シスターとリンゴ
「あっれー、いないなぁ。どこに行ったんだろう」
僕は黒い羽根をはばたかせながら辺りを見渡す。美しい街並みが見渡す限り広がっているが肝心のシュリの姿は見えない。しばらく辺りを探して飛びまわていると、家々に囲まれた小さな広場に、これまた小さな噴水が設置されている。その噴水にシュリがひとり腰かけているのが見えた。
「あっいたいた。何してるのシュリ」
シュリが顔を上げる。
「悪魔さん」
「何かうれしそうだね」
「そう?」
空から舞い降りてきた僕に、シュリが微笑む。ちょっと首を傾げて考えた後、頭を下げた。
「一応、お礼を言っておくわ」
「?」
「このティアラ結構、役に立ってる」
頭に乗っているティアラに触れ、微笑む。
「さっきもこれのお陰で喧嘩にならずに済んだ」
「喧嘩…」
確かにあのまま喧嘩になってたらあの町娘どうなってたんだろう。きっと天国のお迎えが……僕はそっとシュリにばれないように目がしらに滲んだ涙を拭う。
「それにね…」
シュリが頬を赤く染めながら笑う。
「神父様も偉いって…うれしいって…」
屈託のないシュリの満面の笑顔。僕は一瞬息を飲んだ。
「…そんな風に笑えるんだ」
「ん?」
「そうやっていると普通の女の子に見える」
「悪魔さん…」
シュリが横に置いてあったリンゴを掴む。
「一言多いいって言われない?」
リンゴが木っ端ミジンコ…じゃなかった、木っ端微塵に砕け散った。
ギャアァァ怒ってるー。
ティアラの勢いよく絞まる音が僕の耳に届く。僕をリンゴのように捻り潰そうとしたであろうシュリが、ほぅっと溜息を吐いた。来るかと思われた衝撃が来ずに僕は拍子抜けしてしまう。
「あれ?」
「まぁいいわ、これから仕事があるから私もう行くわ」
砕け散ったリンゴをそのままに、シュリが立ち上がる。
「仕事?」
「えぇ、一応シスターだからやらなきゃいけないことがあるの」
手を振って去っていくシュリ。一瞬だけこちらを振り返って口元だけの笑みを向けてくれた。やっていることは非人道的なものが多いのに、去り方はやたらかっこいいぞ……って
「まっ…まって~」
僕は転びそうになりながら慌ててシュリの後を追った。




