ベラスティア、影の守護者ですわ~!!
ロズバルト達と別れ、カトレア、アッシュと共にわたくしは陛下に連れられて大広間にやって来ました。
天井に吊るされたシャンデリアが室内を明るく照らす中、広間の中央にはお部屋の大きさに見合う巨大円卓があります。
そこにはわたくし達と陛下を出迎えるように6人の老いた男性が既に着席していました。
「……」
「ご、ごきげんよう~」
皆様、揃いも揃って怖いお顔でこちらを睨むように見てきます。
とりあえず挨拶をしてみたのですが、あまり歓迎されているという雰囲気ではありませんね。
「アッシュ君、あのお爺さん達って何です? すっごい偉そうなんですけど」
「偉いよ実際に! さっき陛下が姉さんに説明してたでしょ!」
「……先程も言った通り、彼らがベラスティアの元老院に属する6人だ」
あたらめて陛下はそう彼らの事を紹介します。
玉座の間でも仰っていましたが、ここにいらっしゃるのはべラスティア帝国を陰から支える重鎮の方々、ということですね。
「……で、結局何をしてるんです? 私の住んでた所ってそういうのなくって」
「法律とか財務とか医療とか、陛下の専門じゃない部分の補佐をしてくれてる人、かな」
ただ、カトレアにはそれだけではいまいち伝わっていなかったらしくアッシュにこっそり聞いていました。
「フン、我々の役割も知らんとは……随分な田舎者だな」
そんな会話を聞きつけて元老院の方がカトレアに侮蔑的な視線を投げつけます。
声は小さかったのですが、静寂な状態だったせいかよく響いてしまったのでしょう。
「服装も見慣れない造りだ、よもや他国からのスパイではないかね?」
「ち、違いますわ~! 彼女はわたくしが召喚した……使い魔のようなものですの~!」
カトレアの身分に疑いをかけられ、咄嗟にわたくしは弁解しました。ですが、それで皆様に信頼してはもらえなかったようです。
「ほほう、使い魔。それはまた不思議な事だ」
「フィアラで良かったな。聞けばお主、巷で『不良品』などと呼ばれて蔑まれているそうではないか」
「魔術師としての力を持たなかったアルヴァミラの人間に、よくそんなものを喚び出す力があったものだな?」
「お、お詳しいのですね~……」
「当然だ、我ら元老院は帝国の目。ベラスティアで起きた全てを知り、それらを正しく陛下に伝える事こそが役目なのだ」
彼女だけでなく、わたくしにも懐疑の瞳は向けられます。
この身に魔術師の素質が無い事もしっかりと知られているのでした。生まれが生まれですから、その辺りが調査済みなのは当然ではありますが。
「それに関しては魔力の代わりになる契約を行う形で代替させていただいてまして~」
「なんと、それは初耳だ。困りますな陛下、そういった情報は予め我らにも共有しておいていただかねば」
「広めるような事でもないと思ったまでだ。……あと、あまりフィアラを怯えさせるな。将来お前達が仕える相手になるのだぞ」
「ハッハッハ、そうでしたなあ」
陛下の言葉に、彼らは愉快そうに笑いました。
怖い印象を抱いてしまっていましたが、こういう表情を見られると安心します。
「ところで、そのフィアラという者には反乱軍に与していた可能性があるのは御存じですかな?」
その安心も束の間でした。ひとしきり笑った後、一斉に静まり返った元老院の6人はそう陛下に問うてきたのです。
表情は変わらないよう努めましたが、突然の話題に体は強張ってしまいました。
可能性どころか、しっかりと所属していました。帝国の目を自称するだけあって、本当に色んなことを知っているのですね。……なんて考えてる場合でありません!
「……。初耳だな。どこからそんな話が出たのやら」
「各地に派遣した調査員からの報告です。聞けば、不穏な物流の見られた地域で彼女を見掛けた者がいる、と」
「最近までフィアラは家を追われていたからな、何も知らずに迷い込んだ先が偶然にもそういった場所であったかもしれんだろう」
幸いにも陛下はわたくしを庇って知らないフリをしてくださったようです。
ここで正直に話してしまえばわたくしの戴冠自体がなかった事にせざるを得ないでしょうし、仕方がない流れではあるのですが。
それでもこんな嘘を陛下に吐かせてしまうのは、少し申し訳ないです……。
「……まあ、あくまで可能性の話ですからな。単なる噂だったやもしれませぬ」
しらを切る陛下に、元老院の方もそれ以上の言及はしないようでした。
とはいえそういった悪い噂を聞いていたせいか、わたくしを見る目は依然厳しいままなのですが……もしかして反乱軍にいた事もバレてしまっていたりしないでしょうか?
「下らん噂話はここまでだ。今日俺がフィアラを連れ立ったのは、彼女が次代ベラスティアの皇帝となる承認をお前達に求めての事なのだが」
「――その件についてですが、我ら元老院は一丸となって反対をさせて頂きます」
陛下の言葉を遮り、表明されたのは断固としての拒絶。
この場にいる全員が、わたくしがベラスティア皇帝になる事を認めてくださらないというものでした。




