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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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断固拒否ですわ~!!

「……反対、か」


 ベラスティアの政治を補佐する元老院の6人が言い渡したのは、わたくしの戴冠を認めないという意見でした。

 それを聞かされ、しかし陛下はあまり驚きまではしないようで小さく彼らの言葉を繰り返します。


「なんでです? フィアラさんはこんなに可愛いのに」

「可愛いだけで皇帝が務まるものか。そもそも、アルヴァミラを勘当されるような落第者なのだぞ」

「反乱軍への関与が事実でなかったとしても、その資質には依然疑問の余地が残る」

「その上、不良品などと呼ばれる出来損ないだ。そんな不完全な者を玉座になど着かせられるものか」


 口々に投げられるのは、わたくしを皇帝として認めない理由の数々。

 やはり、皆様わたくしの実力に不安を抱いているのでしょう。


「うわー、めんどくさ……。フィアラさん、もう全員焼いて反対数ゼロにしません?」

「それはちょっと~……」


 まだ分かり合えないと決まった訳でもありませんし、いきなりそんな強硬手段に出るわけには。


「待ってください! 姉さ……フィアラ様は魔術や戦いには疎いですが、決して無学な人ではありません!」


 過激なカトレアの言葉をかき消すように、アッシュがわたくしの弁護をしてくださいます。

 けれど、元老院の皆様の意見は微塵も変わらないようでした。


「どうであろうな、所詮は血縁者からの保証に過ぎまい」

「それは……そうですが、彼女の良い部分は僕だけでなく、陛下も!」

「そも、その陛下に付き従うアッシュ、お主の事も我らは疑っておる」


 アッシュの言葉を遮って言う彼らの目には、一様に嫌悪の感情が宿っていまいた。


「どういう、事でしょう」

「先日の皇都を襲った敵、『炎の災厄』についてだ。玉座の間まで占拠したアレの被害は今も復興しきれておらん」

「わ、炎の災厄ですって。かっこいい名前で呼ばれてるんですねー」


 あの一件、どうやらそんな呼称が付いているようです。元老院の方の口ぶりから聖剣の正体までは掴んでいらっしゃらないかもしれません。

 ……が、そういった事を把握しているとなりますと。


「炎の災厄……、正体はお主じゃな、アッシュ?」

「っ……!?」

「隠し立ては無駄よ、いかに偽の情報を流そうと、我らには真実が入ってきておる」


 陛下が隠蔽しようとしていたはずの事を彼らは知っていました。

 わたくし達が皇都に戻ってくるのには何日かかかっていますから、その間に元老院やその手の者がレゼメルに操られたアッシュの姿を確認していたのでしょう。


「お前達、その件は!」

「わかっております陛下、民衆にいらぬ不安を与えぬようにという配慮でしょう? 我らとて、それ自体は構いませんとも」

「我らが論じたいのはアッシュが玉座を占拠し、ベラスティアに被害を与えたという点についてです。いかな理由であれ、無罪放免とはいきますまい?」


 リゲルフォード陛下も一瞬顔に険の感情が出ましたが、彼らが真実の公表をしようという考えでないと知って安堵……はできませんでした。

 その行いから既に彼ら6人はアッシュの事を帝国に害をなす存在として見ているようです。


「……こいつの暴走については俺の責だ。アッシュはあくまで被害者だ、それをまず念頭に置け」

「ほお。……しかしその説明だけではアッシュがそう陛下に思わせるよう画策したとも考えられますな」

「もしそうであったとすれば、あわよくばその男が帝位を奪おうとしていた可能性もありましょう?」

「であらばやはりフィアラの戴冠には一層の反対を表明するよりほかありませんな。仲間を操り、私欲で陛下より帝位を押しのけようとしているのでは?」


 アッシュを材料にして次々に発されるわたくしへの不信感。それに陛下はなんとも答え辛そうにしていました。

 まあわたくしが皇帝になりたいというのは、自分が死ぬのが嫌だから、という私利私欲極まりない理由ですし。

 ここで嘘の理由を述べてもいいのでしょうが、彼ら元老院はそれを看破できてしまうかもしれません。だとすると陛下としてもあまり嘘を重ねたくはないのかも。

 ……でしたら。


「戦う力もなく、他者の力を利用して皇帝の座を手に入れようとした者を、我ら元老院は到底歓迎も信頼もできません」

「……よ、よろしいですわ~!」


 わたくしを拒絶する元老院の6人、彼らの注目をわざと浴びるように声を張り上げながら、彼らが着席するテーブルまで歩いてそこに両手を乗せます。

 いったい何をしようというのか、という奇異な視線が6つ……後ろからもいくつか飛んで来ている気がしますが……気にする事なく、わたくしは6人へ顔を上げました。


「な、何かね?」

「わたくしの事が信用できないというのなら、できるようにさせてみせます~!」

「なんと……!?」


 想像通り、6人は戸惑いと共にわたくしを見ます。……後ろからも似たような雰囲気が漂ってくるのは若干気になりますが。


「我らの信頼を勝ち取ろう、本気でそう言っておるのか?」

「そうですとも、全幅の信頼を置けるほどに~! そうでなくては皇帝だなんて務まりませんでしょう~!?」

「最もだが……それができると申すのかな? あなたには力もなく、人を使って帝国を乗っ取ろうとした嫌疑までかかっておる」


 そう言って、彼らの視線が再びアッシュに。

 お城の破壊はともかく、そんな濡れ衣が弟にかけられているのは我慢なりません。

 仕返しのつもりも込めて、わたくしは自身に満ちた顔で頷きを返します。


「いいでしょう、ならばわたくしは友の力を借りて、あなた方に信頼に足る人物だと認めさせてみせますわ~~!!」

「ほお……」


 意趣返しの意味も込めて、そう宣言しました。驚きながらも、元老院の皆様は興味深そうな顔でわたくしを真っすぐに見つめています。


「さ、挨拶もこの辺りでよろしいかしら~。わたくし達はこの辺りで失礼させていただきますわ~~!! おーっほっほっほ~!!」


 踵を返し、高笑いと共に部屋を出て行きます。もしもまだご用事とかあって呼び止められたら恥ずかしい事この上なかったのですけど、陛下は呼び止めたりせずに一緒に部屋を後にしてくれました。

 その辺りノープランでしたので、助かりました。

 ……ちなみに、高らかに宣言した内容もノープランです。これからどうしましょう。

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