盗賊狩りですわ~!!
「なるほど~、ではやっぱりオルフェットが盗賊団に入ったのはつい最近なのですわね~」
道中、彼はわたくしにお話を聞かせてくださいました。
わたくしの睨んだ通り、オルフェットはほんの数日前に盗賊の一員となり、彼の始めての仕事の時に現れたのがわたくしとカトレアだったそうです。
「お母さん、僕を産んですぐに死んじゃって、お父さんも先月に病気で……。お金もないし、もう生きるためにはこうするしか、ないのかなって」
「……ふーん。本当にまだ悪事に手を染めた訳じゃなかったんですね」
「は、はい」
カトレアの声に緊張気味にオルフェットは返します。わたくしには大分心を開いてくれたようですが、まだカトレアの事は怖いみたいです。
一瞬の内に彼の仲間を焼き払ったわけなので、仕方ないところではありますけれど。
「それでカトレア、どうして町ではなくて彼らのアジトに行くんですの~?」
そして今、わたくし達が向かっているのはオルフェットが入っていた盗賊達の隠れ家です。
カトレアの希望でそうしているのですが、その理由は何なのでしょう?
「理由は2つです。まずさっきの盗賊達は馬車なんかを用意してなかったみたいですから、多分徒歩で行ける距離にアジトがあるはずです」
「なるほど~。それで、もう1つの理由はなんですの?」
「うふふ、それはすぐにお分かりいただけるかな、って思います」
「あ、あの、ここです」
もったいぶって笑うカトレアに続けてオルフェットが到着を告げました。
気付けば、目の前には大きな洞窟が。穴の先には松明が灯されていて、あちらの先が盗賊の方々の根城になっているのが容易に想像できます。
「それでは2人はここでお待ちください。……あ、もしフィアラさんに手を出したら、後で燃やしちゃいますからね?」
「な、何もしません」
「え? カトレア? 何をなさいますの?」
「心配しないでください、すぐ戻りますから」
そう言って、カトレアは単独で洞窟の中へ入っていってしまいました。
彼女が出した炎の明かりは今もわたくしの頭上で辺りを照らしていますので、暗がりで待たされるわけでないから怖くはありませんけれど。
説明もなく取り残されたわたくしは、オルフェットと顔を見合わせるのでした。
「……カトレアは、一体何をなさるつもりなのかしら」
「さあ。……あれ? なんだか奥の方、明るくなったような」
ちらと洞窟に視線をやると、確かに時々バッと光量が増す瞬間がありました。
まるで、新しく炎が熾されたかのような……。
……カトレアが何をしに行ったのか、わたくしにもようやく想像がつきました。
「……えっと、フィアラ様。さっきの、皇帝になるって言う話、本当なんですか?」
「ん~……成り行きでそうなってしまいましたけれど、目指しているのは事実ですわ」
急に話題が変わって驚きましたが、カトレアが戻ってくるまで時間もかかりそうですので、時間を潰すついでに答えてあげることにしました。
改めて考えると無茶なお話しですわよね、たった1年で地位を失ったわたくしが皇帝となるだなんて。
「あの怖いお姉さんと一緒に?」
「カトレアの事ですわね。その通りですわ。できればもう少し大勢の方の助力を得たい所ですけれども」
カトレアの強さもわたくしには段々と伝わってきています。
それでも彼女の力だけに頼って上り詰められるほど帝位は甘くないとわたくしは考えています。
リズモール様ほどの力でも持っていない限り、帝国の軍を打ち負かす事はできませんし、できたとしてもわたくしは1人になってしまいます。
もしそれで皇帝になれたとしても、指輪によって召喚されたカトレアが契約を果たして元の世界に帰ってしまえば、わたくしの身を守るものはなくなり、すぐに皇帝の座から引きずり降ろされてしまうでしょう。
なので、わたくしには彼女以外の仲間を作る必要があると考えています。
「……とはいえ、わたくしの人脈ってそこまで広くはないのですわ~。他の貴族家の方々もアルヴァミラの者でなくなったわたくしに良くしてくださるとも思えませんし、そもそも皇帝陛下に反旗を翻すような事に協力してくださらないでしょうし……前途多難ですわ~」
今の所カトレア以外に頼れるような方もおらず、わたくしちょっぴり泣きたくなってしまいます。
「……な、なら、僕も連れて行ってください!」
わたくしの話を聞いていたオルフェットは、突然そんなことを申し出てきました。
「ど、どうしましたの急に~!?」
「さっき、カトレアさんから助けてくれた、お礼をさせてほしいんです。フィアラ様が何も言わなかったら、僕はきっとあのまま殺されていたから」
「否定はできませんわね……」
オルフェットはまだ子供だというのに、カトレアはまるで容赦しようとしていませんでした。
これはまあ襲われたにもかかわらず彼を助けてあげようとしたわたくしの方が奇特なのかもしれませんが。
「それに僕だって盗賊なんて……悪い事は本当はしちゃいけないと思うんです。だから、フィアラ様が皇帝になるって言うなら、そのお手伝いをさせてほしいんです!」
とても真剣な目をしてオルフェットはわたくしの事を見てきます。
彼の熱意は本物、そして幼い子供が後ろめたい稼業から抜け出したいというのなら、わたくしとしてはそれを後押ししたくもありますけれど……。
でも盗賊と帝位簒奪のお手伝いだと、どちらの方がより悪い事なのでしょうか……?
「お願いです、フィアラ様!」
「ど、どうしましょう~?」
「あら、何かお困りですか? フィアラさん」
わたくしが決めあぐねていると、ちょうどそこでカトレアが戻ってきていたようです。
黒鉄の手には大きな袋が握られており、揺れる度にジャラジャラと重厚感のある音が響いて来ました。
「むーっ、もしかしてその子がフィアラさんを困らせてます? もう用は済みましたし、ご要望とあればここで盗賊団、全滅させちゃいますよ?」
「ち、違いますわよ~! そうではなく……」
やはり、カトレアはオルフェットの事を敵の1人として認識している様子でした。
用は済んだなんて仰ってもいますし、このままではいつ彼が焼かれてしまってもおかしくありません。
ですので、わたくしは決心して宣言をするのでした。
「オルフェットは今から、わたくしたちの仲間になったのですわ~!!」
「!!」
「えー……」
嬉々とした表情と、明らかに不満そうな顔。
その2つを一身に受けながら、わたくしには新たな仲間ができるのでした。