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 「荒井真美?」

次の日、僕は冴織に昨日あったことを全て話した。今日は簪で髪を束ね、赤縁眼鏡をかけていた。冴織は腕を組む。

 「でも彼女は自分の事をマキって言うんだ。」

おはよう、と麻弥が近づいてきた。今日は花柄のワンピースと白手袋をまとって。

 「ねえ、荒井真実って卒業生知ってる?」

 「いつの卒業生?」

 「12年度。」

 「居たはずだよ。でもちょっと待って。」

麻弥は籠バックから携帯を取出した。

 「この子、人の名前を覚えるのが得意なの。授業中は暇だからって、電話帳や歴史の人物を見て覚えてるんだって。」

 「はあ。」

毎度このクラスメイトには驚かされる。僕は誰かを驚かせるような特技は何一つ持っていない。

 「んー。って事は、彼女はいつ死んだのかしら?」

 「どう言うこと?」

ズレた眼鏡をクイと上げる。

 「私が彼女の写真を見たのは2001年の文化祭。卒業写真にも写ってるって事は、00年卒業写真の撮影時まで生きていた。」

 「でも君の部活に置いてあるアルバムには『アキコ』って。そこに写る彼女は霊で、名前を教えてくれなかったからアキコと名付けた。」

 「そう。と、すると卒業写真は前撮ったものを使い回した。もしくは…」

 「もしくは?」 

 「部長が生きている彼女を死んでいると偽った。」

 「……だとしても、彼女が死んだことは代わりがない。」

 「いたいた、荒井真実。」

麻弥は未送信メールを僕等に見せた。そこにはズラリと人の名前が記されていた。

 「面白いことに、」

麻弥はゆっくりとスクロールする。僕等は驚き、顔を見合わせた。

 「石川真紀(まき)と……山田晃子(あきこ)。」

カラーコンタクトを入れた青い目が悪戯に微笑む。

 「これって何か関係あるよね?」

興奮した冴織が顔を近付ける。

 「わからない。単なる偶然かもしれない。マキもアキコもありふれた名前だから。でも…」

 「でも?」

 「調べてみる価値はあるかも。」



 僕等は朝の出席が終わると麻弥はパソコン室に、冴織は図書室、そして僕は昨日行ったあの場所へと向かった。小さい頃、隠れ基地を作った時のように胸が高まった。今までの僕とは思えないほど、生き生きとして。僕は、昨日の場所へとむかった。だが残念な事に、昨日行った教室には鍵が掛かっていた。僕はそのまま美術室へと向かう。授業中の教室を通り抜けて行くのは、何だか気が引けた。今日は美術準備室の扉が開いていて、先生が机に向かって作業をし、女子が一人、黙々となにかのデッサンをしていた。

 「あの、すみません。」

担任はいつもの笑顔でどうぞ、と中へと招き入れた。

 「僕も数学は好きじゃなかった。」

はじめの一言に、なんのことか検討もつかなかったが、今日の一限が数学だと思い出した。

 「物事を理屈で考えてる感じがしてね。」

僕が授業をサボっている事をなんも咎めない。

 「先生、お願いがあるんです。昨日のあの場所、開けてもらえませんか?」

 「アルバムならここにあるよ、全部。」

担任は僕が何を企んでるかはお見通しの様で、棚を開け、ズラリと並んだアルバムを僕に見せた。

 「どうしてアルバムが見たいってわかったんですか?」

 「僕だったらアルバムから探すからね。彼女が気になるのであれば。」

なんでもお見通しという口ぶりの担任。ははっと苦笑しつつ、早速12年度のアルバムを見つけだすとその場で開いて昨日の写真を探した。


 おかしい。


昨日みたはずの写真には荒井真美の名前がちゃんとあるのに、写真が彼女ではなかった。慌てて山田晃子と石川真紀の名前と写真を探したが、山田晃子はD組の担任で、真紀はF組の、ただの女子だった。僕は最後のページにある卒業生の住所一覧をみた。しかし表紙があるだけで後は全部抜き取られていた。

 「あの、住所一覧は」

 「つい最近個人情報について厳しくなっただろう?それ以来学校にある住所一覧はみんな取ってしまったんだよ。」

 「…そうですか。」

僕はゆっくりアルバムを閉じ、元の場所に閉まった。女子がデッサンする鉛筆の音がよく聞こえる。昨日みたアルバムでは確かに彼女が写っていたのに。あれは幻覚だったのだろうか?礼を言って図書室に向かった。図書室には既に冴織と麻弥が居た。何も言わず、僕は彼女たちの向かい側の席に着く。

 「先ずは圭吾君から」

冴織が仕切る。

 「昨日行った場所には鍵が掛かっていた。担任の所に言ったらアルバムを見せてくれたんだけど……」

 「けど?」

 「それが…写真が違っていたんだ。真美の写真が。住所一覧は個人情報保護により抜き取られていた。」

そう、と冴織が呟く。

 「次、あたしね。ネットで三人名前を検索してみたの。予想はしていたんだけど、生徒の名前はヒットしなかった。でも、先生の名前はヒット。今は鳥取県にある学校の先生をやってるみたい。そこのホームページに書いてあった学校のメールアドレスはメモしてきたよ。最後に麻弥。」

