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愛人ばかりを愛する御曹司と婚約することになったわたしは神様に頼んで全てを断ち切ってもらうことにしました  作者: 夏草枯々


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16.ドライブ

改まって誘われるドライブなんて初めての事で、わたしは返事もせずに固まってしまう。


「ん?」


「……はい。すぐに準備します」


 化粧をしながら今日はどういう風の吹き回しなのだろう、と考える。

 何かお父さんから言われたのだろうか。

 準備をしてから玄関の方に向かうと、至留からの提案で村の方に向かう事になった。


「紅とこういう時間をちゃんと取ってなかったからさ」


 今更、と言いそうになりシートベルトを強く握った。

 折角ドライブに誘ってくれたから、と自分に言い聞かせて苛立ちを腹の奥に押し隠す。


「ありがとうございます」


「うん」


 それから断ち切り様の祀られている神社まで至留となんの会話も無かった。

 あっという間に流れていく景色を眺めながら、なんの時間だろうと思った。


「ここの神様は本物らしいよ」


 至留が鳥居に続く石段の方へと向かって、ずんずんと先を進んでいく。わたしはその後を慌てて追った。


「突然、知らない人になるっていう文献が残っててな。元はと言えばタチキリ様より持っていた刀の方が有名だったんだけど伐韴剣(バツフツノツルギ)って言う。名前もそっちが由来で、断ちに、人を斬るの斬る。で、断ち斬り様」


「へー」


「……やっぱり、女はこういう地味なのに興味ないか」


 階段の先からわたしを見下ろし至留は眉を顰めて呆れたように笑った。


「すみません」


 不快にさせたようなので取りあえず頭を下げておく。

至留は鳥居を一度見上げてから「まぁ良いか」と呟いて足をこちらに向けた。


「興味無いみたいだし村の方を歩こうか」


至留はわたしをじっと見たあと大股で階段を降りて行った。


「紅の運動にもなるだろ」


 わたしは運動しないといけないほど不健康に見えたのだろうか。見られたとしたら昨日のことだろうか。考えれば考えるだけ気分は落ちた。

 しばらく至留の後を追って早歩きを続けていると、


「あれ、栄香さん」


 自転車のブレーキ音と共に名前を呼ばれて立ち止まる。

 振り返ると自転車に乗った制服姿の光くんがいた。

 先程まで熱くて服の中が蒸れていることが不快で仕方なかったのに、光くんを見た途端にすっと熱が引いて涼しくなった気がした。


「光くん!」


「だれ?」


 後ろから至留の声がする。

 一瞬、体が勝手に強張った。

 でも、言い方から怒っている感じではなかった。普通に光くんに興味があっただけかもしれないと思い、気を取り直す。


「光くん。ここに来た時、村長さんに頼まれて村の案内をしてくれたの」


「へー学生?」


「うん。高校生なんだって」


 至留は「そう」と顔を逸らした。


「散歩ですか?」


「うん。運動も兼ねて」


 光くんは「へー」と言いながら眉尻を下げた。揺れる視線に、わずかな心配が混ざっているのが分かる。


「今日、暑いので体調には気を付けてくださいね」


「うん。ありがと」


「じゃあお邪魔しても悪いので俺はこれで」


 自転車を漕いで離れていく光くんの姿を見送った。

 至留の方に目をやると至留もわたしの方を見ていた。

 いつの間にかすぐそばにいて、見上げる形になっていた。


「……あの年のガキって節操がないし、何をしでかすか分からないから近寄らない方が良いよ」


 至留の表情はいつも通りで平静を保っているつもりなのかもしれない。

 それでも声には怒りが滲んでいた。

 何かしてしまっただろうか。

 わたしは光くんの弁解をしようと「でもっ」と口を開く。


「なに?」


 至留が眉をひそめて口元をへの字に歪ませていた。

 ここまではっきりと言われたのは初めてだった。

 至留の刃物のような視線から逃れるようにわたしの目線は下へと落ちていく。


「……はい」


「散歩も行かなくて良いでしょ。何もない村だし、別に家から出る必要もないよね」


 言い切られたその言葉にわたしは頷くしかない。

 帰りの車内は息が詰まり、ずっと項垂れていた。

 至留は先ほどから何も言わないまま眉間にしわを寄せている。

 いっそ全部何がダメだったか言ってくれた方が楽になれるのだろうか。

 知らない。分からない。見たくない。

 わたしは強く言い聞かせ自分の腕を握り指に力を込めた。

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