「どこ行くの? リク君。そっちは男の人の部屋よ?」
ソウナに首につけている首輪を握られた。
「ボク男なんですけど!?」
「何言ってるのよリク君。リク君のどこを見て他の人が男だと言えるの?」
「いや、確かに今はこんな恰好していますけどね!? これ着せたのみなさんですよね!?」
『とっても似合ってる(よ)(わ)』
「素で傷つくんですけど!?」
いや、抵抗無く着てしまった自分も自分だが。
「みなさん、何をしているんですか? 早く入りますよ」
一足先に入っていた妃鈴がそう言い、ボクは半ば引きずられるようにして153号室へと連行された。
中は大部屋なのか十人が入っても別段狭いとは感じなかった。
狭いとは感じなかったが……いずらいとは感じた。
なんたって自分以外が全員女の人なのだ。いや、絵的には全員女に見えるだろうけど、ボクはレッキとした男だ。どうしてボクはこちらに入らなければいけないと言うのだ。
「リクちゃん、何でそんな隅に居るの?」
「だってボク……男なのに……」
「そのうちなれるって! それより妃鈴さん。水着はいつ買いに?」
慣れたく無い物だが。慣れなければ……いけないのだろうか。桜花魔法学校に修学旅行みたいのが無ければ良いのだが。
学校はボクを女として認識している。と言うか、いまさら男だとバレルと怖い事になりそうなので女だと偽って生活している。赤砂学園だと普通に男で入れるからいいのだが……。
「軽い荷物を置いて行くだけです。もう出ますが、みなさんはよろしいのですか?」
妃鈴がそう言うと、それぞれが肯定する。ボクはもちろんすぐに肯定。だって今すぐにでも此処から出たいのだから。まさか体を休めれるような宿屋で疲れるとは思わなかった。こうなったらもうお風呂しか休めれるところなんて無いんだろう。
妃鈴の後に続いて部屋を出て鍵を閉める。今回部屋に寄ったのは軽い荷物を置く事と、部屋の確認だろう事がわかった。
女の人の居た一階まで下りると、もうすでに雑賀とキリが待っていた。二人ともソファに座っていて、女の人に出されたらしいコップの麦茶を飲んでいた。
「ん? 遅いじゃないか。一体何してたんだ?」
「あまり時間は経っていないとは思ったのですが……」
確かに、部屋に居たとしてもほんの一分ぐらいしか経っていない。
「そうか? まぁいいか」
ぐいっとコップの中の麦茶を飲んでしまうと、懐にしまってあったタバコを取り出して口にくわえる。キリも麦茶を全部飲んで近くのゴミ箱に雑賀から渡されたコップごと投げ捨てた。
コップは綺麗な放物線を描いてゴミ箱へと吸い込まれるようにして入っていった。
「ほら、行くぞ」
雑賀が宿屋の女の人に麦茶の礼を言って宿屋から外に出る。
ボク達もその後を追って外に出た。
日差しが眩しいが、特に暑いとも感じない。服に魔法がかけていあるからだけでなく、シラと契約しているからこっそりと服の内側に氷魔法も発動しているのだ。おかげで冷たくて気持ちい。
それから更に海の方へと歩いて行きがてら、一つの出店に入る。
「すみません」
「おぉ。新入りの雑賀じゃねぇか。ほぉ、今回の仕事はおめぇけぇ」
どうやら此処もロピアルズの人が経営しているらしい。
店から出てきた男の人は先程の女の人とあまり年齢の変わらなさそうな人だった。少し小太りだが。
「女の子のために水着を買いに来ました」
「あ、あぁ。あいかわらずだなぁおい」
男の人が若干引いている。
ボクがそう考えている間に、女性陣は全員自分の水着を選び始めていた。
「あ~。こういうの可愛いな~」
「マナさんのイメージカラーピッタリだと思いますわ。……胸は余ると思いますが」
「ちょっと!? どういう意味!?」
何やらマナとレナがもめていた。
とりあえずボクはそんな女性陣に目標とされる前に、考えていた作戦を実行した。
ボクはすぐに人の目を抜けて男性の水着が売っているようなコーナーへ行く。すると、そこからは女性陣の目が届かない所などでとりあえず一安心。
ボクは振り返って――。
「何してんだ? リク」
声をあげそうになってとっさに口元を手で覆った。
「き、キリさん……。脅かさないでくださいよ……」
「いや、お前こっちでいいのか?」
ボクはドキドキと鳴る胸を無理やりに押さえて、落ち着いたところで話し始めた。
「当たり前じゃないですか。……女性用の水着なんて着た日にはボクはきっと廃人になっています。最後のプライドまで潰されたくありませんから」
「お、おぅ。だけどよ、たぶん雑賀がそれを許さねぇと思うぞ?」
「脅迫すればいいです。雑賀さんぐらい、どうにでもなります」
ボクの中で雑賀の扱いは酷かった。
それにしても、キリは比較的ボクに協力してくれるのでとても助かる。
やっぱりキリが傍に居てくれるととても心強い。
「にしても、あんまり海で泳ぐ気ねぇし、適当なもん選ぶか」
「そうですね。ボクだって海で泳ぐ気ありませんし」
「……私も無い。……けど浜辺で遊ぶ気ならある」
「へぇ。あ、それだったらボクも遊ぼうかな。やっぱり、夏休み気分ぐらいは味わっておか……ない……と……」
機械のように。と言えば分かりやすいだろう。ボクは首をギギギと言わせながら後ろへと振り向く。
「……こんな所に居たんだ、二人とも」
「二人……」「とも、だぁ?」
ボク達がそろってそう言うと、白夜がコクンと首を縦に振った。
ボクを探しているのはわかる。だってボクの水着をどんなのにしようか想像していた人が居るのだ。その人がボクの事を放っておくはずが無い。
だけど、どうしてキリまで探す必要があるのだろうか。
ボクそんな疑問を、白夜が説明してくれた。
「……雑賀が女の子以外の水着を買う気は無いと言った」
――その一言で十分だった。
「散!!」「開!!」
「……逃がさない。〈シャドー〉」
ボク等の迅速な行動に、白夜は反応して、店内に複数の影を出現させる。
その影は壁となり、その道が通れなくなる。
ボクとキリは別々に走り、後ろから追ってくる白夜から逃げるようにして前に進むが――。
「白夜さんありがと~」
「やっぱり、この魔法って何かと便利ね」
「捕縛には最適だね!」
「毎回思いますけど、こう時ばっか白夜さんって物凄く強いって感じますわ……」
――前に見えるのはどう見ても女性用の水着を売っているコーナー。つまり、影が壁となっていたのは捕まえる事では無く、此処に誘導させるために発動された魔法だった。
「あ、ははは……」
よく見ると、ボクの隣にいつの間にかキリも居た。
おそらく、影の壁の向こう側に居て、そちらから此処まで走って来たのだろう。
つまり、どちらの道を選んでいても、ボク達は此処に着ていたと言う訳で……。
「じゃあ、着替えよっか♪」
ユウが面白がりながら気に入った手短な水着から手に取っていった……。
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