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にぶちん令嬢と二つの婚約破棄  作者: アオイ
エルフィーネ視点
1/12

(1)

婚約破棄ものを書いてみようとチャレンジしました。連載ですが、既に完結まで執筆済です。宜しければ、どうぞお付き合いくださいませ。

 目の前には、じとりとこちらを見つめる婚約者。

 私はそれを気にしないようにしながら、テーブルの上のソーサーを手に取り、カップを持ちあげて優雅に紅茶を飲みました。

 目の前の光景はイマイチですが、紅茶に罪はありません。本日も香り高く美味しい紅茶です。


 婚約者との交流と称し月に2回、それぞれの家で1回ずつ行われている定例のお茶会。

 最近の、いえ、ここ2、3年の婚約者はずっとこんな感じです。

 何か気に入らないなら、言いたいことがあるなら言ってくれればいいのに。私のことが嫌いになったのなら……いえ、それはなさそう。

 だからこそ、余計にめんどくさいことになっているのですが。

 私はため息をつきたい気持ちになりつつも淑女の体裁を保って口角を上げ、見つめるどころか睨みつけてさえいるような婚約者に微笑みかけてみたのだけれど……。

 うん、まだ不満そう。原因はやっぱり、この目かしらね。


 私の目は多くの殿方がハッと目を向けるような零れ落ちそうなほどの大きな目に、綺麗な二重瞼……ではなく、真一文字に引き結んだ所謂糸目なのです。まあ、これも事情があってのことなのですが。

 どうやら、目の前の婚約者はそれが一番お気に召さない様子。

 私が生まれてすぐに婚約が結ばれたのでもう15年が経っておりますが、一度急な落雷に驚いて目を開けてしまってから、婚約者は私を何とか驚かせようと色んな悪戯を仕掛けてきました。

 でも、私固有のスキルのせいでほとんどの悪戯は成功することはなく、きっと彼はその度に不満を募らせていったのでしょう。

 その集大成が、このにらめっこのようなお茶会です。

 一応決められているお茶会の終了時刻まであと40分。今日は我が侯爵家でのお茶会なので、婚約者であるルーベンス=ブルネック公爵令息様が帰ると仰るまで、退席出来ないのです。ああ、時よ、どうか早く過ぎて。


 残りのにらめっこの時間、もといお茶会の時間を使って私の自己紹介を少し。

 私はエルフィーネ。ハウンゼン侯爵家の長女です。私の持って生まれた容姿とスキルのせいで、王命によってこの目の前のルーベンス様の婚約者となりました。

 ルーベンス様は私より一つ年上で、私が王都にある貴族専用の学園を卒業すれば結婚するという誓約になっています。

 こう見えて、ルーベンス様は現国王陛下の甥にあたります。

 元々ルーベンス様のお父様が第1王子でしたが、現国王陛下が即位なさる際に臣籍降下されブルネック公爵となられました。


 この国の人々は皆、幾分か差はありつつも大なり小なり魔力とスキルを有しています。

 実は現国王陛下は第2王子でいらっしゃいましたが、統治者として理想的なスキル『安寧秩序』を有していたため、国王として即位されました。

 このように、王族や貴族などはとても珍しいスキルを有して生まれることがよくあります。

 その仕組みはまだ完全には解明されておりませんが、昨今の研究では珍しいスキルが顕現する確率は魔力量に比例する可能性が高いとの説が有力視されております。


 まあ、そんなことはさておいて、私のスキルのことです。

 私のスキルは『心眼』、人や物事の嘘偽りを見抜くスキル。

 例えば目の前の人が本当のことを言っているか、手にした宝飾品や芸術品が模造品や贋作ではないかが一目で分かります。

 具体的には説明しにくいのですが、人や物に対して気持ちの悪い違和感を覚えたりします。

 このスキルは国にとって大変有用なため、悪用されたり私自身が攫われたりしないよう私のスキルは家族や国王陛下などの一部の方を除いて秘匿されております。


 ただこのスキルを持つ者は、瞳にある特徴が出てしまいます。

 それが“虹色の瞳”です。

 この瞳を隠すために、私はいつも目を瞑り糸目を偽装しております。

 目を閉じていても『心眼』がありますのでさほど危険はありませんし、視覚の補助としてヘッドアクセサリーに偽装した魔道具を常に身に着け、それを通して瞼の裏に映像を投影しておりますので、目を開けているのと変わらない生活を送れております。

 ですので、厄介なことにルーベンス様が私を嫌っていないどころか、私にとっては嫌がらせのような一連の出来事も、好意の裏返しということがスキルによって嫌でも分かってしまうのです。

