5、私の願い
「とにかく、何か目的があって、僕を呼び出したのでしょう。悪魔に願うことなど通常は富と相場が決まっているのですが……」
悪魔さんは部屋の中を眺めて、決めつけるように言った。
「子どもであっても、人間の願いというのは変わらないはずです。さぁ、早く、願いを言ってください。そしてこの何だか妙に……居心地の悪い瓶の中から出してください」
「富と言うか……捕まえられたらラッキー、と、つちのこを探しに行くようなつもりだったので……実際こう、捕獲できると……こんな簡単でいいのかと困惑が先に生まれてお願いが浮かんでこないんですが」
でも、まぁ、確かに、何かお願いを叶えてくれるというのなら叶えて貰いたいわけで。
「うーん、うーん。お母さんと、お腹いっぱい食べれるくらいの食料……もいいけど、食べたらなくなるし、保管場所に困るし……お金を……急に大量に貰うと絶対……トラブルの元になるし……」
けれど現状、食料とお金は即欲しいわけで……。
折角悪魔をゲットだぜ!したのに、即物的な願いで消費していいものか……とも悩むけど……。
私は棚の上に包んである2粒の干しブドウのことを考えた。
今頃お母さんは、お仕事の前に何か食事が出来ているだろうか。
この二粒も私が食べて良いと置いて行ってくれたけど……ただ家でじっとしていればいい私と違って、お母さんは働くのに、何も食べれてないのは……駄目じゃないか。
「つまり食料でよろしいですか?」
「よろしくないです。待ってください」
「止めておきなさい」
「……何をです?」
「――過去、人間たちはどうにか、多くを得ようと、僕ら悪魔を出し抜き、より上手くやってやろうと、願いを増やせるように考えたり、悪魔を拘束しその力を利用し続けてやろうとしたりと、“悪魔相手に機転を利かせ”ようとしましたが……それが本当に上手くいくのは数限られた、悪魔の悪意を跳ねのける程の幸運の持ち主か、優れた頭脳の持ち主くらいなものです。どう見ても、お嬢さん、あなたはそれらの器ではない」
忠告、してくれているらしかった。
「……悪魔が?」
「悪魔にも善意はございますよ。特に、貴方の歌は素晴らしかった。僕ほどの悪魔を惑わせた程の歌声には、ある程度の誠意をお返しすべきでしょう」
「……」
「貴方のような幼い子どもは、この悪魔にちょっとした、日々の糧を願い、ただ明日を繋げてそれっきり、二度とこのような汚らわしいものとは関わらず、夢か何かだった、幼い頃のおぼろげな記憶でしかなかったと、そう仕舞い込むのがよろしいでしょう」
蜘蛛の悪魔はそう言って、ベッドいっぱいの食料と、掌に乗るくらいの金貨を出した。
私は「そうした方がいいんだろうな」と思ったので、そのまま悪魔を封じていた瓶を蓋をぽん、と開けて、悪魔はそのまま鏡の中に飛び込んでいった。