炎の大将軍ですわ~!!
「――別に、皇帝さんは『イカサマ禁止』なんて言ってなかったですもんね」
賭けに勝ち、カトレアは大金を手にしながら爽やかな笑みを浮かべていました。
確かに、陛下は「恥じる事なき戦いを見せよ」とは言いましたが、他者の手を借りてはならないとは言っていませんでしたからね。
「……ん~、屁理屈ではありませんのこれ~?」
考えてみましたが、あんまり納得していいものか判断が付きません。結局陛下が止めなかったという事は、正解ではあったのかもしれませんけれど……。
「俺の意図は伝わっていたようで、安心したよ、フィアラ」
「あっ、陛下~」
事後処理を終え、陛下はロズバルトと共に戻ってきました。
炎に焼かれたオルガスの体はそのまま塵となってしまったので、元大将軍の悪事を暴いてその力を示したロズバルトが次の大将軍となるお話を兵士達に聞かせるのがメインでした。
「意図と言われましても~。……カトレアが手を貸すのが本当に正しかったのですか~?」
まだ周囲には兵士の皆様がいますので、聞こえないよう小さな声で囁きます。まあそのほぼ全員が賭博の掛け金を失った事で消沈して周りの話を聞く余裕も無さそうですが、念のため。
「子細は任せていたけれどな。違和を悟られぬよう事態を進められたのなら、それで正解だ」
陛下はわたくしの疑問に皇帝の頷きを返しました。
どうやらロズバルトを勝たせられさえすればそれで良かったようです。もしかすると先程わたくし達へ目くばせしたのはそういう思惑があっての事だったのかもしれません。
……うん? でもそれ、わたくしには結局伝わっていなかったのですけれど。
「で、ではもしもカトレアが陛下の考えを汲んでいなかったら~……」
「あの時宙を舞っていたのはオルガスの剣ではなく、こいつの首だっただろうな。良かったな、無事仇討ちを果たせて」
「……まあ、正直素直に喜んでいいのか分かんねえんだが」
復讐を果たせたとはいえ、とどめ自体はカトレアの手によっても同然でしたものね。ロズバルトはちょっぴり釈然としない顔でした。
「けど助けられたのは変わんねえからな。……ありがとよ、カトレア」
「? 私感謝されるような事しましたっけ?」
「何言ってんだよ、皇帝様の視線で俺を助けるよう動いてくれてたんだろ?」
「んー? ……あ、そういえばさっき皇帝さん私達の方見てましたね。あれってそういう意味だったんだ」
命を救われたロズバルトはカトレアの反応を見て息を詰まらせました。わたくしも同じく。
先程の彼女の行動はてっきり陛下の意図を察してのものだったと思っていたのですが、まるでそうではなかったかのような言い方です。
「じゃ、じゃあカトレアがロズバルトに手を貸したのって~……?」
「そりゃ、負けたらお金が無くなっちゃいますし。始まってすぐに援護したらバレちゃうかなーって不安だったんですけど……なんとかなってよかったです!」
「はは……じゃあ俺はあの連中が始めたギャンブルに救われたってわけか」
「正確に言うと倍率かな。オルガスの方は勝っても1割も返ってこないみたいだったから、勝たせるならロズバルトさんかなーって」
カトレアがロズバルトの力になったのは、単に配当がよかったからだったようです。
実際彼女の助力がなければオルガスの勝利は揺るがなかったでしょうし、ロズバルトはいうなれば大穴、というやつだったのでしょうね。
……では、もしもオルガスの側が大穴扱いされていたらカトレアはどうしていたのかしら、と考えると少し怖いので、考えない事にしておきます。彼女はわたくしの仲間の勝利を願ってくれたという事でいいでしょう。
「……まあ、経緯はどうあれ、これでロズバルトは晴れてベラスティアの大将軍……いや、『大炎将軍』とでも呼ぶか。兵士達の動向、しっかりと観察してくれ。大炎将軍ロズバルト」
「俺、魔術なんかからっきし使えないから本当にやめてくれ……」
「……諦めろ、俺とアッシュもフォローはする」
事実はどうあれ、あんな逆転勝利を決めたロズバルトは相応の異名が付けられてしまう事でしょう。それこそ陛下が呼んだように、大炎将軍とでも。
リズモール様を思わせるような戦いぶりに指示は集まるかもしれませんが、その分苦労はしそうです。
「……でも、これでロズバルトも前に進めますわよね?」
「……。まあ、少しはな」
ともかく、彼の探し求めた宿敵は倒す事ができたのです。それについては無事の解決を迎えたと思ってはいいでしょう。
困ったように笑うロズバルトですが、初めて反乱軍の拠点で出会った時と比べれば、その顔は別人のように晴れやかになって見えたのでした。
「やりましたねロズバルトさん! 私も見ててスッキリしました! 酷い事ばっかり言うもんですから炎の刃でバッサリいった時は爽快でしたよ!」
「それ、カトレアさんがやったんですよね」
「細かい事はいいでしょアッシュ君。それよりほら、みんなで記念にお祝いでもしませんか? ちょうどお金も増えましたし!」
「へっ、まあ、それも悪くねえか。今日くらいは祝い酒とでも」
「おっと、残念だがすぐには無理だな。これからロズバルトがオルガスの座を引き継いだ事を周知させに行かねばならんからな」
カトレアの提案に賛同しかけたロズバルトでしたが、そこに陛下の待ったがかかりました。
訓練場にいらっしゃった兵士は多いですが、それでもベラスティアの全軍というわけではありませんからね。これから新たな大将軍として各所にご挨拶をしにいかなくてはいけないようです。
「それでは仕方ありませんわね~。ロズバルトが戻ってきてから、改めてお祝いはしたいですけれど~」
「そうしてやってくれ。こいつも自分の命を賭けていたのは事実だからな。……それとカトレア」
賭博で増えたお金に手を乗せ、陛下はカトレアに笑いかけました。
「実を言うとな、ベラスティアでは決闘に金を賭ける行為は本来禁止されているんだ」
「……え」
カトレアの笑顔が引きつりました。ごく自然にそういう流れになっていたものですからわたくしも合法なのかと思いきや、やってはいけない事だったようです。
その割にはさらりと兵士の皆様も賭け始めていたような……と彼らの方を見ると、「……さー、今日も真面目に帝国を守るための訓練だ!」とわざとらしく言いながら訓練に戻っていました。
お金の詰まった袋をがっしりと掴む陛下に、カトレアはにっこりと微笑みを返します。
「……もちろん、大目に見てくれるんですよね。さっきもロズバルトさんへの加勢を見過ごしてくれてたんですし?」
「試合中はな。咎めれば決闘自体が流れるかもしれなかったから、何をしようと基本的には大目に見よう。……試合中は、な」
「むうう……。分かりましたよー。じゃあ、半分で見逃してもらえます?」
「没収、だ」
「わーー! 悪魔ーーーー!!」
容赦なく陛下はカトレアから配当金を奪い取りました。せっかく増えたお金がなくなって、カトレアは悲しそうな顔で陛下を非難します。
ただ陛下も鬼ではないようで、元手になったお金だけはきちんと返してもらえたようでした。




