大炎将軍様とお出かけですわ~!!
「ロズバルト~、一緒にお出掛けいたしましょう~!」
「おお、姫さん。どうしたよ急に」
日が変わりまして、太陽が高く昇り始めた頃。城内の通路で彼を発見したわたくしは元気よく声をかけました。
大将軍として全身鎧を纏って歩いていたロズバルトはゆったりと歩きながらこちらへ挨拶を返してくれます。
「ふふっ、なんだかロズバルト、貫禄が出てきましたわね~」
「そうか? ただ普通に歩いてただけなんだが」
「重くて走れないんですよね、この前ラトゥに言われてたし」
「……ま、そうとも言える」
カトレアに指摘され、ロズバルトは苦笑します。
陛下に重厚で威圧感のある全身鎧を頂いたはいいものの、その重量で彼は機敏な行動が取れなくなってしまっているのです。
ただ逆に、それが彼の動作に独特の重々しさを滲ませているのでどこか威厳を感じさせもしていました。
「一応、重量には慣れてきてるのかな。前より苦しそうでもないし、いいんじゃない」
「そうかい? 姫さんの弟に言ってもらえりゃ、ちょっとは自信も持てそうだぜ」
「……その呼び方はやめろ。僕の名前はアッシュだ、ちゃんと名前で呼べ」
「おっと、悪ぃなアッシュ」
どうやらアッシュの目から見ても彼の体運びは様になってきてるようでした。
僅かな時間の中ではありますが、ロズバルトも少しずつ成長しているのかもしれません。
「で、なんで急に姫さんは外出なんてしたいんだ? まだまだ戴冠の準備とかで忙しいだろうに、いいのかよ」
「その~……それが少々お暇になりましたそうでして~……」
「暇? なんでまたいきなり」
「ふふん、それはもちろん私があっという間に元老院を味方につけてみせたからですね!)
「あぁー……」
誇らしげに言うカトレアにロズバルトは目を細めて納得の音を零しました。
ラトゥの力により、無事……もとい最短で元老院の6人はわたくし達の味方側の存在となりました。
陛下の予定では速くとも数か月、なんなら期限である1年ギリギリまで費やして仲を深めていくつもりだったそうなのですが……。
「……彼らに要する時間が空きまして、結果的にわたくしの自由な時間が増えましたの~。なので、この期間にあなたの兜を見繕って差し上げるように陛下からお願いされておりまして~」
「そういや、前にそんなん言ってたっけな」
彼らの存在は最大の難所でもあったようで、おかげでかなりの時間短縮が図れたのは事実です。
ただし当初の想定からは大きく予定が崩れてしまい、それを組みなおすまでの数日はわたくしにお休みのような時間が与えられましたので、今の内にそういった用事を片付けておくように言われているのでした。
「どうでしょう、今はお忙しいですか~?」
「いや、俺の方も朝の訓練が終わった所だ。監督する側で大して体も動かしてねえからな、行こうぜ」
唐突なお誘いだったのですが、奇しくもロズバルトは時間に余裕があったみたいです。
「はい~! では城門の前でお待ちしておりますわね~!」
無事に承諾も得られましたので、わたくし達は場所を決めて待ち合わせをする事にしました。
こちらはもうお出かけの準備をしているのでいつでも出発できますが、ロズバルトの方はそうもいきませんからね。
あの鎧で出歩かせるのも大変でしょうから、着替えてくるまで待っているつもりでした。
「時間を指定しての待ち合わせ……。そうやって考えるとまるでデートみたいですよねー」
「まあ僕らもついて行くからそう言っていいかは微妙だと思うけど」
城門でしばらく待っていると、唐突にカトレアがそんな事を言ってきました。確かに、要素だけを抜き出すとそう言えなくもないかもしれません。
あんまり深く考えないでやった事でしたが、気付いてしまうと少し顔が熱くなってきてしまいました。
「も~何言い出しますのカトレア~! ロズバルトにはもう心に決めたお人がいらっしゃるんですから、そんなつもりではいませんわよ~!」
「でもロズバルトさんの新しい服を買いに行くみたいなものだし、デートっぽいなって」
「服っていうか、兜だけどね」
唇を尖らせて彼女はそう呟きます。護衛としてカトレアもアッシュも同行するのですから、デートとも呼べないような気はするんですけれども。
とはいえ、カトレアからすれば男女で特定の場所へ出かけるのはそれだけでそう見えてしまうのかもしれません。
「……うふふ。でしたら、カトレアとアッシュも一緒にデートしてるみたいですわよね~」
「えっ、姉さん!?」
なので、ちょっとしたからかいのつもりでそう言ってみました。
アッシュの方は驚いたようですが、対するカトレアは……。
「何なの急に、僕はカトレアさんとそんなつもりで行動してるわけじゃ」
「うーん、頑張っても友達くらいまでにしか見れないからそんな気分には思えないですね」
「そう……いや事実なんだけどそこまで言われるとそれはそれで肯定しにくいんだけど!!」
冷ややか極まりない対応でした。この感じだとアッシュの事は仕事場の同僚くらいにしか思っていなさそうです。
「うう~……。カトレアはまるで顔が赤くなってませんのね~……!」
その顔にはドキドキのドの字すら感じさせないほど平静でした。
少しくらいはそんな素振りを見せて恥ずかしがってくれても良かったでしょうに。
そう思っていると、カトレアの顔がにやっと歪みました。
「あ、もしかして私の事ドキッとさせようとしてました?」
「うっ~。ま、まあ少し、ロズバルトに少しだけ変な意識をしてしまったので、やり返してみようかなと思ったりはしました~……」
「そうなんですねー……」
考えていた事を見透かされるように言われ、思わず洗いざらい答えてしまいました。
それを聞いて、彼女はわたくしの手を握って真っすぐにこちらを見上げてきます。
「だったら、もっと積極的に来てくれたら私もドキドキしてたと思うんですけどねー」
「い、いえ~、それだとやり返すのとはちょっと変わってきてしまいますし~……」
手袋越しに伝わる体温と共に彼女の目を見ていたら、また自分の顔が熱くなってきたのが分かってしまいます。
耐えきれなくなり、思わず視線を逸らした先にはいつの間にかロズバルトがやって来ていました。
「……、城門でやるなよ」
「おほほ~……。お待ちしてまし、ってどうして鎧を着たままですの~!?」
お恥ずかしい所を見せてしまって気付くのが遅れましたが、なぜか彼は全身鎧を着たままでした。
動きやすい服に着替えてくるのを待っていたのですが、先程通路で会った時と微塵も変わっていません。
「ん? ああ、一応泥とか汚れは落として来たつもりなんだが、どっかについてるか?」
「お着換えしてくるのを待っていましたのよ~!?」
「そうだったのか? ……悪いな、着替えるのも面倒だったからよ」
こちらの意図を察せず、ロズバルトは照れるように笑いながら頭を下げました。
歩くのがやっとな重量の鎧ですから、確かに脱ぐのも大変ではあるかもしれませんけれど。
「はあ~……。デートだなんて思ったりしましたけれど、これではそんな気分にはなりそうもありませんわ~」
「で、デート!? 姫さん、まさか俺とはそんなつもりで……!?」
「いえ、その話はたった今終わったみたいですよ」
「うん、終わったね」
どぎまぎするロズバルトとは反対に、カトレアの言葉で乱されかけていたわたくしの心は一気に落ち着きを取り戻すのでした。
とりあえず、変に意識したりしないでお買い物に臨めそうなので安心しておく事にいたします。




