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サイドカーに罪を添えて〜理性的な外科医の特権愛〜  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)
cocktail.05 情熱的な独占欲

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05-06.


ちょっとした悪戯心だったのに、まさか本当に「行くな」なんて言ってくれるとは思わなかった。

しかもこんなふうに抱きしめながらだなんて……。

弘臣さんの腕の中は心地よく、安心感に包まれる。

6年前のあの朝と同じだ。

思い出してしまった久々のこの感覚に、不思議と泣きたくなって涙が滲む。

でも――


「どうしてこんなことするの? あなたはどうせ――」


恋人を作る気なんてないじゃない。

そんなことを言えば、まるで自分はそれを望んで拗ねているかのようだ。


「どうせ、何だ?」


いつもより間近から声が聞こえて胸が高鳴る。

耳に響く低くて静かな声が心地よくてクラクラしてくる。


「何でもない! とにかく離して!」

「断る」


弘臣さんを引き離そうとするのにできない。弘臣さんの力が強いのだ。

必死に力を込めているのに、平然としている弘臣さんが憎らしい。


「どうしてこんなこと……そ、それに私は、叫びながら情熱的にって言ったの! そんな冷静に言われても……全然叫んでもいないし情熱的でもないから離して!」


無理矢理に理由を付けてでも離してもらいたい。そうでないと、自分からギュッと抱きつきたくなってしまうから……。

すると弘臣さんの腕に僅かに力がこもる。


「君が『行かない』と言えば離してやる」

「何よそれ……同僚だもの。自然とみんなで飲みに行こうってなることがあるかもしれないわ」

「みんなで? 二人では行かないのか?」

「さあ……誘われれば行くかも」

「じゃあ、このままだ」


静かな声とは裏腹に、弘臣さんの腕には更に力がこもって強く抱きしめられる。

私の体中から脈打つような激しい心音が聞こえ、体温がどんどん上がっていく。


「ちょ、ちょっと……」


言葉ではそう言いつつも、腕の中に包まれる幸せに止まりたい自分もいる。

背中に腕を回して抱きついてしまいたい。

でもそんなことをしたら取り返しが付かなくなってしまう。


「ねぇ、弘臣さん、周りの人が見てる!」

「だから君が早く『行かない』と言えばいいだけのことだ」

「そんなの脅しみたいじゃない!」

「言わない君が悪い」

「私は悪くなんかない!」

「行くなと止めてくれれば行くのをやめる、と言ったのは君だろう」

「そ……そうだけど……」


まさか『情熱的に』の部分がこんな方法だとは思いも寄らなかった。


「だったら言え」


なんて横暴なんだ。でも、これは言うまで離してくれそうもない。そして周囲の視線が痛い。


「……わかった。2人では行かない」


途端に弘臣さんはパッと腕を緩める。

ようやく解放されて安堵しつつも、少しだけ温かさをなくした感覚に寂しさを覚えた。

本音を言えば、もっと抱きしめていてもらいたかった。

でもそれはダメだ。

私は恋人でも何でもないのだから。


弘臣さんの腕の中から解放されると、私の顔は酷く熱を持っていた。

未だ心臓は早鐘を打ったままだ。


「さっさと言えばいいものを」


弘臣さんは言葉を投げ捨てるようにしてプイッと顔を背ける。


「どうしてあなたに約束しなければならないのよ……」


そう文句を言いつつも「行くな」と言ってくれたことは嬉しい。

友達でも保護者でもない意味で言ってくれたなら最高なのだけれど……。

そんなことを思いながら弘臣さんを見て気付く。

あれ、弘臣さん、少し顔が赤い? もしかして、自分からこんなことをしておいて恥ずかしかったの? 

珍しく弘臣さんの感情がはっきりと見える。


「弘臣さん?」

「……何だ」

「こっち向いて?」

「断る」


弘臣さんは顔を背けたままだ。

これ……どう考えても照れてるよね。

私はフフッと笑いを零す。


「ねーねー、弘臣さん、熱でもある? おでこを触ろうか? 脈測る?」

「う、うるさい。違う。だいたい君は医師ではないだろうが」

「そうだけど……だって弘臣さん、顔赤いよ?」


私がそう言って笑うと、声にならない声を出して、弘臣さんは怒りだか恥ずかしさだか何だかわからないもので震えていた。


「帰る!」


そう言って帰ろうとする弘臣さんのジャケットの袖を、私は慌ててキュッと掴んだ。


「待って! 弘臣さん帰っちゃうの? もう少しお話ししましょう?」


そう言って弘臣さんを見つめると、弘臣さんは掴まれたジャケットの袖を呆然と見てから、私に目を移す。そしてなぜだかブワッと顔を赤くした。


「し、しない!」


どこにそんなに顔を真っ赤にする要素があるのかよくわからないが、とにかく弘臣さんの慌てっぷりがかわいくて私はフフッと笑う。


「えー、私のこと知りたいって言ってたじゃない。もっとお話ししましょう?」

「もういい」

「ひどーい。ねえ、もうちょっとだけ一緒にいましょう?」

「嫌だ」

「寂しいな。じゃあ、今から五十嵐君と飲みに行っちゃおうかな」

「…………」


結局引き止めに成功した私は、弘臣さんの腕を引いて公園のベンチに一緒に座る。

その不機嫌そうな困った顔がかわいらしくて仕方がない。

こんな顔、ほかの人にも見せるの? 誰にも見せないでほしい。

そんなふうに願いながら今日のことを思い起こす。

弘臣さんと出かけられてよかった。

いろいろな話ができて楽しかった。

弘臣さんを知ることができて嬉しかった。

会えて幸せだ。

いろいろな顔が見られて幸せだ。


「弘臣さん、今日は誘ってくださってありがとうございます」


機嫌良くそう伝えると、弘臣さんの眉間にキュッと皺が寄る。

怒っているというより、困っている顔だ。


「君は……狡い女だな」

「えっ? 狡いって何が?」

「君は楽しそうで、俺だけ……ボロボロだ」


ボロボロ。ボロボロなんだ……。


「じゃあ私も困った顔をすればいいですか?」


そう聞くと、弘臣さんは顔を逸らしたままポツリと呟く。


「……君は、笑っていればいい」


さっきも言っていた。

何なのそれ。

恥ずかしくなってきて私も弘臣さんから目を逸らす。

公園のベンチで互いに顔を逸らして座る私たちは、端からどう見えたのだろう。


ボロボロ(*´艸`)ウフフ♡

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― 新着の感想 ―
ボロボロ( *´艸`) 弘臣さんの不器用さが可愛い(*>ω<*)♡ 独占欲が爆発 2人の関係が進むこと期待です(っ ॑꒳ ॑c)
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