6、異変
「お母さんまだかなぁ~」
お金はとりあえず、ベッドの下に潜り込んで、空洞になっている木の部分の上に張り付けて隠しておいた。
この食べ物の山を見たら、お母さんはどんな顔をするだろう。
「言い訳は完璧……!そう、お祈りしたら神様が奇跡を起こしてくださった!!と!!」
悪魔があっさり捕獲できるこの夢の世界である。
神様の奇跡だって、当り前にあってOKなはずである。
お母さんも悪魔を捕まえて得た食料より、神様がくださった食料の方が抵抗なく受け入れてくれるだろう。多分。まぁ、胡散臭いと疑われたらあれだけど……まぁ、大丈夫、うん。私は幼女。無垢な幼女である。きゅるぅん、とした目と顔で「かみさまっているのね!」と言えば大丈夫なはず。
あの悪魔も、それなりに保存が利く食料を出してくれたので……これなら、お母さん、喜んでくれるはずだ。
(……大丈夫、あのお母さんなら……喜んでくれる)
思い出すのは、現実の母のこと。
いつだったか。
小学校で……母の似顔絵を描いて……母の日にプレゼントしましょう、という授業があった。クレヨンや絵の具、色鉛筆は買って貰えなくて、鉛筆で描いただけの絵だけれど……母に何か「プレゼントできる」のが嬉しくて、どきどきしながら、ワクワクしながら家に走って帰って。
…………まぁ、破かれたのだけど。
期待した。
想像した。
大好きなお母さんが、喜んでくれるのを。
自分が好きな人が、嬉しい思いをしてくれることは、自分にとって嬉しいことで、すてきなことだと思ったから、どきどきして、お母さんを待っていたのだけれど。
「……」
急に、私は怖くなってきた。
大丈夫。
大丈夫。
これは、似顔絵なんてくだらないものじゃない。
貰ってゴミになるようなものじゃなくて、食べ物だから。とても、良いものだから。がっかりなんてされないし、怒られないはず。
大丈夫。
大丈夫。
褒めて貰えるはず。
ありがとうって、言ってくれて、嬉しいって、言って貰えるはずだから、大丈夫。
だけど、待っても待っても、母は帰ってこなかった。
お仕事が忙しいのかもしれない。
中々、帰ってこれない事情があるのかもしれない。
一晩、二晩、三日、五日…………一週間。
扉が開くことはなかった。