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3、鏡の悪魔



「それじゃあカナン、お母さんはお仕事に行ってくるから……お母さんが帰ってくるまで、絶対に外に出ちゃ駄目よ?」

「うん、お母さん、だいじょうぶ。お仕事、がんばってね。いつもありがとうございます」

「まぁ!」


 夢の中でも一日が経過するもので、翌朝、私はやっぱり赤い髪のカナンとして目覚めて、夕方頃に出勤する母を見送ることになった。


 夜遅くに帰ってきた母は、どうやら夕方頃から忙しくなるお仕事についているらしい。現実の母が一時期キャバクラという水商売をしていたことがあったので、そういうお仕事かもしれない。

 接客業は大変だという話を聞いた事がある。私を育てる為に働いてくれているのでお礼を言うと、母は驚いたように目を丸くして、しかし、ふわり、と微笑んだ。


「ありがとう、カナン。寂しい思いをさせてるのに……」


 ぎゅっと抱きしめてくれる。優しい人。こうしてくれるだけでどんなにうれしいか、この人にちゃんと伝えたいのだけれど、これは夢の中で私が望んだからこうなってるだけだと思うと、ちょっと微妙な気持ちにもなる。





 さて、そういうわけでお留守番。

 暇ですね?


 そう、ならば。

 夢の中だから、折角だから、色々やってみたいと思います。


 具体的にはそうですね。

 漫画で読んだ、簡単な悪魔の捕獲とか。


 ベッドの下には私と母の生活用品が仕舞ってあって、私はそこから手鏡と、空の瓶をずるずると引きずり出した。


「現実と違って優しい母はいますが……どうしようもない貧困、苦労している母子家庭であるのは変わらない……私の想像力の限界なのか……なら、ここはこう……夢の中だから、いるかもしれない、そう、悪魔頼み」


 神頼みじゃないのか、という突っ込みが自分の中でも湧き上がってくるけれど、まがりにも「うわぁ、この悪女かっこいぃ~」とカナンの名を冠する幼女になっている自分を、神様が助けてくれるとは思えない。


 のでここは悪魔である。

 と言っても、悪魔を召喚してお願いするのではない。

 ただの幼女が悪魔を呼び出せるわけがないと私が思っているので、多分召喚が出来ないだろうという予感があった。


 けれど、正規の手続きで召喚して契約なんやらかんやらができないなら、捕まえればいいじゃない~と、問題は解決する。


 窓の外を見る。

 綺麗なお月さまを、窓辺にずるずる持って行った鏡に映して、その下に水をはった洗面器。同量の水を入れて動かないようにした瓶を中心に置く。


 そして月を映した鏡に、合わせ鏡になるように手鏡を向けてじっと待つ。


「……」


 悪魔は水面に映った月に飛び込んで空間を移動するらしい。


 ので、この方法で悪魔をゲッドだぜ、できればいいな~程度のもの。


 まぁ、実際のところ暇つぶし以外の何物でもないのだけれど、幼女の私が今のところ何か出来る事と言えば、思いつくのがこのくらいである。夢の中だから、悪魔がいたっていいのでは??


 しかし、実際のところこんな方法でノコノコ悪魔が捕まるのなら、この夢の世界は悪魔に溢れていることだろう。

 残念なことに、待てど暮らせど、悪魔の手ごたえは鏡にはなかった。


 私は床に座り込んで歌を口ずさむ。


 これで糸車でも回させて貰えればいい手慰みになる上に、内職というメリットもあるのだけれど、生憎私の手にあるは手鏡一つだ。


「……!?」


 同じ歌を三回程繰り返したあたりで、突然ずしん、と、片手が重くなった。


「!?」


 何か、ある。


 私は咄嗟に、がばっと、姿見に布を被せ、手鏡を床に置いた。


 ぼちゃん、と何か落ちる音。


「は!?」

「…………う、わぁ……!!」


 唖然とする声に、私は驚きの声を上げつつ、ぎゅっと、ガラス瓶の蓋を閉めた。


「……は?え……?え……?えぇ……?」


 幼女の両手でつかめるほどの小瓶の中で、状況が飲み込めない、という顔をしているのは……………悪魔?


「……どっちかっていうと、蜘蛛」

「悪魔です。失礼ですね、お嬢さん」


目?が、八つあって、長い脚がたくさん伸びている……どう見ても真っ黒な蜘蛛にしか見えない……のだけれど、私と目が合うと、瓶の中の水に落ちないように足で踏ん張っている蜘蛛……じゃなかった、悪魔さんが、抗議の声を上げた。







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