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サイドカーに罪を添えて〜理性的な外科医の特権愛〜  作者: 暁 美雲(あかつき・みくも)
cocktail.04 6年前の夜〈side 弘臣〉

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15/61

04-01.


*-*-*-*-*


〈side 弘臣〉


文乃との初めての電話を終え……俺はガックリと項垂れる。

なんとかランチに誘うことに成功したが、無理矢理だった気がする。文乃が嫌そうだった。

俺は人を喜ばせることが苦手だ。

どちらかというと怒らせ、悲しませることが多い。


(どう考えてもデートではないな……)


電話で文乃を泣かさなかっただけマシだと思うことにする。

俺は文乃の涙が嫌いだ。嫌でもあの夜を思い出すから――



6年前、海外での臨床研修を終えてすぐの頃に出会ったのが、堀田文乃だった。

最初に会った時の印象は、『安定感のある顔』の、典型的な夜の女。

それが、話していくうちに知識は深く、探究心もあり、話すのも聞くのも上手い。

気が強そうなこの人は、知的で聡明な人だとすぐに意識が変わった。

こういう人物は俺にとって好ましい。有意義に話をできるからだ。

8歳も年下だが、いい友人関係を築きたいものだ。

その時はそう思っていた。


そんな彼女が俺の弟・源臣に向ける視線は、鈍感な俺でもさすがに気付くほど、熱のこもったものだった。

だが源臣には心から大事に思う相手・澪がいる。


(かわいそうな女だ……)


どんなに想っても文乃の思いは届かないのだろうと、俺は客観的に眺めた。


そんな憐憫のまなざしを向けていたのに、酔っ払って眠気と闘っている俺を彼女が押し倒し始めた時には、我が目を疑った。

知的で聡明で一途だと思っていた彼女は、まさかの誰とでも寝る尻軽女。

確かに見た目が華やかで、さぞかし男にモテてきたのだろう。

そして手際よく酔っ払った俺の世話を焼くぐらいだから、男にも慣れているに違いない。

同情して損をした気分だ。

せっかくいい友人関係を築けそうだと思った相手が、碌でもない女だったなんて……。

文乃のイメージがガタガタと崩れ始めると、俺の内に湧き上がったのは苛立ちだった。

さあ、俺に跨がるこの女をどう処理すればいいだろうか。


①すぐさま突き飛ばして追い出す

②罵倒する

③セクハラで訴える

④眠くて面倒だから適当に相手する


俺の現在の欲求は、食欲0、性欲1、睡眠欲9だ。

本能に従うならば、睡眠欲一択。①か④を望む。

さて、どちらにしようか。

そんなふうに考えていた刹那、文乃の声が耳に入った。


「ねえ……私を抱いてください。――『久我さん』」


俺の処理能力が一気に限界値に到達。

フリーズした。


だが3秒後には再起動。


(おい、ちょっと待て。誰を見てるんだ……)


いや、『誰』なんて愚問だ。

この女が『久我さん』と呼ぶのは源臣だ。

再び俺の頭の中で高速処理が始まる。

やがて一つの答えに辿り着く。


(ほぉ、そういうことか。さっきから似てるだの何だの言うと思ったら、俺を源臣の身代わりにする魂胆か……)


想像以上に碌でもない。

似た顔なら誰でもいいのか。

身代わりの男と寝る女。

気に入らないな。

随分虚仮(こけ)にされたものだ。

そう思うと今度は本格的に腹が立ってきた。

突き飛ばしてこの場から去ればいいものを、意味不明な衝動が湧く。

この女をどうにか俺に向かせたいという、執着なのか意地なのかが唐突に強く湧いて、文乃を逆に押し倒した。


(さあ、俺を見ろ)


それでもなお『久我さん』と俺を呼ぶこの女。

憎しみを込めて指に口付ける。噛み付いてやりたいくらいだ。

それなのに未だ恍惚とした表情を浮かべる目の前の女を、俺はどうにかして振り向かせたくなった。

だからどこか遠くを見る瞳に向かって呼んだのだ。


「文乃」


ふざけるな、こっちを向け。ちゃんと俺を見ろ。俺は源臣ではない。

支配欲なのか独占欲なのか、何なのかわからない欲求を満たしたくて仕方がなかった。

女なんていらない。結婚なんて望まない。

そう頑なに思っていた心の中に、この痛々しくて生意気で勝手な女が無理矢理入り込んでくるかのよう。

すると今度は文乃がフリーズ。目を見開いて固まった。

そして次第に目を潤ませ……しばらくすると一筋の涙が文乃の頬をツーッと伝う。

やがてそれは大粒の涙となって次々と溢れ出し、文乃は顔をクシャッと歪めて泣き始めた。

ここでまた、俺の処理能力が限界値に到達。


(なぜ泣く……?)


落ち着け……落ち着け……。

必死のクールダウンの末、俺のCPUが回復。


(何だこれは……。俺が泣かせた? 泣かせたんだな……)


グッと喉が詰まるような感覚に困惑が募っていく。

そもそも抱いてくれと言ったのはそっちじゃないか云々と、頭の中は文句で満ちていく。

ずっと強気な姿勢を見せていたはずの文乃が、弱々しく涙を見せる。

強いのか弱いのか、どちらが本当の文乃なのかわからなくなった。

男に慣れていて、誰とでも寝るような女ではないのか? 

身代わりにほかの男と寝るような図太い女ではないのか? 

そこでハッとする。

俺は人を怒らせ、悲しませることの多い性分。

まさか……。

その瞬間、サーッと頭が冷えていく感覚がした。


(俺は……何か間違えたのか?)


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