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エピローグ


 私が初めて担当した事件のことを、今でも覚えている。

三人家族殺人事件、そしてそこに秘められたもう二つの家族。


 最後の菊の花束を供え、手を合わせる。

ジワジワと蝉が鳴く。

 「アッチーな。」

暢気な田中。彼は毎回、この墓参りについてくる。

 「ほんとね」

じゃあ、と別れを告げて、彼等の墓を後にした。長い階段を降り、田中が運転する車に乗り込んだ。ブルル、と音を立てて車を発進させる。

 「・・・なあ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねーの?」

田中はいつもこの事件の真実を知りたがる。私はこの真実を墓場まで持って行くつもりなんだけれども。

 「うるさいなー。そんなに知りたければ教えるけど、後悔しても知らないわよ?」

 「お前とこうやって休日を過ごすってだけで後悔・・・なんでもありません。教えて下さい、木田様」

 「ホンッット、調子いいわねーあんたって人は。」

たばこ火をつけ、ふうっと一息つく。

 「むかーしむかし、あるところに双子の女の子が生まれました。」

 「いや、フツーに話してくれていいから。」

――うるさいわねー。・・・・その双子はとても可愛らしい女の子で、真美と真紀と名付けたんだって。でも幸せは長くは続かず、父親は新しい女性と出会い離婚。その後真美は母親の手で、真紀は父親の手で育てたんだって。でもこの父親は最悪でね。真紀達が9歳の時また外で新しい女を作って。しかも今度は相手の女性を孕ませて10歳の時に一人の男の子が生まれた。名前は圭吾。器用な父親は二つの家庭を往き来し鼎談だけど、知っての通り、真紀達が高校に上がると出会って・・・ってあとはわかるわよね?で、真紀は死んだ。何も知らない圭吾と不倫愛の女は幸せに暮らしていた。

 真美はその後、ソープ嬢になり、身を男共に捧げた。自分の身体を売って大金をかき集めた。その金で一人の女性を買ったのよ。


 「え?レズだったわけ?」

 「違う。」


――父親好みの、不法入国したフィリピン女性を。そして真美はこういったわ。

 「あなたを自由にしてあげるから、この男(父親)と結婚して。」ってね。

 圭吾が中学生の時、馬鹿な父親は真美の手にまんまとハマリ、フィリピン女性と結婚した。そしてまた、一人の女の子を授かった。圭吾達の家から逃げ、中慎ましく三人で暮らそうとしていた。

 でも、それが真美の本当の狙い。彼女は父親、フィリピン女性、そして幼い女の子を殺した。圭吾の方は――昔真紀の彼氏だった浮野(うきの)って男に殺されかけた。



 「・・・コレが真実よ。」

短くなったたばこを消し、新しいたばこに火を付ける。

 「そりゃまた。父親はとんだプレイボーイだな。」

 「ホントに。」

 「そういえば圭吾だっけ?そいつは生きてるのか?」

 「わからない。ただ、事件があった病院のベッドには浮野の血ではないものが大量にあった。でもその血はベッドの上だけで地面にはなかったのよ。まるで神隠しにあったみたいに。容疑者の男性も、真美も一向に口を開かないし。」

 「へえ。・・・って事は、まてよ・・・今誰が生きてんだ?」

チラと横目でみる。危ないか等前を見て運転しろと小突く。

 「圭吾は行方不明。真美と浮野は独房で自殺。当時のことを知るのはこの私だけ、かな。」

 「ふーん。結構詳しく知ってるね?」

 「まあね。当事者ですから。」

キキーッと音を立てて急ブレーキをかけた。アブネーな、クソ!と思わず口走る。

 「は?どういう事?」

 「だから。当事者。つまり一番始めに真美真紀、そして圭吾の父親に手を出したのはこの私。」



 幼なじみの彼とばったり出会わなかったら。

多くの命が救えたのに。

私はこの仕事を通して、行方不明の圭吾を探し、

謝りたい。


 真美、真紀、そして愛する貴方。

 貴方を愛した女性達と小さな女の子。


 ごめんなさい。


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