外食ですわ~!!
「美味ですわ~~!」
ロズバルトの兜選びを終えたわたくし達は、時間もお昼ごろになるという事でそのまま彼に連れられてレストランへやって来ました。
お城のすぐ近くに出店しているだけありまして、ただの飲食店でありながら高貴な雰囲気を纏ったそこは装いを裏切らない素晴らしいお料理ばかりが出てきました。
「姫さんに喜んでもらえてよかったぜ」
「高級そうなだけありますねー。でもよくこんなお店知ってましたね、ロズバルトさん」
「大将軍就任を触れ回った時に皇帝さんに皇都も案内されててな、業務のついでにいい店の情報も叩き込まれてたんだ」
「つまり陛下のお勧めって事か。それならあの待遇も納得かな」
ここへ訪れた時、お店の方がロズバルトを見るなり目の色を変えて恭しく席を案内してくれたのです。
陛下と共に皇都を回っていたそうですし、こんなに重厚な鎧を纏っている彼はさぞ印象に残ったのでしょう。もしかすると、もうある程度の知名度は得ているのかも。
そう考えるとあえて彼が鎧を脱がずにやって来たのは正解だったのかもしれません。ロズバルトが大将軍であるとは知らずとも、「皇帝陛下と共に歩いていた鎧の人物」というだけで一目置かれるでしょうから。
「立派な兜も見つかりましたし、美味しいお食事も食べられて、今日はいい日ですわね~」
「……また高いもの買われちまって、俺の方はおっかなびっくりしてるけどな」
そう言いながら、ロズバルトは傍らに置かれた兜を撫でます。
両サイドに天使の翼を模した装飾の施された流線型の兜で、それは頭部全体を覆ってくださいます。
体の中で1番大事な部分を守ってくださるものですから、とにかく硬そうで隙間のないものを選んだのですが、偶然にも鎧とデザイン的な相性も良かったのです。
こうして大炎将軍ロズバルトの装備はようやく完成したのでした。
……ちなみに、お値段は鎧と同じくらいかかりました。
「それで、よぉ、姫さん」
そのような形で談笑しながら食事していた時、ロズバルトは突然真剣な顔になってわたくしの方を見てきました。
「? どうしましたの~、急に改まって~?」
「考えたんだけどよ、やっぱりデートってのはちょっとなあ……」
申し訳なさそうに視線を下げ、遠慮がちな言葉が放たれたのでした。
「いや姫さんが悪いって話じゃないんだがな、俺にはファルメリアがいるから、どうしてもそんな目で見られなくてよ。俺の復讐が終わったからって、あいつへの想いまでは……」
「ロズバルトさん、その話はもう終わってますよ」
「え、そうなのか!?」
カトレアに囁かれ、遅ればせながらロズバルトは気が付いたようです。
待ち合わせしていた時はわたくしもそんな事を思いもしていましたけれど、今はもうそんな気分ではありません。
彼の方も、亡くしてしまったファルメリア様の事を今でも大切になさっているみたいですからね、なおさらです。
「……まったく、こんな話僕らが聞いてない所でしてよ」
「すまん……。っていやいや、お前らは姫さんの護衛なんだから四六時中ずっと一緒にいるだろ!」
「ちょっとくらいなら席外しますよ? その間はロズバルトさんがフィアラさんを守ってくれるならですけど」
「別にそこまでしねえでも……。もう話が終わったならいいだろ」
「いいやいい機会だ、折角だから今姉さんにしっかり振られるんだな! 姉さんはお前には何の興味も抱いてないんだからな!」
「べ、別にそこまではいかないですけれど~……」
カトレアはアッシュと共に席を立ち、お店の外へと先に出て行ってしまいました。
2人がいなくなり、わたくしとロズバルトが向かい合うテーブルでは、一気に沈黙が訪れます。
「……ご、ごめんなさいね、アッシュ、ロズバルトの事をあんまり受け入れられていないみたいでして~」
「まあ……元々は敵同士だったんだしな。むしろあれでも譲歩してくれてる態度だろ」
諦めるように彼は笑いました。
そうですね、本来であれば2人は決して交わらない間柄だったのです。そこを思えばアッシュも優しく接している方なのかもしれません。
「でもあんなことを言うなんて~。陛下にお仕えして少しは大人っぽくなってきたかと思っていましたけれど、やっぱりまだまだ子供なんですのね~」
「へへっ、なら可愛いモンじゃねえか。……俺にも息子がいりゃ、あんな感じだったのかねえ」
アッシュが去っていった方を見やりながら、ロズバルトはスープを啜ります。
以前のような疲れたお顔ではなくなりましたが、その呟きには寂しげな音が混じっていたのを感じ取りました。
「……お子さんは、いませんでしたのね」
「まあな。いたら反乱軍なんてやらないでそいつの世話に全力で……案外普通の暮らしはできてたかもな」
「そういう未来もあったかもしれませんわね~」
彼がファルメリア様との間に子を成していたなら、今とはだいぶ違う人生を送っていた可能性はとても高いでしょう。
奥様の復讐ではなく残された子供までを失わないように力を尽くし、わたくし達と出会うこともなく、大将軍にもならず、しこりを残しながらも平凡な生活を送れていたかもしれません。
どちらが幸せな未来だったのかは、想像もつきはしませんけれど。
「ま、なんにせよ姫さんに出会えた事、俺は感謝してるぜ」
そう考えていると、ロズバルトはそう仰ってくださいました。
「あんたがファルメリアの血縁だってのもあるし、皇帝さんに殺されかけた時も救ってもらったし……何より、ファルメリアの仇まで討てたんだからな」
「……! そう思っていただけたなら、何よりですわ~!」
より幸福だったのはどちらかは分かりませんけれど、心の底からのロズバルトの笑みに、少なくともわたくしは彼と共にここまで来られた事は正しかったと、そう思うのでした。
「――お客様、こちらをどうぞ」
ロズバルトに微笑みを返すと、その時ウェイターの方がアイスを2つテーブルに置きました。
真っ白でひんやりとしているそれはとても美味しそうですが、いきなりの提供に思わずわたくしは驚きます。
「まあ~。……でも、こんなのわたくし達頼みましたかしら~?」
「当店からのサービスです。次期皇帝陛下と大将軍様には、是非ともご贔屓にしていただきたいですから」
「あらあら、そういう事でしたのね~!」
どうやらわたくし達のことはバレてしまっていたようです。
陛下と共にわたくしが皇帝になるのは触れ回っていましたから、当然と言えば当然ですね。
突然の事で驚きこそしましたが、そういう意図でしたらありがたくいただいてしまいましょう。
「ん~、甘くておいしいですわ~!」
「喜んでいただけて幸いです」
「おお、嬉しいな。こいつぁカトレアとアッシュにも食わせてやらないとな」
2人でサービスの品に口を付けますと、やはりこれまでのお料理にも引けを取らないくらいに美味しいものでした。
綺麗なお顔をしたウェイターの方も、わたくし達の食べっぷりを見てにっこりしてくださいます。
「いえ、それは御遠慮いただきましょう」
「……え? それって、どういう~……」
意味深な否定に、聞き返したのですが……。突然わたくしの瞼が重くなってきました。
急激に体の自由が効かなくなり、「これは、睡眠薬か……!?」というロズバルトの声を遠くに聞きながら、意識が完全に闇の中へ落ちていきます……。




