表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/68

とびきり可愛いカフェスペシャル

長い時間走って、やっとショッピングモールに辿り着いた頃には、僕たちは完全に息が上がっていた。スジンの母親から距離を取れたことで、ほんの少しだけ安心できた。


スジンの顔を見ると、少し汗をかいて赤くなっている。体が小さいから、こんなに走るのは大変だったんだろう。彼女はスマホを取り出して、僕にメッセージを送ってくる。


「ごめんね、走るの苦手なの」


僕もスマホで返す。


「大丈夫だよ、僕もプロのアスリートじゃないし」


するとスジンの顔が一気に真っ赤になり、じっと僕を見つめてきたかと思えば、そっと手を差し出してきた。驚きを隠せなかった。最近は少しずつ心を開いてくれていたけど、まさか人前で手をつなぐなんて…。


心臓がバクバクしてる。けど、ここで躊躇うわけにもいかない。僕はそっとその小さな手を握った。柔らかくて、繊細で…自分の顔は見えないけど、顔が赤くなってるのがわかる。


そのまま歩きながら、少しずつこの状況に慣れようとする。ふと横目でスジンを見ると、彼女も頬を染めながらも、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


その瞳に見入っていたら、彼女が指さした先に目をやる。どうやら気になるカフェがあったようだ。落ち着いた雰囲気で可愛らしい店構えだった。


「…ああ、なるほど」小さく呟いた。


数歩進んでカフェに入ると、受付の女性がにこやかに迎えてくれた。ショートのウェーブがかった髪に、ほんのりオレンジがかった瞳。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」

そのまま自然な手話を交えながら、声に出して続けた。

「いつものお客様ですね。でも今日はお連れ様がいらっしゃるみたいで、ふふっ。」


その言葉に気付いて、僕たちはまだ手をつないでいたことにハッとする。そして反射的に手を離した。


「大丈夫ですよ、お二人で楽しい時間を過ごしに来たんですよね?ご注文を伺ったら、テーブルまでお持ちしますね〜♪」


「え、えっと…僕はコーヒーとブラウニーを二つお願いします。」


「かしこまりました。彼女はいつもの“猫スペシャル”でよろしいですか?」

受付の女性はにこっと笑う。


スジンは急に気まずそうな顔をして、視線を逸らした。


「え?知らなかったんですか?毎日“猫スペシャル”を注文されるんですよ。猫の形のホイップクリームが乗ったカプチーノに、チョコレートと猫のクッキーでデコレーションされた可愛いセットなんです♡」


彼女の手話が進むたびに、スジンの顔がますます赤くなる。最終的にスジンは「コーヒーで」とだけ伝え、照れながら足早にテーブルへ向かった。


「…あら、気に障ったかしら。てっきり、お気に入りのものを共有したいって思ってるのかと。」


まぁ、あんなに可愛らしい子なら、それくらい好みでも全然不思議じゃない。恥ずかしがることはないのに。


僕はレジで少し準備を整えたあと、スジンの元へ向かう。彼女は机に顔を伏せてじっとしていた。今日の出来事を色々振り返っているのだろう。僕は無言で隣に座り、そっと髪を撫でた。


しばらくして、スジンがゆっくりと顔を上げ、スマホで文字を打ち始める。


「昔は、他人にとって退屈な存在になるのが怖かったけど…今はそれより、“子供っぽい”って思われる方が嫌かも。」


僕はすぐに返事を打った。


「なんで?可愛いものが好きって、別に悪いことじゃないよ。だからって子供っぽいとは思わないし。むしろ僕はそういう君がすごく好き。今まで出会った中で一番可愛いし、君がそのままでいてくれるのが嬉しい。」


