06-08.
軽いノリの明るい表情で私を迎えた途端、皆川さんは私の顔を見てガックリと項垂れる。
「あー、源臣の言うとおりか……」
「何がですか?」
「『きっと泣いてるからフォローしてください』って源臣に言われたんだよ。俺はな、堀田がそんな玉かよって思ってたんだが……そんな玉だったな」
目が赤いことで、泣いていたことに気づかれたらしい。
私は見られたくなくて顔を背ける。
「久我さんとお知り合いなんですね」
「ああ。東都で働くことになったから源臣に報告を兼ねて連絡したんだ。そうしたら堀田と知り合いだって言うから驚いたよ。俺と源臣は元同じバーで働いていた仲間なんだ。年は俺の方が2つ上だが、立場は源臣の方が上だったな」
皆川さんがそう言うと、久我さんは不満そうに皆川さんを睨む。
「上の扱いをしてくれたことなんて一度もなかったじゃないですか」
「そうだったか?」
「そうですよ。文句を言うか、からかうか、ほとんどそればっかりだったじゃないですか。……まぁ、でもそのお陰で、若い俺でもチーフが務まりましたからね。一応感謝してますよ」
「一応ってなんだよ」
文句を言いつつも、久我さんと皆川さんは笑い合う。
ずいぶん仲が良さそうだ。
すると久我さんは私に目を向ける。
「堀田、こんな人だけど、皆川さんからは学ぶことが多いぞ。しっかりついていけ。この人、雰囲気作りのプロなんだ」
「おい源臣、こんな人って何だよ。しかもバーテンダーのプロじゃねーのかよ」
「いや、バーテンダーとしてももちろん素晴らしいですけど、際立ってるのは雰囲気作りの方ですね」
「おー、ずいぶん生意気な口を利くようになったじゃねーか」
久我さんと皆川さんが仲よさそうに話しているのを、私はぽかんと見つめる。
初めて見る、少年みたいな久我さん。
明るくて軽~い感じの皆川さん。
何なのこれ……。
ショックな気持ちも毒気も抜かれてしまいそうだ。
「なあ堀田、座れよ。少し話がある」
皆川さんにそう言われると、ちょっと弛んだ気持ちがグッと引き締まる。
私は話したくありません、という顔を前面に貼り付けて皆川さんを睨んだ。
「別に取って食いやしない。今回の経緯をきちんと説明したい」
「経緯……?」
「ああ。俺がチーフになることになった経緯」
私はギリッと歯を食いしばる。そんなことは聞きたくない。聞いたところで結果は何も変わらないのだから。
俯いていると、弘臣さんが「話してこい」と私の背中を押す。
「えっ……」
「大丈夫だ。君にとって不利益な話ではない」
「……」
「俺も隣で聞く」
弘臣さんにそう言われ、私は嫌々ながらも皆川さんの隣に座る。
そして私の隣に弘臣さんが座ると、早速皆川さんが話し始めた。
「堀田、チーフになれなかったことは残念だったな」
「そ――……っ……」
それをあなたに言われるのは癪だわ。そうは言えずに悔しさを隠して黙り込むと、皆川さんは「まいったな」と苦笑いを浮かべる。
「今回の人事、希望したのは喜多見さんだ」
「えっ?」
ショックだった。
ほかのスタッフとは違って、チーフの喜多見さんとはうまくいっていると思っていた。
それなのに喜多見さんが、私を次のチーフには選ばなかったなんて……。
「そんな……」
つまりは喜多見さんにも好かれていなかったということなのだろうか。
実力なんて認められてはいなかったのだろうか。
シニアとしても、次期チーフとしても相応しくないと思われて――
「握りしめすぎだ。落ち着いて話を聞け」
手を掴まれてハッとする。弘臣さんだ。
「うん……」
ゆっくりと手の力を抜くと、手のひらにくっきりと自分の爪の跡が残る。
あぁ、本当だ。言われるまで気づかなかった。
「ありがとう」と言いたくて弘臣さんの顔を見ると、ジワッと視界が滲む。
ダメだな。1回泣くと際限がなくなってしまう。
口を開くと泣いてしまいそうで、何も言わずに弘臣さんから目を逸らした。
すると皆川さんの話が続く。
「喜多見さんは堀田のことを、こう言っていた。『世界を目指すことを諦めて、すぐにでも手が届きそうなチーフの座を目標にしているようだ。でもそれではダメなんだ』ってな」
ダメ? ダメって何?
「あの……チーフを目標にすることの何がダメなんですか? 私に見合った目標に変えただけじゃないですか」
「見合った、ねぇ。喜多見さんはそうは思ってなかったみたいだぞ。妥協なんじゃないか、ってことだ」
妥協。仮にそうだとしたら、今の私の状況って何なのだろう。その妥協にすら手の届かない私は……。
すると皆川さんの話が続く。
「あのな……喜多見さんは、何も堀田を嫌って選ばなかったわけじゃない。喜多見さんは堀田の成長に期待しているんだ――」
今夜はもう1ページ、キリのいいところまで更新♪




