見切り発車の元老院懐柔大作戦ですわ~!!
「……そんなわけで、彼らの信頼を勝ち取り、全会一致で戴冠への賛成を得るのがフィアラの最初の仕事となったが」
元老院の方々の座す間から出てしばらく、わたくし達4人だけになった所で陛下はそう声を発しました。
「も、申し訳ありません、勝手な事を~……」
「構わん、むしろ俺は嬉しいよ。フィアラが彼らとの和解を望んでくれたのだからな」
怒られるかと思いましたが、陛下は喜んでくださいました。
何の許可もなくあんな事を宣言したものですから、てっきりお叱りの言葉のひとつでもあるかと思ったのですが、どうやらどちらかといえば陛下のご希望に沿った展開だったのかもしれません。
「それより、どうするの姉さん!? 友の力ってのは僕達の事だと思うけど……あてはちゃんとあるんだよね!?」
そして、アッシュは反対に酷く動揺しています。
言い放った内容的にも彼は無関係ではないので、当然と言えば当然ですよね。
「~……」
「姉さん? なんで無言なの姉さん??」
対してわたくしは口を閉ざし、にっこりとした顔でアッシュに返すのでした。
そう、あんなことを元老院の方々に言ったはいいものの、特に内容自体は考えていなかったのです。
あんまりアッシュの事をいじめられるの、見ていて心が痛んだもので。つい。
「嘘でしょ……まさか何の策も無しであんな事言ったってこと……!? 何の勝算も考えてないの!?」
「思いつきと言いますか、その~……。けれどわたくしに付いてきてくださっている方ってみんな優秀ですから、どうにかなるのではないかな、と~」
「行き当たりばったりすぎるよ……!!」
去り際に「面白い、では本当に我々の心証を覆せるか見せていただこう」と元老院の方々の承諾もいただけたので、頑張りたくはあるのですが……。
アッシュにも突っ込まれた通り、現状では勝算どころかまず勝負の土俵に上がるための道筋すらも見えていません。
「あうう~、どうすればいいのかしら~……?」
「そんなに考え込まなくっても。心配しなくってもフィアラさんにはもう心強い仲間がいっぱいいるんですから! 私とか!」
すぐには解決策も思い浮かばず、そんなわたくしにカトレアは胸に手を当て「任せてください!」と目を見てきます。
彼女の自信に溢れた顔を見ていると、本当にどうにかしてもらえそうな気がしてきました。
「……そうですわね、陛下のお力は借りられませんけど、わたくしにはここまで一緒に来てくださった仲間がいますものね~!」
オルフェット、ロズバルト、それとラトゥ。彼らもそれぞれの位置からわたくしを守るために尽力してくれています。
流石にリゲルフォード陛下の力で元老院の6人を従わせても信頼を勝ち取った事にはならないでしょうし、そもそもお友達のような扱いをしてしまうのもいかがなものかと思いますから、アッシュとカトレアを含めた5人に頑張っていただくしかありません。
……という意味を込めての発言だったのですが、なぜか陛下のお顔は曇ってしまいました。
「俺は……フィアラの友にはなれなかったか」
「あっ、いえいえ~! そんなつもりで言ったわけでは~! 仲間の力で信頼をとは言っても陛下に頼っては彼らも納得しないと思っただけです~!!」
「そ、そうか、そういう意味だったか。……すまない、変な顔を見せてしまったな」
おかしな言葉の受け取り方が恥ずかしかったのか、陛下は顔を手で隠してわたくしの反対側に顔を逸らしてしまいました。
そんな陛下をカトレアはにやにやして見ています。
「へえー、皇帝さんはフィアラさんと『お友達』になりたいんですかー?」
「っ、貴様……」
何が気に食わなかったのか、陛下はカトレアに眉を顰めて一瞥しました。
「フィアラさん、皇帝さんはお友達になってほしいみたいですから、これからはそう接してあげてはどうです?」
「そ、それはちょっと~……。恐れ多いですし~」
肩に手を乗せられながらそう提案されますが、流石にそこまで馴れ馴れしくしてしまえるほどの関係ではないでしょうから、何も考えずに頷けはしません。
近々わたくしが皇帝となるにしても、今の皇帝はリゲルフォード陛下なのです。いくら求められているからといって、気安い態度を取ってしまうのは礼を失してしまいますから。
「! それよりも元老院の皆様にどう信頼していただくかでしたわ~! まず考えるべきはそこですのよ~!」
「それ……。いや、そうだな。俺から助言するなら、ああいった態度の者は一朝一夕で心を入れ替えさせるなんて事はまずできんだろう。地道に、日数をかけて帝国への事こそが結局は最短の道になるはずだ」
「陛下の言う通りだよ、姉さん。僕達を上手く使って、ちゃんと人を動かす能力がある所を見せていくしかないと思う」
陛下の言葉に、アッシュも賛同の意を示しました。
長くベラスティアの平和を影から支えてきた彼ら元老院の6人は皆なかなかのご高齢。既に陛下という強大な帝国の象徴のような人物を知る彼らの意思を変えるには時間を要するでしょう。
ただ……わたくしに残された時間は1年ほどしかありません。たったそれだけの時間で元老院の信頼を得られるものなのか、どうしても不安です。
「ふふふ、2人共悠長ですねえ。フィアラさんに与えられた時間は限りがあるのに」
わたくしの心を読んででもいたかのように、カトレアは不敵な笑みを浮かべます。まるで陛下達とは別の考えでもあるかのよう。
「1年、だっけ。……あのお爺さん達の心を溶かすには短いのは事実だとは思う。僕の件もあるし」
「お前が死んで、契約が消えてしまえば話は早いのだがな」
「わあ酷い、こんなにか弱い女の子に死んでほしいだなんて!」
「か弱い……?」
首を傾げるアッシュの額をカトレアは軽く小突きました。ラトゥと比べるとだいぶ手加減はしてくださってますね。
「ともかく、わざわざそんな事を言うのだったら、代案はあるのだろうな?」
「当然です、時間もかからないし、ちゃんとみんなの協力を得るやり方を考えてますとも!」
この場の誰よりも先に彼女は名案を思い付いたらしいです。
それを理解し、わたくしは早く早くとカトレアに続きを促しました。
「それはどうしたらいいんですの~!?」
「ふふっ、聞かなくっても、フィアラさんなら答えにはすぐたどり着けますよ。もう正解への道は見えてるようなものなんですから」
「え!? ……ど、どういう事なのかしら~……?」
カトレアは唇の前に指を立てて微笑みます。答えは教えてもらえませんでした。
口ぶりからすると既にわたくしでも分かる範囲の作戦なのかとは思われますが……陛下とアッシュと同じく、わたくしは首を傾げるばかりでした。
カトレアの考えが分からず、しかし彼女は親指を立ててこちらを見ます。
「大丈夫、フィアラさんはゆっくり考えててください。条件通り、仲間で協力してあの人たちの心、入れ替えさせてみせますから!」
「……自信たっぷりですのね。わかりました、カトレアにお任せしますわ~~!!」
「はい、任されます! ……あ、正解分かったら後で答え合わせしましょうね」
こうして、カトレアに作戦を一任しての元老院の皆様の信頼を獲得する計画が動き始めました。
その場では結局彼女の立案した作戦がどんなものだったかは分からずじまいでしたが、これはこれでちょっとワクワクしますね。
果たしてカトレアはどんな方法で元老院の6名の心を開かせるおつもりなのでしょうか?




