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サイドカーに罪を添えて〜理性的な外科医の特権愛〜  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)
cocktail.07 治療

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07-04.


胸が苦しくなって、めまいがしてくる。息を吸いたいのに吸えない。自分の体に何が起きているのかわからなくて恐怖ばかりが膨らむ。

――その時、スマートフォンの振動を感じた。

震える手で必死に取り出すと、めまいで視界が揺れる中、画面に通知されている名前がなんとなく見えて視界が滲む。

感覚の弱まる指で何とか操作すると電話が繋がった。それなのに呼吸が苦しくて上手く声が出せず、伝えられるのは呼吸音だけだった。

すると私の不安を少しだけ和らげる落ち着いた声が耳に届く。


『どうした?』


弘臣さんの声だ。ホッとして、苦しさが僅かに引く。

何とか伝えたい。呼吸音と共に必死に声を絞り出す。


「苦し……っ……」

『今、どこにいる?』

「……っ……家……」

『待ってろ。すぐ行く。電話はそのまま繋いでおけ』


耳元からは何かガサガサ音が聞こえる。

しばらく弘臣さんの声が聞こえなくなると、途端に心許なさが胸に広がって、再び呼吸が苦しくなった。上手く息が吸えなくて苦しい。


「ひろ……っ……」

『何だ?』


すぐに声が聞こえてきて、それだけで泣きたくなる。

耳元からは弘臣さんの息づかいが聞こえた。


『あと少しだ』


何があと少しなのか、苦しさで何が何だかわからなくなってきた。

視界がめまいで揺れるのが気持ち悪くなってきてギュッと目を閉じる。

泣きたいわけではないのに、(もが)きたいほどの苦しさで涙が溢れて仕方がない。

次第に体の感覚が弱くなっていき、うずくまって床に倒れ込んだ。

必死に息を吸おうと頻繁に繰り返される自分の通常とは違う呼吸音だけが耳に響き、冷たい床が体をどんどん冷やしていく。

寒いのに大量に汗をかいていて、頬をツーッと冷たい汗が伝うのが余計に恐怖を煽った。

私はこのまま死ぬのだろうか。怖い。弘臣さん……。

胸を押さえながら体を縮ませて名前を思い浮かべたその時、慌ただしく玄関のドアが開く音がして、滲む視線を向ける。

息を切らすその人の顔が、涙でゆがんで、めまいで揺れて、ハッキリと見えない。


「息が苦しいのか?」


弘臣さんの声だ。

途端に不安な気持ちが緩んでボロボロと大粒の涙が溢れる。

独りで怖かった。苦しい。

そう伝えたいのに声が出なかった。


弘臣さんは私の手首や首元に触れると、自分の着ていたコートを私に掛け、背中を摩る。


「大丈夫だ。すぐ楽になる」


そうは言われても息は吸えないし、体の震えも止まらない。自分の体がどうなっているのかわからなくて、ただただ怖い。


「いいか、ゆっくり息を吐け」


どうやって? 苦しいのに息を吐いたらもっと苦しくなる。できない。

必死に首を横に振る。


「落ち着け。大丈夫だ」


大丈夫じゃない。苦しくて息なんて吐けない。怖くて仕方がない。

こんなにも苦しいのに、どうして弘臣さんはわかってくれないの? 

めまいがして気持ち悪いし、手足の感覚も鈍くて体を支えられない。

弘臣さんの手から逃れて、床にうずくまって必死に息を吸おうとする。

こんな情けなくてぐちゃぐちゃな姿を見られたくない……。

それなのにどうやっても息が吸えなくて、苦しさが増すばかり。

恐怖と闘いながら体を小さく丸めて縮こまっていると、ふと弘臣さんの腕に体を支えられて抱き起こされる。

朦朧とした意識の中で、自分の異常な息づかいの合間にカシャンと何かが乱暴に置かれる音が聞こえた。

刹那、涙で滲んだ視界でもわかるほどに弘臣さんの顔が間近に迫る。


「こんなことで君の心は(けが)れたりしない。……だから許せ」


鋭い瞳に捉えられ、いつもと変わらない静かな声が聞こえてすぐに、弘臣さんの唇が私の唇に重ねられた。


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