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シスターと神父

去ったと言っても、契約したからには僕にはしなければいけないことがある。それは、契約主がどうするかを見届けることだ。

どうしよう…怖すぎて近づけない。屋根の上から下をそっと覗き込む。シュリはあまり広くはないが、いろいろな店が並ぶ通りを、店を覗きこんでは少し店員と話をして、ゆっくりと歩いていく。

それにしても、きれいな街だ。道はすべて色とりどりのレンガがはめ込まれ、規則正しい模様が刻まれている。ところどころ青々と植物が葉を茂らせ、ゴシック様式の建物の窓にも植木鉢が取り付けられ美しい花が咲き誇っている。

「こんにちは」

シュリが果物屋のおばさんに声をかけた。

「おや、珍しいね。今日はどうしたんだい」

「ちょっと散歩に。リンゴのいい匂いがするね」

「いいのが入っているよ。どうだい、一個買っていかないかい」

「う~ん。じゃあ一個だけ」

「まいど」

おばさんから手渡されたリンゴの匂いを嗅ぎ、歩き出すシュリ。僕も別の屋根へと飛び移り、シュリの後を追いかける。ふと、シュリの行く先に目をやれば、一人の若い神父が買い物袋を抱えて歩いてくるのが見えた。

げっ神父。当然ながら悪魔の僕は神父が嫌いだ。僕は気づかれないように慌てて屋根にへばりつく。

「おや、シュリ君」

「神父様」

シュリの明るい声。ん?何だ僕と話している時と全然違うテンションだぞ。僕が、恐る恐る屋根の縁から顔を覗かせると、シュリと神父が楽しそうにしゃべっている。

「朝、教会の扉を足破って出て行ったきり帰ってこないから、心配していたんですよ?」

「すみません」

素直に謝罪し、項垂れるシュリ。おぉ、あの神父すごいぞ!あの悪鬼のようなシュリに謝罪させた!

「何かあったですか?」

「いえ、たいしたことじゃありません」

顔を赤らめ、手を振るシュリ。リンゴをもじもじと扱いながら、次の言葉を探して目を彷徨わせる。

「あ…えぇっと…神父様は買いも…」

シュリがやっと見つけた言葉を言い終わる前に、横から伸びた手がシュリの細身の体を突き飛ばす。シュリが見事に顔から倒れ込み、その拍子に手に持っていたリンゴが軽い音を立てて転がる。ぎゃあぁー何て事を!

「きゃぁ、神父様おひさしぶりですぅ」

町娘の明るい声。少し青ざめた顔でシュリを助け起こそうとした手を神父の手を横から掴み、にっこりと笑う。

「今日お昼ご一緒しません?」

「あ…いえ…申し訳ありません。食事は教会で取る決まりがありますので」

明らかに動揺のにじむ声。そりゃそうだろう、目の前で他の女性を突き飛ばすような人と食事なんて行きたくない。何だこの町…女はみんな悪魔のような人ばかりなのか!いい人はさっきの果物屋のおばちゃんくらいか。僕が青ざめていると、シュリがむくりと起き上がった。一瞬にして氷点下まで下がる空気……のように僕は感じた。シュリを中心に吹雪が見える……きっとこれも幻なんだろうな…怖いよ。

「な…に…す」

地獄からのような声でシュリが振り返る。その悪鬼のような形相に僕が叫ぶのと、頭のティアラが絞まり、シュリが叫ぶのが重なった。

「「ぎゃあぁぁぁ」」

空に響く、二つの悲鳴。驚いた小鳥がバサバサっと飛び立った。

「大丈夫ですか、シュリ君」

神父が慌てて、シュリの肩に手を置き心配そうに顔を覗きこむ。シュリは、頭を押さえ少し呻いていたが顔を上げるとぎこちない笑みを浮かべた。

「大丈夫です。すみません、大きな声出しちゃって」

「いいえ。本当に大丈夫ですか?先ほどの悲鳴、尋常じゃありませんでしたよ」

「大丈夫です。起き上がろうとしたら、小指をレンガにぶつけまして」

シュリがあまりにも苦しい言い訳をする。神父が困ったように首を傾げた。

「はぁ、レンガにですか…」

「はい。ですから大丈夫です」

再度、念を押すシュリ。これで押し通すつもりだ。

「…貴方がそう言うのであれば…」

神父が渋々と言った感じで頷くと、シュリの手を取り、助け起こす。

「ありがとうございます」

立ち上がったシュリが町娘の方に顔を向けると、町娘が肩をびくっと震わせて神父に手を振る。

「あ…あの神父様、私はこれで失礼しますね」

さっきの悲鳴にびっくりしたのか、青ざめて走っていく町娘。もしかしたらシュリの恐ろしい形相を垣間見たのかもしれない。

僕は安堵のため息を漏らした。よかったあの人生き延びた…。ふぅっとシュリも小さな溜息を吐いた、どうやら先ほどの怒りは収まったようだ。

神父がシュリの溜息に小さな笑いをこぼす。

「今日はえらいですね。いつもだったら突き飛ばされたことで、すごい形相で怒りだすのに」

「……」

シュリが顔を赤らめて俯く。

「ちょっと嬉しいです」

神父のその言葉にシュリの耳まで真っ赤に染まる。今にも煙を出しそうだ。うわ~、顔真っ赤か…あぁいうのを湯でたこ見たいって言うんだろうな…シュリ、何で赤くなってんだろう?僕は訳がわからずに首をかしげていると、シュリの体がまるでロボットのような妙な動きでピクリと動いた。ゆっくりと神父から離れて後ろに下がる。

「シュリ君?」

神父が荷物を持っていない方の手で様子のおかしいシュリに触れようと手を伸ばした瞬間、シュリが顔を上げ、脱兎のごとく駈け出した。

「ど…どういたしましてぇぇー」

訳のわからないことを口走りながら駈け出したシュリが、地面に転がっていたリンゴに足を取られ見事にこける。

「ふぎゅう」

むくりと起き上がると、転んだことにもめげずに、落ちていたリンゴをひっつかみ再び走り出す。わっ待って~。僕は慌ててシュリの後を追って黒い羽根を羽ばたかせた。

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