ロズバルト大将軍ですわ~!!
わたくしの戴冠へ向けてベラスティアでの行動をしやすくするために役職を与えられたのですが、なんとロズバルトはまさかの大将軍に任命されました。
「丁度空席ができてな、いやあ、代役を探していた所だったから丁度良かったぞ」
「はは、俺が大将軍ねえ……」
反乱軍のリーダーだったロズバルトは突然の大出世にそこまで驚いた様子もなく乾いた笑いを発しています。
先にこのお話を聞いていたようですから、初耳のわたくしほどには衝撃を受けていないのでしょう。
「陛下!?!? 正気ですか!? こいつ反乱軍のリーダーだったんですよ!! それがいきなり大将軍だなんて……!?」
そしてわたくしと同じく初めて聞いたアッシュもまたものすごい剣幕で陛下に確認をしています。聞き間違いを疑っているのかもしれません。
「ロズバルトの経歴は気にするなと先程言ったじゃないか」
「経歴は無視したとしてもいきなりそんな役職に就かせるのは聞き流せません!! せめてまずはいち兵士から始めさせるべきでしょう!?」
「あまり自由に行動できないからなあ……。いいだろう欠員が出たタイミングだったし、指揮経験もあるしな」
「絶対規模が違いますよ……!!」
反乱軍も軍などとはついていましたけれど、人数的には1000にも満たない数でしたからね。
直接壊滅させにいらした陛下もそれは分かっているはずですが、そんな気楽に決めてしまっていいのでしょうか……?
「そもそも、どうして大将軍が空席になるんですか。以前城内で見かけた時は健康そのものでしたよ?」
「……まあ、身体に問題はない。歳も比較的若いし、将来有望ではあったのだがな」
「どういう事です?」
アッシュと共にわたくしも首を傾げました。どうやらご健在な口ぶりのようですが、なぜそれが「空席ができた」などと陛下は仰ったのでしょう?
「……現大将軍オルガスは処刑せねばならなくなった」
「えっ……」
「しょ、処刑~!?」
若干のためらいと共に放たれた文言にわたくしは声を出さずにはいられませんでした。
席が空くのは、そういった理由があるだなんて。
「健康で未来に期待が持てるお方なのでは~!?」
「その通りだ。……いや、その通りだった。実を言うとつい最近、そのオルガスが無辜の民の命を奪っていたと発覚してな」
わたくし達に事情を説明してくださった陛下ですが、その視線はロズバルトへと集中されていました。
アッシュとオルフェットとラトゥは特に反応がありませんが、わたくしとカトレアにはその意味する所が察せてしまいました。
「フィアラさん、これってやっぱり」
「そういう事、ですわよね~……」
アッシュ達には聞こえないようこっそり頷き合います。
以前ロズバルトの過去を教えた事があったのでカトレアもわたくしと同じ結論へ達したようでした。
ロズバルトの妻、ファルメリア様を殺害した帝国の兵士というのはオルガスという人物だったのです。
行方が不明だったとのお話ですが、まさかそんな地位にまで上り詰めていたなんて。
「オルガス大将軍が……。それは、事実なんですか?」
「目撃者の見た殺害犯の特徴が完全に一致していてな。しかもその日、オルガスは現場付近の酒場で仲間と酒を飲み、泥酔していたのも確認済みだ」
間違いありません、やはりそのオルガスなる人物がファルメリア様の命を奪ったようです。
とうとう復讐の相手を見つけ出せたロズバルトですが、まさかその相手が帝国の大将軍だったとは。
「おお、つまりその男を殺すのだな! 我に任せておけ、冤罪の可能性がないのならば我が動いてもよかろう!」
「今回は駄目だ。既にその役目を負う者は決まっている」
ラトゥが執行役に名乗り出ますが、陛下はそれを却下しました。
当然、その視線が向かう先はただ1人。
「ロズバルト、オルガスの首を刎ねるのはお前だ」
ファルメリア様を殺したオルガスの処刑、その任を命じられたのもまた、ロズバルトなのでした。
彼は陛下の言葉に膝を折り、深く礼をしました。
「……わかった、やらせてもらう」
「え、陛下……? 大将軍になるのもロズバルトで、オルガスを殺すのもロズバルトって言うんですか? 僕、話についていけないんですけど……」
オルフェットやラトゥはあまり事情を深く知らないためそこまで動揺はしていませんでしたが、アッシュだけは先程からものすごく戸惑っていました。
まあ彼からすれば帝国の反逆者がいきなり軍部の頂点に立ち、前任者を死刑にするというとんでもない暴挙が行われてるだけにしか映りませんものね。
「ああすまん、話す順序が逆だったか。ロズバルトはオルガスの悪事の証拠を掴み、その罪を己が身で償わせる。そして聖剣の暴走の阻止と罪人の処分2つの功績を称え、空白となった大将軍の地位に付ける、そういう話だ」
そんなアッシュに陛下は話を組み立て直して説明しました。
これがロズバルトの復讐である、というのは伏せて彼が大将軍オルガスの罪を裁いた勇士として扱おうと考えているようですね。
「なる、ほど……? それなら一応の筋は通る、のか?」
「これだけ聞くとそういう理由で無理矢理大将軍の席を開けようとしてるようにも聞こえますけどね」
「まさか。俺はそんな下らん理由で帝国の民を殺させはせん。オルガスに罪があるのは本当だ」
そうカトレアに言うと、陛下は再びロズバルトを見ます。
「……オルガスの行いは到底看過できん。ロズバルト、貴様の剣で被害者の、そしてその遺族の無念を晴らして来い。お前への最初の任務は、それだ」
「ああ」
静かに、ですがどこか熱を帯びたような声色でロズバルトが返事をしました。
短い返答の中に一体どれほどの感情が渦巻いているのか、わたくしにはただ想像する事しかできません。




