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8、無知


「いいか、カナン。お前の母親は病気なんだ。治すのには金がかかる。だがお前たちは他に身よりもなく、住むところだってこの俺が善意で置いてやってるんだ」

「はい。旦那様」

「まだ男のモノは入れられんだろうが、貴族の血を持つ子どもとして、お前と寝たがる老人がいる。お前だって母親の病気を治したいだろう?治すには金がたくさん必要なんだ。お前が母親のために働けば、母親は病気を治せるぞ」

「はい、わかりました」


 見知らぬ男の人は、私とお母さんが住んでいた部屋の大家さん兼、お店のオーナーさんらしかった。


 私が出したお金ではお母さんの治療代には足りないということで、子どもだけど私にもお仕事をさせてくれるらしい。


 良い人!


 現実世界だとまだ12歳の私はバイトも出来なくて、自分でお金が稼げなくてお金を使うだけの存在だったから、こうして働ける夢の中って本当にいいなぁ!


 私のお仕事は、歳を取ったおじいさんたちと添い寝をすること。


 なんでも、私と一緒のベッドで眠ると気持ちが若返ったり、寿命が延びたりするらしい。

 眉唾だけど皆がそう信じてるなら、それでいいんじゃないかとも思う。


「金を払えば寝てくれる女はいるが……お前みたいな小さな子ども、それも貴族の子ども。こんな機会はめったにないわい」


 おじいさんたちはそう言って、私の頭を撫でたり、においを嗅いだりして、私は横になってじっとしているだけで良かった。


 お母さんに会いたいけど、オーナーさんに言うと、お母さんは病気が重いから子どもが会いに行ったら元気なところを見せようと無理をさせるから止めておいた方がいいって。

 確かにそうだと思う。お母さんは自分が辛くても、私を安心さえようとしてくれる。


「お前に出来る事はせっせと金を稼いで、母親を楽にしてやることだぞ。ほら、今日の客がそろそろやってくる。ちゃんと綺麗にしておけよ」


 ほらほら、とオーナーさんに急かされて、私はいつものようにすべすべとしたパジャマに着替える。長い上着だけのズボンのない、パジャマはスース―するけど、寝る為じゃなくてお仕事のものだから文句は言っちゃいけないよね。






「バカじゃないの?あんたの母親はもうとっくに、病気持ちだからって捨てられたわよ」


 せっせと、お金を稼いでるつもりだった私に、お店のお姉さんが呆れたように言った。


「え?で、でも」

「誰がジプシー女の看病なんてするのよ。汚らわしい。男はジプシーと寝ると運が良くなるとか、魔力が上がるとか言われてるからモノ過ぎが寄って行ったけど、血を吐いて膿を出す女になんて誰も触りたくないわよ」


 お姉さんはお店で“一番”らしくて、私のお客のおじいさんたちも「あれは良い女だよ」と口を揃えて言っていた。

 綺麗な金色の髪に、いつも真っ赤な唇。体はふっくらしていて、どこも柔らかそうな人。

 

 私のことを時々気にしてくれて「ジジィどもに変なことはされてない?あんたはまだしなくていいんだからね」と声をかけてくれてる人。


 あんまりお店のお姉さんたちとお喋りをしないようにとオーナーさんに言われていたけど、オーナーさんが隣町に出かけていなくて、お姉さんが「あんた、貴族の子どもだっていうけど、なんだって娼館になんて流れ着いたの?」と聞いてきたので、お母さんのことを話した。


 お姉さんが言うには、お母さんはジプシーで、ジプシーというのは、神様を信じていなくて悪魔や魔族を崇拝している「じゃきょうと」らしい。戦争で国がなくなっても諦めずあちこち移動したり、住み着いたりしていて、汚らしい害虫みたいに思われているそうだ。


「あの女に子どもがいるなんて知らなかった。上手く隠したものねぇ。まぁ、ジプシー女は魔女だし、なんとでもできるものなのかしら」

「……」


『可哀想に。この子、なんにも知らないで店主に騙されてるのね。貴族の子っていうのも嘘でしょ。ジプシーの子っていうより、客ウケがいいものね』


 お姉さんは感心する。

 

 私はお姉さんが嘘をついていると、思おうとした。

 でも、口を動かさないのに聞こえてくる声は嘘じゃない。



 ……お母さんを、探しにいかなきゃ。




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