彼女の反応は少し複雑だった。嬉しそうだけど、戸惑いもあるみたい。そして次のメッセージが来た。


「…たとえ将来、可愛くなくなっても、私のこと…愛してくれる?」


紫色の瞳でまっすぐ僕を見てくる。


な…なんでそこで“愛”って言葉を使うんだ!?でも、今さら引けない。正直に向き合わなきゃ。


「…前にも言ったけど、君と一緒にいると心が穏やかになるんだ。君の抱きしめ方、すごく温かくて気持ちいい。たとえ見た目が変わっても、君の素敵な人柄は変わらないよ。」


スジンは両手で真っ赤な頬を押さえ、嬉しそうに目を閉じて笑った。


この会話が今後の関係にどう影響するかは分からないけど、少なくとも今は、彼女の笑顔を見ることができてよかった。


だから、話題を少し変えて、スマホにこう打った。


「そういえば、クラブの子たちのこと、どう思う?」


しばらくして、彼女が返信する。


「ソフィアはすごく優しくて気が利くよね。最初、言葉がうまく話せないことを知らなかった時はちょっと不思議な子だと思ってた。でも、あんなに一生懸命、自分とお母さんの環境を良くしようとしてて、感動したよ。それに…あの子がクラブを作ろうって言わなかったら、あなたと出会うこともなかったから、感謝してる。」


僕の印象ともほとんど同じだ。まあ、クラブを作るまでには色々と面倒なこともあったけど、これからもまだまだ大変になるだろう。でもそれは未来の僕に任せよう。


続けてジェニファーの話になる。


「ジェニファーもすごくいい子だよ。しょっちゅう抱きついてくるし、いっぱい写真撮ってくる。いつも“かわいい!”って言ってくれるから、ちょっと照れるけど、やっぱり嬉しい。」


…ここは少し僕と違うかもしれない。ジェニファーとは最初の印象があまり良くなかったせいか、あの子だけはちょっと苦手だ。なんというか、こっちの忍耐力が試されるというか。


でも、僕は微笑んで返信した。


「仲良くなれて本当によかったね。2人のことをそんな風に思ってくれて、僕も嬉しい。」


またメッセージが来た。


「友達を作るのって、思ってたより簡単なんだね。全部が明るく見える。…最初は、クラブにいた誰かがあなたの彼女かと思ってたし、もしくは…ハーレムを作るつもりかと…」


…は? ちょ、待て。どうしてそんな発想になる!?

確かにみんな綺麗だけど、僕にそんなモテ要素なんてないし、ハーレムなんて器じゃないよ。


そこで僕は訊いてみた。


「…今は僕のこと、どう思ってる?」


少し長い時間がかかった。そして、答えが来る前に注文が届いた。


さっきの受付の女性が、やさしい口調で話しかけてくる。


「は〜い、ネコスペシャルと…ウサギスペシャルお持ちしました〜♡」


机に置かれたのは、猫とウサギをモチーフにした可愛いカプチーノ。ホイップクリームとチョコで飾られていて、クッキーも動物型で、甘い香りがたまらない。


スジンは「違うって言いたい…」って顔をしながらスマホを構えようとする。でもその前に僕が手を挙げて制止し、こう書いた。


「大丈夫だよ、注文ちょっと変えておいた。僕も可愛いの好きだし、君の好きなもの試してみたかったんだ。」


その言葉を読んだ瞬間、スジンの顔がぱっと明るくなった。その笑顔がまぶしいほどに綺麗で、紫の瞳が優しく輝いていた。


そして、ようやく彼女が僕の質問に答える。


「あなたはいつもみんなを驚かせてくれる。どんな時も諦めずに、ちゃんと答えを見つけてくれる。そんなあなたに選ばれて、私は今、世界で一番幸せです。」


スジンはスマホを取り出し、注文の写真をたくさん撮って、それから僕と一緒の写真も何枚も撮った。


…いつか、この“すれ違い”についてちゃんと話さなきゃいけない。でも今は、もう少しだけ、この笑顔を見ていたいと思った。

もし今週、作品の閲覧数の傾向に良い結果が見られなければ、しばらくの間活動をお休みするかもしれません。

その間に頭を整理して、もっと力を入れて再開できるようにしたいと思っています。

まだ「面白いものを届けたい」という気持ちはありますが、もしそれが難しいなら、一度立ち止まる方がいいかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