06-09.
――……
〈side 皆川〉
涙目で睨む堀田が視界に入り、俺は頭の中で喜多見さんにぼやく。
(喜多見さん、少しはフォローしておいてくださいよ……)
初っ端から堀田に滅茶苦茶恨まれている気がする……。
さかのぼること数週間前、俺は喜多見さんと密かに会っていた。
喜多見さんは俺の先輩で、駆け出しの頃に世話になった人物だ。
「皆川くん、チーフの件、引き受けてくれるって聞いて安心したよ」
「そりゃあ喜多見さんの頼みですから、断る理由はないですよ。でもいいんですか? 『シニア』のスタッフがいるでしょう? 俺、恨まれませんか?」
すると喜多見さんは困ったように笑って目を伏せる。
「そうだね、恨まれるかもしれないね。でもこのまま彼女がチーフになってはダメなんだよ」
「……と言いますと?」
「どういう理由か、ほかのスタッフが彼女に付いてきていないんだ。このままチーフになっても、恐らく彼女にはバースタッフを纏められない。彼女が孤立して苦労することになるだけだ」
「シニアのスタッフって、そんな下から嫌われるような面倒くさいタイプなんですか?」
「うーん……技術は申し分ない。だが、ストイックさが災いして、残念ながら柔軟さや社交性にはやや欠けるかな。それに……今、彼女をチーフにしてしまったら、じきにバーテンダーをやめてしまうような気がする」
俺は喜多見さんの言葉の意味を掴みかねて、首を傾げる。
「やめる? どうして?」
「ゴールに辿り着いてしまうからだよ。彼女の偽物のゴールにね。彼女は数年前まで『世界の舞台に立ちたい』と言っていたそうだ。だが壁を感じているようで、近頃はずいぶんモチベーションが下がっている。東都のシニアになってからは世界を目指すことを諦めて、すぐにでも手が届きそうなチーフの座を目標にしているようだ。でもそれではダメなんだよ」
俺は喜多見さんの言葉から、堀田の実力をある程度把握することができた。
あと一歩突き抜けることができずに壁にぶつかっている。
そしてそれさえ超えられれば、世界に羽ばたける。
そういう実力の人物なのだと。
「なるほど……」
「私の力では彼女を引き上げることはできなかった。でも皆川くんならできる気がするんだ。だから彼女を頼めないだろうか?」
「俺に何ができるのか……」
「君のありのままを見せてやってくれ。それが充分、彼女にとって刺激になる。頼むよ、皆川くん」
……――




