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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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その怒りは炎のように、ですわ~!!

「おい、お前どっちが勝つと思うよ!?」


 陛下が決闘の開始を告げる直前、ロズバルト達から離れて行く末を見守ろうとする兵士達の中から、そんな声が飛び交い始めました。


「話の内容だけならロズバルトって方が正しいんだろうが、やっぱオルガス大将軍だろうなぁ。大将軍の愛剣の一撃でバッサリいくんじゃね?」

「でも何の策もなく挑むわけないだろ。意外とあのロズバルトの方が勝つかもしれないぞ」

「お、そうかぁ? ……じゃ、賭けるか。どっちが勝つか」

「いいねえ、んじゃオルガス大将軍に賭けるわ」

「俺も俺も!」


 勝敗の予想から、一気に流れは賭け事へ発展していきました。

 そして先程までのロズバルトを擁護する雰囲気から一転、勝者の予想はオルガスの側へ大きく傾いているようです。


「もう~! 陛下が見ている前でそんな事をするだなんて~! 怒られてしまいますわよ~!?」

「でも、なんか皇帝さん待ってますよ」

「ホントですわ~~!!?」


 賭博の流れを止めるどころか全員がどちらを選ぶか陛下は待っていらっしゃる様子でした。まるで咎める気はなさそうです。


「まあこういう流れになるのも陛下の予想の内なのかもね……」

「そうなんだ。じゃあ私も参加しよーっと。すみませんー! 私はロズバルトさんが勝つ方に賭けまーす!」

「カトレアもですの~~!?」


 兵士達にまじってカトレアも勝敗予想に参加してしまいました。

 ロズバルトの命がかかってますのに、こんな事をしても本当にいいのでしょうか……?


「もう、そんなに不安そうな顔しないでくださいよフィアラさん。ロズバルトさんの事信じて応援してあげようっていう意思表示なんですから」

「ま、まあそう捉えられなくもないですけれど~……。……ちなみにカトレア、いくら賭けましたの?」

「全部です」

「全部~~~~!!??」


 ここに来るまでに彼女が得たお金、その全てをロズバルトの勝利に捧げたようです。

 ……一応彼が勝つことを応援する、という意味でのベットなのでわたくしとしては喜ばしいはずなのですが、ちょっと不安になります。


「……カトレアって、もしかしてギャンブルがお好きなのですか~?」

「えー、しませんよそんなの。他人の勝ち負けに私のお金を使う訳ないじゃないですか」

「今全財産賭けたって言ってたのによくそんなの素面で言えるね……」

「まあこれはあくまでロズバルトさんの応援ですしー。……それに、最初から勝つ方がどっちか決まっているなら、それはギャンブルじゃありませんよね?」

「え? カトレア、それはどういう~……」

「――両者、準備は整ったようだな。では……開始ッ!」


 気になる発言をしたカトレアに聞こうとした時、2人の戦いは始まってしまいました。

 雄たけびと共に、ロズバルトがオルガスへ突撃します。


「うおあああああああっ!!!」


 力いっぱいに振るわれた剣でしたが、体格差と壁のように分厚い大剣に叩きつけられたその一撃は、オルガスの体をピクリとも動かす事は叶いませんでした。


「おいおい、命を賭けた決闘なんだぜ? もっと力を込めろや、このぐらいはよぉ!!」


 反撃に片手で振るわれたオルガスの大剣は、ロズバルトの頭目掛けて容赦なく落とされます。

 当たれば即死を免れない攻撃からギリギリの所でかわし、しかし地面へ叩きつけられた大剣の放つ衝撃波でロズバルトは大きく吹き飛んでしまいました。


「ぐ、はっ……!」

「あぁ……? んだこりゃ、てっきり腕に覚えがある奴だと思ってたのに、この程度かよ。下らねぇ」


 すぐにロズバルトは立ち上がろうとしますが、もうフラフラです。

 後ろの兵士たちからは「やっぱ無策だったかぁ」「うわー負けた負けた!」と早くもオルガスの勝利を悟った「そうだろうな」という諦めと絶望の入り混じった喚声が飛び交い始めます。

