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サイドカーに罪を添えて〜理性的な外科医の特権愛〜  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)
cocktail.05 情熱的な独占欲

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05-01.

文乃視点に戻ります♪


(はぁ……やっぱりかっこいい……)


待ち合わせ場所に立つ弘臣さんを、私は少し離れたところから見つめる。

自然に下ろした無防備なサラサラヘアーは、クラッチバッグを買った時と同じ。

服装は白いシャツにダークグレーのジャケット、ブラックのパンツ。

シンプルだけど、スラッと高い身長と端正な顔立ちが合わさるとベストバランスなのだ。

それにネクタイをしていないから、控えめに緩められたシャツの襟元から、今日も色っぽい喉仏が全開。

私服姿の弘臣さんは、私のストライクゾーンど真ん中だ。

日の光の下で弘臣さんを見るのは初めてで、結構肌白いんだ、とか、ちょっと目の下にクマできてる? とか、髪の色が少しブラウンだな、とか、夜では気づけないことに気づいて、しばしぼんやりと見惚れる。

すると私に気づいた弘臣さんが不機嫌そうな顔で、そしてチーターの如く猛スピードで近づいてきた。


(えっ、何!? じっくり見てたのバレた!? 怒ってる!? どうしよう!)


咄嗟に逃げたくなって数歩下がると、後ろにいた人とぶつかってしまった。


「キャッ……」


バランスを崩して思わず声を上げたところで、駆け寄った弘臣さんに腕を掴まれて支えられた。


「周りを見ろ。しかもなぜ逃げる」

「ご、ごめんなさい……」


掴まれている腕が熱い。弘臣さんのひんやりした手と対照的で、自分の腕の熱さばかりが際立つかのよう。

すると不意に弘臣さんのもう片方の手が私の肩に回され、グイッと引き寄せられる。


(なっ、何なのこれ……)


急に弘臣さんとの距離が近くなって、顔からプシュッと湯気が出そうだ。

そろりと見上げると、弘臣さんは私の後ろ側にいる男性二人組を見ていた。


「あの、ぶつかってごめんなさい」


と私が男性二人組に謝ると、二人は苦笑い。

その間にも、弘臣さんが「行くぞ」と私の肩を押す。

眉間の皺が深い。

弘臣さん、やっぱり怒ってる?


「逃げてごめんなさい」


私がシュンとした声で告げると、弘臣さんがハッとして足を止める。

そして肩に触れる手が離れていった。


「すまない。違うんだ。また間違えた……」

「……え?」


思いも寄らない言葉が聞こえて、私は目をぱちくり。

間違えた? 何それ。


「怪我はないか?」

「あ、はい……」

「そうか。気をつけろ。……行くぞ」


弘臣さんがこんなふうに自分の言葉を訂正することなんてなかったのに……。

何か弘臣さんが変わろうとしているように思える。

どうして急に? 

私は疑問を抱きつつも、弘臣さんの後を付いて歩く。

最初はスタスタと前を歩いていた弘臣さん。

でもすぐにヒールを履いている私に気がついて「すまない。大丈夫か?」と声をかけて歩く速度を落としてくれる。

こういう何気ない優しさにもドキドキして堪らない。


(「大丈夫じゃない」って答えたら、手を繋いだり、腕を組んで歩いてくれたり……しないか)


恋愛偏差値底辺の人に期待しても無駄だろう。


「はい、大丈夫です」



向かった先は『Hotel(ホテル) Kingsway(キングスウェイ) East(イースト)』。

私の勤める東都ホテルにも並ぶ、一流ホテルの一つだ。


「フレンチでいいか?」

「あ、はい……」


ランチって、その辺のレストランかなぁくらいにしか思っておらず、まさかこんな高級ホテルのフレンチになるとは……。

私は自分の服を見下ろす。

キレイめデザインの白のサマーセーターにベージュのとろみパンツ。

ショップ店員任せで少々リラックス感のあるコーデにしたけれど大丈夫だろうか。


「弘臣さん、あの……」

「なんだ」

「そのお店、この服で大丈夫でしょうか?」


そう聞くと、弘臣さんは足を止めて私をじっと見つめる。

そんなに見られると恥ずかしくなってきた。

すると弘臣さんが小さく咳払いをする。


「……か……――い……い……」

「えっ?」


なんて言ったんだろう。またあれかな……『格好いい』。

前にそう言われたことを思い出す。

すると弘臣さんが再び咳払いをする。先ほどより音量大きめだ。


「こっ、個室だから気にすることはない」


なんかちょっと声が裏返ってるけどどうしちゃったんだろう。


「えっ、個室なんですか?」

「ああ」


たかがクラッチバッグを選んだだけで、一流ホテルの個室ランチ。何だか申し訳ない。

ああそういえば、元カノが『久我家の方々は少々金銭感覚がズレていらっしゃるようなので――』と言っていた。

なるほど、と元カノの言葉をまさに今実感する。



「久我様、いらっしゃいませ」


名乗ってもいないのに易々と個室に案内されていく弘臣さんは、まごうことなき常連客なのだろう。


「飲み物はどうする? 酒はダメだぞ」

「それなら……ノンアルコールワインの赤をお願いします」


弘臣さんも同じ飲み物にし、ランチコースのメインをそれぞれ選んでオーダーを済ませた。

オーダーが済むと……気まずい。

自然光の差し込む店内でお互いの顔が見えるのが慣れない。

私はこの状況にも沈黙にも耐えられず俯いてしまった。


「あ、あの……は、話って……?」


そう聞いて弘臣さんをチラッと見ると、弘臣さんは私をじっと見つめてから、目を上に向けて何かを考えている様子だ。

そして――


「君の趣味は何だ?」

「はい?」


趣味? なぜそんな質問を……。


「えっと……今日って私と弘臣さんのお見合いでしたっけ?」

「違う。違うが……その……定石だろう?」

「はぁ?」

「い、いや……何でもない」

「あの、何なんですか? この間から『間違えた』とか言うし、急にランチに誘われるし」

「……すまない」


そのまま弘臣さんは黙ってしまう。

そして沈黙を破るようにテーブルには前菜のオードブルが運ばれてくる。

それを機に、私はモヤモヤをぶつけた。


「あ~、もうっ! 何ですか? 趣味? 趣味なんてありませんよ。全て犠牲にして仕事に懸けてきたんです!」


弘臣さんの意図がわからず半ば自棄になって答える。


「そうか……」


するとまた弘臣さんは黙ってしまった。

私は溜息をついてガックリ。

一体今日はどういう日なんだ。

先が思いやられる。


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