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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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皇都の覇者ですわ~!!

「これで大方は終わりましたわね~」


 オルフェットが食材を買い付けるよう指示されていたお店を巡り、何事もなくお買い物は進んでいました。

 しっかりと手書きの購入品リストを料理長から渡されていたらしく、わたくしに抱っこされているオルフェットは購入済みの品にチェックを入れていきます。


「はい、あとはこの先のパン屋さんから小麦粉を買うだけです」

「へー、パン屋さんで買うんだ。やっぱりいいもの扱ってるのかな」

「まあ皇都の店舗だからね、より良い物を作るために自分の店で製粉も兼業でやってる所も多いんだよ」

「……あら、この先と言いますともしかして皇都入口のお店ですの~? でしたら何度か食べたことがありますわ~!」


 だいぶ歩いてきたわたくし達は、しばらく進めばベラスティアの皇都から出てしまう寸前まで来ていました。

 そして近辺にあるパンのお店はわたくしが知る限り1軒だけ。店名は「ラ・ヴィート」だったかと思います。


「おお、フィアラも知っているか」

「もちろんですわ~、お父様が大層お気に召していたそうで、よく買って帰ってきていましたの~!」


 陛下の護衛として働いていた時のお父様がお勤め終わりに家へ持ち帰っていたのがそのお店のパンでした。

 いつも焼きたてのものを売っているのか、手に取るとほのかに暖かくて、ふわふわの生地をしているのです。

 わたくしもアッシュもあのパンは大好きでした。特にお母様はお気に入りで、お父様がラ・ヴィートのパンを買ってきたと知るや大急ぎで生クリームを作り始めたりして……。

 ……そういえば、お2人は今どうしているのでしょうか。


「そうだったのか。……実を言うと、その店をラグレイズに教えたのは俺でな」

「えっ……あれって陛下が見付けた店舗だったんですか!?」

「まあな。帝国全土となると自信はないが、皇都の飲食店で知らないものはないとでも思ってくれていい。……あと、今はリグレットだ」


 両親の安否が気になりましたが、わたくしの興味はアッシュと共にリグレットの話題に移ってしまいました。


「そんなに色んなお店に足を運んでいますのね~。皇都だけでもかなりの広さですのに~」

「……フィアラさん、皇帝って意外と暇なのかな? 大変だったらどうしようかと思ったけど、あんまり疲れなくて済みそうで安心です」

「はっ、馬鹿を言うな。俺は道楽ではなく市勢の視察のために足を運んでいるまでだ。食は最も民の生活の安定を測るのに適しているからな」


 カトレアの囁きを聞きつけてリグレットは訂正しました。聞いた限りでは食べ歩きが趣味のように思えましたが、調査が主だったのですね。

 確かに、生活に余裕のない暮らしをしていれば中々外食というものには手を出せないかもしれません。そうなるとお店の側も利益を出せなくなり、損害を減らす方向に舵を切ったりもするでしょう。

 そうして各地の食事の味が落ちていないか、ご自身の舌でリゲルフォード皇帝陛下は確認して回っているということですね。


「けれど、それでしたら別に全てのお店を見て回らずともいいような~……。数店を回ればある程度は平均を確認できそうですが~」

「……。フィアラはそう思うか」

「あ、申し訳ありません~! 何か違いましたか~!?」

「まあ……その通りでは、ある」

「……陛下、もしかして単にお食事が趣味でいらっしゃいます~……?」


 わたくしの疑問をぶつけると、リグレットは外套を深くかぶり直して顔を見えないようにしました。


「いや、視察だ。あくまで国勢調査の一環だ」

「フィアラさん、あれ絶対建前ですよ」

「姉さん、あれ絶対建前だよ」


 きっぱりと言い切った彼にカトレアとアッシュが看破していまいました。別に隠さなくてもいいとは思うのですが。

 とはいえこれでなぜ陛下が帝国の名店に知見があるのかはなんとなく知れました。賓客のもてなしなども視野にはあるのでしょうが、単にそういうのがお好きだったのですね。


「ふふっ~。では陛下が退位なされた後は、各地の美食を求めて旅なんかするのも楽しそうですわね~」

「……やれやれ、違うと言っているのにな。まあやるとしたらフィアラにも付き合ってはもらおう」

「……? わたくし? なぜですの~?」

「お前を残して旅になんて出られないからな。それに、フィアラとは一緒に美味い食事を共にしたいと思っただけだ」


 わたくしが皇帝となった後もリグレットはわたくしと共に居たいと仰りました。

 どういう意味なのかと理解するのに少しかかりましたが、ようやく納得します。

 考えてもみればわたくしが皇帝となるという事は、カトレアの消失を意味しています。きっと彼はわたくしの防備の低下を憂いているのでしょう。

 アッシュはおりますが彼女ほどの戦力を期待するのは難しいですし、ロズバルトやオルフェットも同じく。ラトゥも不意打ちには強くなさそうな気がします。

 そんなわたくしと離れてはいつ暗殺の危機があるか分からない、とリグレットは言いたいのでしょう。


「では、その時はお願いしますわ~。各地の視察は大事なんですものね~」

「……フィアラさん、今の多分違う意味が含まれてますよ」

「え!? そうでしたの~!? 陛下、今のはどんな意味が……」


 カトレアにそう告げられ、言葉の裏に隠された真意が掴めず直接聞いてみました。


「あ、待ってフィアラ様、あのあたり、なんだか騒がしいです」


 その直前、オルフェットがわたくし達の進む道の先を指差して、何かを発見したようです。

 気付けばもう皇都の門が目の前。そして彼が示したのは目的地であるパン屋さん、ラ・ヴィートの前でした。


「……!? 姉さん、あれって」


 店先で店員に何かを騒ぎ立てている1組の男女。その顔にアッシュは見覚えがあるようです。

 いいえ、アッシュだけでなくわたくしにも、そしてリグレットもそれが誰なのかを一目見て気付きました。


「お父様と、お母様~!?」


 見間違うはずもありません、そこにいるのは紛れもなくわたくしとアッシュの両親だったのですから。

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