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zero gravity  作者: 白烏
1/1

pool

 身体が軽い。


 母親に頼まれた買物の帰り、ぽつぽつと降る雨の中、薄汚れた金網越しに見る夕暮のプールは、何故か僕の心を無性に掻き立てた。

 家に帰り、晩飯を食べている間も、風呂に入っている間も、布団に入った後も、あの妙に蠱惑的な光景が頭から離れなかった。

 耐え切れなくなって家を出た。

 既に日付は変わっていた。夜と云うのは――、視覚に拠って得られる情報が極めて少ないから、他の感覚が昼より鋭くなる。人っ子一人いない街を歩いていると、初夏だと云うのに厭に涼しい風が身体を撫で、雨後に独特な泥臭い匂いが鼻腔を満たした。

 途中、昼間は往来の激しい県道の信号は赤であったが、真夜中の道路を疾走する車も、信号無視を見咎める大人もいないので、小走りで渡った。

 十分程歩いて、プールのある小学校に着いた。二年前までいた学校だ。遠くに見える窓はどれも暗く、一階の非常灯の淡い青緑色だけが、微かに漏れ出ていた。少しその場で逡巡する。しかし、今更引き返すことは出来ない。何故そこまでプールに拘るのか、最早自分でも良く解らなくなっていたが、校門を乗り越えた。

 静寂。風の音だけが聞こえる。何故か鼓動が激しくなる。風の音と鼓動がシンクロして、どっちがどっちか解らなくなる。

 ぽちゃり、と音がした。

 プールサイドである。その場で水着に着替え、少しの間、ぼんやりと佇んでいた。気が付くと、身体が震えていた。

 ゴーグルを嵌め、プールの縁に立ち、飛び込みの姿勢で構える。

 一度深呼吸をしてから、跳躍した。

 着水し、潜ったままプールの真ん中まで泳いで立ち上がると、軽い眩暈を起こす。そこで突然僕は気付く。金網越しに見た時はとても蠱惑的だったプールに、既に何も魅力を感じなくなっていた。あるのはただ、恐怖と後悔だけである。水が怖い。風が怖い。学校が怖い。闇が怖い。――夜が怖い。


 結局十分程泳いでから帰路につく。何故か今日のことは、大人になっても忘れない気がした。

駄文ですが、お許し下さい。

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