やっと到着
「ここが……ヘレスティア……」
ボクは目の前に見える光景に驚く。
ヘレスティアに城が立っており、ボク達が立っている場所の道を真っ直ぐ行けば城の門へと着くのだ。そして、歩く人には普通に暮らしている市民や、全身鎧を着こんでいる騎士まで居るのだ。夏なのに暑くは無いのだろうか。
前に開いている所以外には壁があり、そこから凶暴な動物などが入ってこれないようにしているのだろう。
「さぁ。みなさん行きますよ」
雁也に先導されてヘレスティア入口へと向かっていく。
そこには騎士が二人立っていて、それぞれ怪しい人が居ないかどうか探っているようだ。ここまでされていると、やはりライコウとまったく違うなと思うところがある。
ライコウの入口などには見張り役などいなかった。そのかわり、ロピアルズは何かしらの事はやっているだろうが。
ボク達はヘレスティアの入口を通過。壁で見えなかった町並みが見えてきた。
大抵は木の建物。そして、二階までの家しか見当たらない所を見ると、三階以上の建物は無いのだろう。
ライコウのように、コンクリートなどで出来た家じゃないので、異世界に来たと、初めて実感するような場所だった。
「ヘレスティアの地図は城を中心として広がっております。このまま城を迂回して真っ直ぐ進めば水着を売っている場所や、海があります」
「だが、その前に宿を探すぞ、妃鈴」
「わかっております。宿は歩きながらでも探しましょう。海で遅くまで遊んでてもいいように。海の近くに宿があるみたいですから」
海の近くに宿があると言うことは窓から海が見えるのだろう。ボクはそんな風景を思い浮かばせ、心を躍らせながら先に進む妃鈴の後をついて行った。
歩きながら周りを見渡すと右左に見える家はほぼすべてが出店。つまりこの道は、ヘレスティアで一番大きい通りと言う事なのかもしれない。何かしらの名前がついている道なのだろう。
出店はリンゴなどの果物だったり、衣服を売っていたり、保存食だったり、いろいろあった。中には武器や防具を売っているような店まである。
だが、みた所水着を売っているような店は無いようだ。本当に海辺の周辺の店にしかないようだ。
そのままいろんな出店を見ながら、城の目の前まで進んできた時だった。
「さて……私は泣く泣く仕事ですね……」
「雁也お兄ちゃん、仕事なのぉ?」
「はい。ですから、みなさん。私の分まで遊んできてくださいね」
雁也がそう言うと、ボク達から離れ、そして人ごみの中へと消えていった。
「別に何日かこの国に泊まるつもりだからいつかは遊べると思うけどな」
「え? 一日だけじゃないんですか?」
「ん? 訊いてないのか? 三泊するんだよ。大体、一日で情報がそろうことなんて無いからな」
ボクは再びユウを見る。
ユウはボクと目を合わせまいと反対の方向へと顔を向けていた。先程何もしなかった分。ユウの後ろへと進み、その耳を引っ張った。
「痛い!? ちょ、待ってお兄ちゃん! 痛いってば!」
「ユウ? 他に何か言い忘れてる事ない?」
「無い! 今のでたぶん全部! 全部だと思うから!」
「ほ・ん・と・う?」
「お、お兄ちゃんその表情こわ――本当です! 本当だから! お願いだからそれ以上は耳が取れちゃうから引っ張らないでぇ!」
ボクはそのユウの言葉を聞いて耳を引っ張っていた手を話す。
するとユウはしばらくその耳に両手をやってその場にうずくまった。
「ユウ。次何かあったら家に帰ってからヤキソバしばらく禁止ね」
「そんなぁ!? ユウからヤキソバを取ったら何も残らないんだよ!? あまりにも残酷だよぉ!」
うずくまっていたユウが顔をあげて涙目で驚いて泣いていた。
さすがにちょっとやり過ぎだろうか。いや、きっとそんなことは無いだろう。だってユウは本来伝えるべき事を何も伝えなかったのだ。仕事はしっかりとする ものと母から……いや、母さんもしないような人だった。
「それでは、行きましょうか」
「妃鈴……あいかわらずマイペースと言うか……ちょっとは反応しような?」
