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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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巨大なる大将軍ですわ~!!

 話し合いが終わり、陛下とロズバルトは早速大将軍の元へと向かったようです。

 オルフェットとラトゥは陛下に任せられたお仕事を果たさねばならないので別々になってしまいましたが、わたくしはカトレアとアッシュと一緒に付きてきました。

 ファルメリア様の仇討ちとなればわたくしも完全な無関係でもありませんので、見届けるべきではないかと思ったのです。


「……姫さん、先に言っとくが……見ていて気持ちのいいモンじゃねえと思うぜ」

「それでも、あなたの選択を見届けさせていただきますわ~!」

「心配しなくても人のお嫁さんを殺すような人、バッサリやっちゃう分には気分爽快ですよ! いけいけー!」

「そ、そんなテンションでやるべき事じゃないと思うけど……っていうかさっきの話に殺された人の情報なんて出てたっけ……?」


 アッシュが首を傾げる中、先頭を歩く陛下は大きな扉の前で止まりました。


「ここだ。先んじてオルガスには待機するよう命じている。……覚悟はいいな」

「ああ、大丈夫だ」


 鋭い瞳でロズバルトは頷きます。今日ばかりは、彼の疲れたような表情にも気合が乗っているのを見て取れました。

 準備の完了している彼を見て、陛下は扉を押し開けます。

 そこは大きな広間で、床には砂が敷き詰められていました。その上で何人もの兵士が木剣で打ち合う、帝国兵の訓練場だったようです。


「……おお陛下ぁ! お待ちしてやしたぜ!!」


 陛下が扉を開けたのに気が付くと、訓練場の中央で全員の組手を眺めていた男の方が手を挙げて声をかけてきました。

 他の兵士の倍近くあろうかという身長に血のように赤い髪、まるで熊のように逞しい体格のその人物は、ひと目で歴戦の戦士であると分かるほどの刀傷が刻まれていました。


「オルガス、待たせたな」

「いやぁ、他の連中の稽古を視てりゃあっという間ですぜ! ガハハハ!!」


 豪快に笑いながら彼は陛下に返しました。

 体だけでなく声まで大きいそのお方こそが、どうやらロズバルトの妻を殺したオルガスであったようです。


「……あの方とロズバルトは戦わなくてはなりませんの~……?」

「だと思う。しかも陛下ほどじゃないにしてもオルガスも猛将だから、普通に戦ったら結果は……」

「ていうかオルガスってやっぱりあれですか、人食い鬼(オーガ)から取ってたりします?」

「いや、オルガスは人間だからね?」


 巨体を前にわたくし達はこっそり話します。大将軍というだけあってつわものであるのは想像もできましたが、まさかこんなに大柄な人物だったとは。

 戦うのはロズバルトなのですが、なぜかわたくしがたじろいでしまいました。


「で、今日は何のご用件で?」

「うん、そうだな。……こんな場所を指定しておいて何だが、素面で言うには少々躊躇われるな」

「そうなんですかい? じゃあ酒でも酌み交わしてじっくり話し合いますかね?」


 言いにくそうにしながら、陛下は訓練場の中に進んでいきます。それにロズバルトが続き、わたくし達もその後へ追随します。

 オルガスもまた陛下の隣を1歩下がって歩き、彼が訓練を眺めていた場所でリゲルフォード陛下は足を止めて振り返りました。


「そうだ、まさにそういう話がしたかった」

「おお、そんじゃあ早速酒場にでも行きますかい。実は最近いい店を見付けやしてね」

「そうじゃない。俺がしに来たのは酒の話ではあるが、な」

「あぁん……? どういう意味で? あと、一緒に付いてきてるそいつらは?」


 オルガスがロズバルトとわたくし達を睨みます。

 気が付けば、周囲の兵士の方々も訓練の手を止めて陛下やわたくし達を見て驚きに目を丸くしていました。

 静まり返った訓練場で、陛下はロズバルトに目で合図をし、自らの隣へ並び立たせます。


「オルガス、この男の顔を見た覚えはあるか」

「……いやぁ、まったく。どっかの部隊の新入りですかい? そこそこ腕は立ちそうですが、俺に稽古でもつけさせに来たんで?」

「――そうか。ではオルガス、お前が過去に泥酔し、何の罪もない女を斬り殺した事は?」


 陛下のよく通るお声は静かになった訓練場の隅々まで届き、同時に周囲の兵士達のどよめきを引き起こさせます。


「陛下、何の話がしたいんで?」

「とぼけるな、数年前にお前の遠征先の町で兵士による市民の殺害が起きた事、俺が知らんとでも思ったか」

「……んな事件ありましたかねぇ。俺が知ってる限りじゃどこも平和なもんでしたが」

「もみ消せば、記録の上では残らんな。だが不自然な改竄を施した書類と市民から上がる声を聞けば自然と事実は浮き彫りになろう」

「はぁまったく、陛下はくだらん噂話にでも感化されやしたか? 証拠もなく、俺を帝国市民の殺害犯に仕立て上げようってんですかい。変な小娘に帝位をやっちまうなんて喧伝して回ったり、どうかしちまったんですか?」


 以前知らないフリを決め込むオルガスですが、陛下は構う事なく続けます。


「証拠か。では少し話を戻そう。……先程紹介したこの男、ロズバルトこそがその被害者の、夫だ」

「……へぇ」


 巨獣のような獰猛な瞳がロズバルトへ向けられます。それを受けて、彼は僅かに体を震わせました。


「え? ……えええっ!? ろ、ロズバルトが!? 姉さん、どういう事!? 知ってた!?」

「ま、まあちょっとだけ~……」


 そして衝撃の事実を今知ったアッシュはものすごくビックリしていました。

 細かく説明してほしそうにしていますが、ごめんなさい、今は彼らの成り行きを見守らせてください。


「……で、陛下はそいつが女を殺されたって言って疑いもせず信じたってわけですか。大将軍の俺を? ……まったく、なんて話だ」

「疑いは持ったに決まっているだろう。だからこそ帝国の資料を全て調べ、その末に俺はお前が罪なき民を殺した事実の隠ぺいを行ったと結論付けるほかなかった」

「嘘だろ、オルガス大将軍が……?」

「酒癖悪いってのは知ってたが、まさか殺しまでやってたなんて……」


 毅然とした陛下の言葉の数々に、兵士の皆様は陛下の言を信じて囁き始めました。

 知らぬ存ぜぬという態度を取り続けたオルガスでしたが、その姿勢がむしろ疑いの目を強くさせてしまったのかもしれません。

 それにやはりリゲルフォード陛下の人柄もあったのでしょう。力だけでなく、人望も厚い陛下のお言葉に懐疑的な方は元より少なかったように見受けられました。


「おいおい冗談だろぉ!? 俺はベラスティア帝国の大将軍オルガスだぜ!? それがどこの誰とも分かんねえオッサンのホラ話で人殺し扱いかよ! 酷いもんだぜ、散々帝国の為に尽くして来たってのによぉ!!」

「ほう、不満か」

「当然ですぜ、帝国の民を殺したなんてあっちゃぁ死刑以外の道なんざ無ぇんですから!! 黙って受け入れなんかできねぇってんですよお!!」

「そうか、では――」


 まくしたてるオルガスに、陛下は不敵に笑うとロズバルトへ体を軽く向けました。

 すると、緊張した面持ちでロズバルトが歩み寄り、差し出されるように向けられていた陛下の腰の剣の柄を握り、抜き放ちました。


「なら、どっちが正しいかは俺との決闘で決めよう」


 切先をオルガスの鼻面へと真っすぐに突き付け、ロズバルトはそう言ったのです。

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