 ですが、わたくしの隣で行く末を見守るカトレアは、今も嘆く事なく悠然と眺めていました。


「っ、ファルメリアの仇……! お前だけは、俺が……!」

「ハッ、何が仇だ! 女1人殺されたぐれぇでピーピー泣きやがって! 死んだら新しいのを探しゃあいいだけだろうがよ、下らねえ!!」

「あぐぅっ……」


 立ち上がったロズバルトに急接近すると、その胸をにオルガスの足が置かれ、そのまま踏み倒されてしまいました。

 体を捩じり、オルガスは横薙ぎに大剣を振るう準備をします。


「クズ野郎が……。お前に殺されたファルメリアはもう、戻ってこないんだ。代わりは、どこにも……」

「あぁ? いるだろ、あっちでお前の事見てるあいつとか、そっくりじゃねぇか」


 わたくしを指してなされたその発言。それは殺されたファルメリア様のお顔を知らなくてはできないものです。


「ヘッ……。ようやく認めやがったか」

「それがどうした? お前が死ぬんだから、間違ってたのはお前になる。今更何言おうが関係無ぇだろ」

「ど、どうしますのカトレア~~!? このままだとロズバルトが~~!!」


 もはや絶体絶命。オルガスは己の犯行を認めるような言葉を放ちましたが、おそらく決闘で負ければロズバルトが間違っていた事になってしまいます。

 陛下もお止めになるつもりもなく、いずれにしてもこのままではロズバルトは殺されてしまうでしょう。

 そんな状況になってなお余裕を崩さぬカトレアに、わたくしは焦燥と共に問いかけました。


「んー……もうちょっと粘ってほしかったけど、そろそろかな」


 そう呟くのと、オルガスの剣が動き始めるのはほぼ同時でした。


「死んどけやぁ!!」

「く、ああああああっ!!」


 ロズバルトが起死回生の剣を振るいます。……ですが、それは苦し紛れに繰り出されたもの。

 大剣の斬撃を止めようとする行動でしたが、さきほど見た力の差で結果ははっきりしています。

 ロズバルトの剣ではオルガスの剛撃を止められず、その首が……。

 そう思っていましたが、次の瞬間に宙を舞っていたのはロズバルトの大剣、その刃でした。


「!? て、てめぇ、何しやがった!?」

「な、今のは……?」


 オルガスもロズバルトも、その事象に困惑しています。

 彼自身助かるとは思っていなかったのか自分の剣を見つめて呆然としていて、オルガスは素早くロズバルトから離れました。


「わーー! いいぞいいぞ『炎の剣士』ロズバルトさーん! そろそろ反撃開始ですよーー!!」


 そんな声援が飛んでいきます。わたくしのすぐ横から。

 起き上がったロズバルトの周囲には炎が巻き起こり始めました。まるでその炎は彼の闘気のように纏わりつき、手に握る剣でも渦巻いています。

 そして、声援を送るカトレアの両手はいつの間にか、黒鉄の触媒が装備されていました。


「……カトレア、それって~」

「不正、なんじゃ……」

「さーて、私には何の事だか。その辺りは審判が判断する事ですし」


 知らんぷりのカトレアですが、言われてみると陛下は依然試合の行く末を見守っています。

 カトレアの魔術の事を知る陛下が無言を貫くという事は……まさか、この介入は始めから想定の内だったのでしょうか?


「……え、オルガス大将軍負けるの? 待って!! 俺の今月分の給料全部が!!」

「炎の剣士って……まさかあいつアルヴァミラ家と関係あるのか! 苦戦してたのは縁起かよ!?」

「マジかよぉ!? クソ、さっきの女の子に乗っかって賭けときゃよかったぁーー!!」


 いきなりの逆転に兵士の皆様も阿鼻叫喚です。カトレアの支援を受けてオルガスを跳ね退けたロズバルトも、段々と状況を理解してきたようで、ゆっくりと歩き始めました。


「っ、おい、もう勝負はついただろ!? 見やがれ、お前の攻撃で俺の剣が溶けて折れちまった! 戦えねえから、もう俺の負けだろ!」

「オルガス、何を言っている。これは互いの命を賭けた勝負だ。勝敗はどちらかの死でのみ決まり、どちらが正しいのかもまた死によって決する。……まだ決闘の最中だ」


 ずっと口を挟まずにいた陛下でしたが、厳格にそう言い放ち、後ずさるオルガスを律します。

 そんな大将軍に、炎を纏うロズバルトは逃がさないよう立ちはだかりました。


「ぐうっ……! こんな力を隠してたってのかよ!? 信じられねえ、どうせイカサマでもしてやがるんだろ!?」

「……最後に、言い残したい事を聞いてやる。俺の妻に……ファルメリアに、何か言いたい事はあるか」

「あるわけ無ぇだろ!! こうなるんだって分かってりゃあ、お前も探し出して一緒にブチ殺しとけばよかったなあ!!」

「そうか。……時間をやって損した気分だな」


 炎を纏った剣が振るわれ、それに遅れるようにして剣閃をなぞるような炎の斬撃が飛び、オルガスの体を焼き斬っていくのでした。

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