 「8年前付近に学生が死んでないか、新聞記事から探したの。でも無くって」

三人は肩を下ろす。

 「やっぱ、あの教室にあるアルバムが気になる。」

 「でも先生があそこの鍵を貸してくれそうにないわね。」

僕はうなずく。

 「鍵は私が何とかする。」

麻弥が携帯を開き、メールを打ち出した。

 「じゃ、あたしは晃子先生がいる学校にメールしてくる。」

そういって冴織は立ち上がり、図書室を後にした。僕は何か出来るわけでもない。でも何かやらなきゃいけないと思い、写真部へと向かった。僕等は彼女に執着する理由なんてなかった。ただ、なんのために学んでいるのかわからない勉強に時間を費やすより、断然こっちのほうがやる気も出るし、興味が湧いた。それと同時に、勉強をしていない自分に少し焦りや罪悪感を感じていた。皆が勉強しているのに、うちのクラスでは勉強している人なんて限られているし、自分もそんな環境に甘えているような気がして、苛立ちを覚えるようになった。だからと言って、自主的に勉強する気にはならないのだけれども。


 僕は写真部の扉をノックした。中から返事があったので少し驚いたが、失礼しますと言って中に入った。中には脚を組み、ジャンプを読んでる男子がいた。

 「新人?」と、こっちには目を向けず、気怠そうに話し掛ける。

 「いえ、冴織さんのクラスメイトの藤川です。ちょっと写真が見たくて。」

今度はチラリと僕を見て、また漫画に視線を戻す。

 「あの、アキコさんの写真、見せてもらっていいですか?」

彼は漫画に目を向けたまま、片手で棚をあさる。黒いアルバムを掴むとそれを引っ張り、無言で手渡した。バタバタと積み重なっていたアルバムが崩れる。お礼を言って、僕は一枚ずつ写真を確認した。何か手掛かりがないか。写真の背景はどれも校舎内で、年や日付が変わっても、写っている彼女は変わらぬままだった。笑顔の写真は、一枚もない。

 「あの、このアルバムに書いてある名前、写っている人の本名じゃないんですよね?」

 「らしいね。」

 「この女子のこと、何か知りませんか?」

 「全然。」

 「じゃあ、アキコって名付けた人の名前は?」

 「さあ。だいぶ前の部員だから。」

 「そうですか。」

男子は相変わらず漫画に夢中で、僕は写真をただ眺めた。

 「そう言えば。」

漫画を読み終え、ジャンプを閉じ、僕をまじまじとみる。

 「その写真を撮ったひとかは解らないが、当時の部員が渋谷にある小さな写真館で働いているらしい。確か名前は……kunio、だったっけな。ローマ字でkunio。」

 「kunio、ですか?ありがとうございます!」

僕は急いでパソコン室へ向かった。何か、何か解るかもしれない。階段を駆け上がり、踊り場に着いたとき、


彼女が上の階段に座っていた。こちらをじっと見る。

 「びっくりした。」

彼女は何も言わない。

 「君のことが、解りそうなんだ。今から調べに行くところ。」

ただ黙って、こちらを見つめる。

 「君の本当の名前は荒井真美だろ?」

彼女は黙って首を振る。

 「でも、昨日見たアルバムの写真には、そう書いてあったんだ。」

 「イシ……マキ。」

彼女はボソリと呟く。

 「石川真紀?」

今度はうなずく。

 「さっき美術室にあるアルバムを見たけど、君ではなかったよ?」

首を振る。

 「君はいつ死んだの?」

彼女は片手を開き、僕に見せた。

 「五年前?」

彼女は首を振る。

 「え、じゃあ。」

上から階段を降りてくる音がし、彼女はフッと姿を消してしまった。それと同時に目の前に冴織が現れた。

「いま、居たよね?!」

冴織が興奮した声で僕に尋ねた。と、同時に僕の携帯が鳴る。麻弥からだ。

 「もしもし?」

 『あ、圭吾君?私、麻弥だよ。鍵は今日の放課後には手に入りそう。そっちは?』

冴織に目をやる。冴織が手を出したので電話を渡す。

 「もしもし?麻弥?こっちはやることやったよ。……うん、うん。…わかったじゃあ今からそっちに向かうから。じゃあコモンスペースで…」

 『あれっ・・・』

 「どうしたの?」

 『彼女が現れたッッ』

 「うそっ、凄いじゃない」

冴織が突然大きな声を出す。話の内容がよくわからない僕はただただ黙って冴織をみつめた。

 『でもまって、何か様子が変なの。スッゴい私を睨んでる。』

 「え?」

 『ザ───』

僕の耳にも聞こえるほど、大音量の砂嵐の音。

 「もしもし?麻弥?麻弥??」

電話が切れた。 

 「麻弥に何かあったみたい。」

 「今どこに?コモンスペース?」

 「わかんない。多分図書室から動いてないと思う。」

僕等は急いで図書室に向かった。冴織は走りながら電話の内容を僕に伝える。


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