何事もなかったかのように進もうとする妃鈴に雑賀が言うが「はて?」と言うような顔をしてそのまま歩を進め始めた。
「うぅ……妃鈴なんか嫌いだぁ……」
「えぇっと、そういう場合、リクちゃんの名前が出てくるんじゃないの~?」
「お兄ちゃんの事は冗談でも嫌いなんて言わないよ? 何言ってんの? マナ姉」
「はぅっ!?」
けろっとしたユウがマナに馬鹿じゃないの的な目で見た。マナの心にグサリと何かが刺さったように見えた。
赤いツインテールが垂れ下がり、膝から崩れ落ちるマナ。近くに居た白夜が「……大丈夫?」と支えるので一応は倒れていない。
白夜の心配にマナは小さく「大丈夫」と答えると、よろよろとしながらも自分の足で立った。余程精神ダメージがすごかったと言うことなのだろうか。
とにかく先に進んでしまった妃鈴を追うべく、ボク達も足を少し早めて城を迂回して先に進んだ。
すると、そこの出店では先程までは無かった魚の出店があったり、夏では暑そうな服を売っていたり、逆に露出がかなりありそうな服を売っていたりする出店が増えてきた。
そしてその中ではお目当てだった水着を売っているような服屋もあった。
だが、妃鈴はそちらには目をくれず、真っ直ぐ海の方面へと向かっていった。
そう、海の方面だ。
「わぁ……」
城が無かったら、絶対にこの海が始めてから見えていただろう事が明白だった。
なぜなら、今立っている場所から海までの高さに差があり、此処から海まで下り坂となっているのだ。家のある場所は平坦になるように木で工夫されている。そこまで急な坂では無いのであまり足に負担がかかるような事は無いだろう。
だが、海まではそれなりに遠い。
「目の前が真っ青ね……」
「何人か人がいるな。それもそうだな。この暑い中じゃ海水浴日和って奴だし」
此処から人の姿がちらほらとは見えるが豆粒ほどにしか見えない。その豆粒ほどの数がかなり多く、ある一か所は豆粒で完全に塗りつぶされている所もある。
「それよりもさっさと行こうよっ」
「……わくわく」
アキと白夜が我先にと歩き始める。
仕方ないのでボク達もその後に続いて行くと、妃鈴がある一つの建物へと入って行った。
「ここ……は?」
そこは受付嬢の少し年を重ねた女の人が一人居て、他には誰もいなかった。
いや、上に見える扉の向こうの部屋に居たり、右の扉の向こうから声がいろんな人の聞こえてくるので居るには居るのだが、この場所にはその女の人だけだった。
「遠路はるばる御苦労さま、妃鈴」
「いえ、問題ありません。これも仕事ですので」
妃鈴が女の人とまるで知り合いのような会話をする。
どこかで合っているのだろうか。
「おや? その子供達はなんだい?」
女の人が雑賀、寝虚、ユウと視線を巡らせた後、ボク達を見る。
その表情は意外だとでも言いたそうな感情が含まれているような気がする。
「えぇ。カナさんが無理やりに送り込んだ子達です。ちなみに銀髪の二人はカナさんの娘です」
「息子です! あ、いや、ユウは娘だけどボクは息子だから!」
ボクが娘とかふざけないでほしい。
いや、今は思いっきり女の子の格好をしているかもしれないけどレッキとした男なのだ。そこを間違えないでほしい。……指輪をつけている限り無理だと思われるけど。
「ほぉ。そう言われてみればカナさんに少し似ているねぇ」
「え? 母さんを知っているんですか?」
どうして母を知っている人がヘレスティアになんて場所に居るのだろうか。
「お兄ちゃん。このおばちゃん。実はロピアルズの人なんだよ」
「えぇ!?」
「あっはっは。定期的に本部に情報を提供しているのさ。隣は酒場にもなってるからねぇ。この国には他にも何人かのロピアルズがいるのさ。他の国にもね」
まさかこの女の人までロピアルズの人だとは……。
ライコウのロピアルズの組織って、もしかして想像する以上に人数が居るのではないだろうか……。
ちなみに女の人はロピアルズ諜報部に所属しているらしかった。
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