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※本作は、他サイトにて別タイトルで公開していた作品を、コンテスト応募にあたり大幅に改稿・ブラッシュアップした、完結済みの作品です。
※この作品ではお酒を取り扱っていますが、20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
普段より丁寧にメイクをして、時間をかけてコーディネートした服を着て出掛ける、水曜の夜。
店のドアベルが澄んだ音色で私を迎え入れると、目に映るのは、いつもの席で待つ彼の横顔だ。
「弘臣さん、こんばんは」
「ああ、来たか」
外科医の彼と、バーテンダーの私。
この店で偶然出会い、失恋の苦しみから逃れるために彼を『身代わり』にした、あの夜から6年。
私たちの時計の針は止まったままだ。
秘めた罪を背負ったまま、私は美しいオレンジ色のカクテル『サイドカー』を口に含む。
甘酸っぱい爽やかな味が口腔内を満たし、芳醇でフルーティーな香りが私の鼻腔を蕩かす。
カクテル言葉は『いつもふたりで』。
(このカクテルをいつか一緒に飲めたらいいのに……)
進まない関係を憂う私は、いつもこのカクテルに密かに願いを込める。
「どうかしたか?」
「……いいえ、別に何でもありませんよ」
歪だけれど温かで愛おしい水曜。
それが私たちの日常だった。
――あの事件が起きるまでは。




