海に帰った2匹の海星・・・(大人童話)
文中の町と人は架空の町と人物です。
忙しない日常の折、私をふと、どうしようもない追想の彼方においやる、ひどくやるせなく私の身体を緩く穏やかに弛緩させる忘れられない記憶が、私にはある。
私の田舎は、町中の皆が何かしらの顔見知りで、どこどこのあの家は、誰かしらの親戚か姻戚という位とても小さな町だった。
そんな田舎の良き点でもある所だが、町の年寄りや大人達は、ごく自然に町の子供達に心を配り皆が皆を分け隔てなく、大らかな視点で時には、厳しく、時には優しくと見守っているようだった。
子供心に、大人達は、絶対に自分達を守ってくれる存在。それが当たり前で不思議に思う事も無いくらい私達(私)は、大人達の庇護の下、のびのびと青空と草の香り、海の香りの世界で、今日という冒険の中へ毎日、繰り出していた。今日という日は、毎日が陽だまりの温もりの感触がした。
私を含め、子供達は幼くその子供らしさは、残酷なくらいの無邪気さを帯びていた。
2人の子供がいた。1人は女の子で、1人は男の子。女の子の方が男の子より、わずかに年かさに見え、いつも2人で遊んでいた。忙しい位の自分中心の毎日の世界で、私が2人に気が付いたのは、2人の姿にあった。2人ともどこかしら、擦り切れ薄汚れた服を着ており、その顔さえも鼻水や何やらで彩られていた。髪の毛は固まりのぼさぼさ。その汚さは、潔癖だった私の眉をひそめさせるには十分な汚さだった。
そして、私が2人に気付かずに居られなかったのは、その行動であった。
私は、先生の声を聞きながら、黒板からふと運動場にある砂場へと視線を移した。目の端に映った光景が、不可解だったからだ。
アノコタチ、ナニヲシテイルノ。ミンナ、キョウシツノナカダヨ。ナゼ、ソトニイルノ。
ナゼ、センセイハ、オコラナイノ。
そして、「・・・ナゼ、ミンナ、キニシナイノ」。
どう見ても2人は、小学3年生だった私より、1つか2つ下にしか見えなかった。少なくとも女の子の方は、小学校に上がってる年に見えるのだ。
2人は、遠目にも仲良さそうに砂場で山を作っては、穴を掘り、夢中で何か話しながら楽しそうに遊んでいた。
私は、好奇心をすぐに、次の休み時間の行動に移した。砂場に向かったが、2人の姿は既に無かった。
あたりを見回したが、運動場のあたりに2人の姿を見付ける事は出来なかった。
始業のベルが鳴り、私はすぐに2人の事は忘れてしまった。
授業を終え、日直の日誌を先生に提出した時には既に、学校には、生徒の姿はちらほらとしか見えなかった。
皆、今日を約束した友達と今日への冒険へと最早繰り出してたのだ。
今日は、まっすぐ帰って家で弟や妹とあそぼうと、気を取り直して、校門へ向う途中、砂場に人影を見かけた。
ア、アノフタリダ。
誰も居なくなった運動場の片隅の砂場で、2人で楽しそうに遊んでいた。2人だけで。
私は、すぐに子供特有の(私が特にか)移り気で、家で待っている兄妹と遊びの事に胸をはやらせ、校門をくぐり家へと向かった。
その日から、何度か2人を目にした。いや2人に目が行くようになった。
ナゼ、ダレモ、フタリニコエヲカケナイノ。
フタリハドコノコ。
キョウダイナノカナ。
ナゼ、ジュギョウヲウケテナイノ。
ドコノコナノカナ。
イツモヨゴレテイルノナゼ。
オトナハ、ドウシタノ。
オトウサンハ。オカアサンハ。
フタリキリデ、・・・・・サミシクナイノ・・・・。
そして、私は何時ものように、忙しい子供なりの生活に埋もれ、2人のこと等、古い遊びと同様に、忘れ去った記憶の仲間入りにした。そして、私も、2人に声をかける事はなかった。
私には、2人に声をかける理由もなく。声をかけない理由は、2人の汚さと皆の私には解らないみんなの無関心さで十分だったのだ。
ある日、母に抱きつきながら、何が2人を思い出させたのか、私は2人の事を母に尋ねた。
「お母さん、あのね、授業を受けない子がいるんだよ。」
「あら、どこの子。まおちゃんの同級生?」
母は、不思議そうに逆に、私に尋ねた。
「ううん、私の知らない子、同級生じゃないよ。先生にも叱られないの。なんで?」
私は母なら、きっと2人の正体を知っているだろうと、事細かに、2人の人相風体を伝え、たくさんの何故とたくさんの答えを母に求めた。
道を歩けば、顔見知りに会う田舎だ。母は2人に心当たりがあるようだった。
母は、少し困った顔をして、私にこう言った。