 理解は致しませんが。

 この婚約も、王族に連なる方との婚約で私を国外に逃がさないように、万一スキルを知られても国家規模で護れるようにという思惑のもと結ばれております。


 やっとお時間のようですね。ルーベンス様が、今回も不服そうな顔をして立ち上がり玄関に向かうようです。

 この方、容姿も能力も悪くないのですが、性格がちょっとひねくれておいでなのですよね。

 根は悪い方ではないと思うのですが、プライドが邪魔をするのでしょうか?なかなか素直になれない性格のようです。このままでは生きづらいのではと邪推しますが、まあ余計なお世話なのでしょう。


「本日も、貴重なお時間をありがとうございました」

 私は義務的に恒例のお見送りをします。

「ああ、また、な」

 馬車に乗る直前にルーベンス様は私を一瞥し、がっかりした目をして乗り込まれました。

 多分、一瞬でも私の目が開いていないか、虹色が見えないかと賭けた一縷の望みに勝手に裏切られているのでしょう。

 ああ、知りたくもない彼の心の内を全てこの『心眼』が見抜きます。

 私は淑女の礼のまま、馬車が見えなくなるまでお見送りをし、屋敷に戻りました。

 


 翌日、私は学園へ向かいました。

 学園では成績順でクラス分けがされており、ルーベンス様も私も学年は違えど一番上のクラスに所属しております。

 学園でのルーベンス様は容姿端麗、成績優秀、身分もハイクラスと、傍目には文句のつけようがありません。唯一の汚点は、見た目が釣り合わない糸目の婚約者がいるということです。

 したがって私の存在を疎ましく思い、あわよくば婚約者の座を取って代わろうとお考えになるご令嬢も、残念ながらいらっしゃるのです。


 移動教室など嘘の情報を私に伝えて困らせようとしたり、所謂ゲテモノといわれる生き物を入れた贈り物を人伝に渡して来たり、本当しょうもな……いえ細やかな嫌がらせがありますが、『心眼』によって見抜けるために実害はありません。

 ですので、とりあえず相手には微笑みかけてお礼を伝え、嘘の情報は無視をしますし贈り物はそっと処分します。

 このようなことを繰り返していると、私は陰で『にぶちん令嬢』と言われるようになりました。

 どんな嫌がらせを受けても気にした様子がないことから、嫌がらせに気づいていないのではないかという考えに至ったようです。

 まあ『心眼』を知られ、その能力が公になってしまうことに比べたら些末なことです。

 公になったら、その筋の本業の方が私の周りに集うでしょう。ちょっとした嫌がらせをしてくるご令嬢くらい、可愛いものです。


「あら、エルフィーネ様、ご機嫌よう。ところで聞きまして?婚約者のルーベンス様の噂。どうやら、学園内でご執心の御令嬢がいらっしゃるとか。私、エルフィーネ様がお心をお痛めではないかと心配しておりますのよ」

 私と同じく侯爵家のイザベラ=リットン様が、伯爵家のご令嬢お二人を従えて私の行く手を阻みました。

 そう、このイザベラ様こそ、私への嫌がらせの筆頭格です。

「そうですか」

 答えながら、真実かどうか精査にかけます。

 なるほど、あながち嘘や捏造ではなさそうです。

「私の従兄がルーベンス様と同じクラスにおりまして。ルーベンス様の意中の女性のことをお聞きしたようなんですの。すると、とても美しい瞳をお持ちの方なのですって」

 うん。間違いなく私の事ですね。ルーベンス様は“虹色の瞳”のことを仰っているのでしょう。

「ああ、何とお労しいことでしょう。瞳なんて生まれ持ったもの、どうしようもないでしょうに」

 全く以てその通りです。この瞳さえなければ、私の婚約者も別の方にして頂けたことでしょう。

「ねえ、エルフィーネ様。いっそのこと身をお引きになってはいかが?ルーベンス様を想えばこそ、その美しい瞳のご令嬢との仲を祝福されるのも、婚約者を立てる淑女の道かもしれませんわよ」

 うん?ルーベンス様と婚約解消して、ルーベンス様と結婚しろと……?

「困りましたわね……」

 矛盾した言動に、つい言葉を洩らしてしまいました。


 世間でいう『にぶちん令嬢』の私が眉間に皺を寄せて困る姿は、やっとイザベラ様のお気持ちを満たしたようでこちらに勝ち誇った笑みを向けておられます。

 多分瞳の美しい令嬢とは、サファイアの瞳(自称)を持つご自身のことを仰っているのかしらね。

「ご用件がお済みでしたら、これで」

 私はいい加減教室に入りたくて、一礼してその場を辞しました。

 歩きながら、校舎の窓から空を見上げます。この瞳の色が空のようなスカイブルーなら、ルーベンス様と知り合うことも無く、歪んだ愛情を向けられず、地味な嫌がらせも受けず平穏に暮らせたでしょうに。


お読み頂きありがとうございます。

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