ある病院の看護師
ちょっとした怪我をして一週間ほど入院した僕は、退院するときに、夜中に何度かお世話になった看護師さんにお礼を言おうとした。
だがその看護師は夜勤でしか入っていないらしく、姿が見当たらなかった。仕方なく別の看護師さんにお礼を伝えてほしいとお願いすることにした。
するとその看護師は、こんなことを口にした。
「……この病院に、そんな名前の看護師はいませんよ」
そんなはずはないと僕は何度も説明するが、どうやら本当にいないらしい。
病院というロケーションもあり、ひょっとして幽霊なのかと背筋に冷たいものが走ったが、しかしお世話をしてくれただけなのだから別に怖がる必要もないなと思い直した僕は、病院をあとにするときにペコリと頭を下げた。
その日の夜、病院の院長は看護師から話を聞いて顔をしかめた。
そしてため息とともに言葉を吐き出す。
「まったく、過労死してもまだ働くなんて。病院が呪われたと嘆くべきなのか、人件費が浮いたと喜ぶべきなのか、分からんな」
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