「まおちゃん、2人を苛めたりしちゃだめよ。みなと違ってても。」
「私は、そんな事しないよ。」
私は、母の言う、2人が皆と違うとうい言葉が、服装が汚れているという事、そのままにしか受け止める知識しか無かった。
やるせなさそうな、母の表情は、私に大きく深い疑問を与えたが、母のひと抱きの一瞬で、母への甘えの中で一瞬で忘れてしまった。
お姉さん意識が芽生え初めて、母に甘える事を良しとしなかった、あの時の自分が母に抱きつく事で2人の何かを察し、落ち着かなく不安でなんとなく悲しい気持ちを紛らわそうとしていた。
月日が少し流れ、まだまだ私は、多少、お姉さんぶった小学生で、その時も学校の行事を終え、家へ向かい学校の校門をくぐろうとしていた。あたりは夕闇がせまり、校庭の鉄棒がオレンジ色に燃えるようにピカピカと光り、長い影を運動場に投げ出していた。
オレンジ色に染まった砂場に2人を見かけた。
学校行事の後片付けで遅くなった自分とは違い、小さな子供2人が学校で遊ぶには、気にせずには居られないくらいの時間帯であったのだ。
私は、砂場に足を向けた。
私の気配に、何かのごっこに夢中だった2人は、急に静かになり、無言で砂を掘り続けていた。
私は、いかにも上級生とうい口調で、
「もう、遅い時間だよ、お父さんかお母さんに、怒られるよ。そこの道まで一緒に帰ろうか?」
と、校門の外へと指を指し示した。
妹と弟がいる。私なりの心配と正義感のつもりからでた言葉と行動だった。
相変わらず、汚れた服と顔が、どうしようもなく私を悲しい気持ちにさせた。
私は、何かに負けたくない気持ちで、何かを許せない気持ちでいっぱいになりながら、ちぢこむように押し黙り、砂遊びを続ける2人に、そのまま手を差し出し続けた。
私は、真剣だった。その時の感情をどう表していいかその時の自分でも解らなかった。
2人は、かたくなに押し黙り続け、それが私をいっそう哀しい気持ちにさせ。そして優しい気持ちにさせた。
私は、2人に笑顔を向けて、
「じゃあ、気をつけてね。もう暗くなるから、またね。」
私は、学校の外へと門をくぐった。
そして、それが、2人にかけた初めての言葉で最後の言葉となった。
そして、私は、2人を…、忘れた。
1年も立たない頃、そのニュースが飛び込んできた。
「子供が2人、港で溺れた。助からないらしいよ。大人が沢山いたから、助けてと悲鳴さえあげれば、聞こえさえすれば、助けられたはずなのに。なんでかねぇ。弟を助けようとして、お姉さんが飛び込んだらしいよ…。助けてって、言えなかったのかねぇ…。可哀相に…かわいそうに…」
私は、深刻そうな大人達の会話を続ける姿を尻目に、2階の自室の部家へとこもり窓を開け放った。
涙がぼたぼたと、鼻水と一緒にこぼれた。一生懸命、声を殺した。
キョウダイダッタ。
アネガ、アトウトヲタスケヨウトシタ。
ダレカニ、タスケヲモトメルホウホウヲシラナカッタノ。
ダレモ、フタリニキヅカナカッタ。
フタリダケ。
オトウトハ、アネダケニタスケトモトメタノ。
アネハ、ナントカオトウトヲタスケヨウトシタノ。
フタリダケ。
ナゼ。
ナゼ。
ナゼ。
ナマエモシラナイ。
フタリデイッタ。
フタリデイナクナッタ。
涙がぼたぼたと止まらなかった。悔しかった。自分が。皆が。何故。何故…。
泣いている事を誰にも知られたくなかった。
開け放たれた窓から見上げる空は、とても青くて、とてもきれいだった。
そして、私は、2人の話は誰にもしなかった。
私が最後に声をかけた時、2人は怯えていたのかな。
あれから、私は26になった。子供にも恵まれた。
あれから、十数年時が過ぎ去った。
2人の名前を私は知らない。2人きりだった理由も知らない。
ただ、ときどき、本当にときどき、ふいに2人がふとした合間に想い出され、私にぼんやりとした哀しみと優しい痛みでどうしようもない気持ちを与える。
主人が夕飯の買出しの帰りを待っている。
一緒に行くといって聞かなかった小さな体温の高い手をぎゅっと握りしめた。
私は深く、息を吐き出し。空を見上げた。
今日も、独りよがりな自分にも等しく空はきれいで、
私は、きらきらとひかるアスファルトを家へと踏み出した。
試験的に初めて書きました。読んでくれて何か感じて貰えるような文才はありませんが、何か感じて貰えるように出来上がってれば幸いです。
文章はあえて単純に書くよう心がけまし
(飛び入り参加、すみません。皮肉屋の<コア>です。