就任ですわ~!!
玉座の間で待っていたロズバルトの元へ戻ると再び玉座の前に整列しました。
ロズバルトの隣に立ったわたくしはちらり、と彼の顔を覗いてみます。
「……どうでしたの~」
「ん、まあ……不満って程じゃねぇかな」
小さく聞いてみましたが、口ぶりとは裏腹にそのお顔はなんとも皺が寄っていました。
かなりのしかめっ面ですが、もしかすると陛下はロズバルトの望みを叶えてはくださらなかったのでしょうか……。
「さて、待たせたなロズバルト」
「待たせたなんて、そんな。……どっちかって言うと俺の方が姫さんを呼びに行かなきゃいけない立場だったろうに」
「気にするな、俺が迎えに行きたかっただけだからな」
玉座に腰掛け、陛下はなんてことないように言います。
言われてみればわたくし達の元に来るのは陛下ではなく、ロズバルトでも良かったはずです。
いえ、むしろ陛下が動くほどの事だったとも思えません。これはやはり、ロズバルトの願いを叶えられない事へ対する謝罪のような意味合いが込められているのかもしれません。
「……ロズバルト、気を落とさないでくださいまし」
「は、何がだよ?」
どのような理由があろうとも、陛下が他者の復讐を手伝う事は了承できなかったのかもしれません。
本人はどうも意味が分かっていないようですけど。
「では改めて、フィアラが俺に代わりベラスティア皇帝となるべく準備を進めていく訳だが……まずはその事前準備からだ」
わたくしがロズバルトに慰めの言葉をかけた時、陛下も本題に入っていきました。
「事前準備って、何するんです? 皇帝さん」
「お前達4人に役職を与える」
「役職、ですの~?」
どういうことか分からずオウム返しに聞いてしまいました。
4人、ということですから多分わたくし以外の人へ、なのはなんとなく理解できますが。
その考えが正解だと示してくれるように陛下は頷く、カトレア達を見ます。
「これからこの皇都で新たな戦いが始まるからな、フィアラの仲間にも相応の身分を与えてやった方が何かと動きやすいだろう?」
「戦い? ほう、つまり我らを他国との戦争の駒にしようというわけか。面白いではないか!」
「いや、そういう話の流れじゃなかっただろ……」
臨戦態勢のラトゥにアッシュが呆れ顔で吐息を吐きました。
違うのか……? とラトゥは残念そうにしていますが、わたくしは陛下の言わんとしている事を察しました。
「帝位争い、ですのね」
「まあ……どうしても起きてしまうだろうからな」
陛下は肯定しました。
これから起こる戦いとは陛下の後を継いで皇帝になろうとする方々が引き起こすものの事を指していたのです。
頬杖を突き、陛下は深く息を吐きます。
「俺としてはもうフィアラに渡すつもりだが……それで諦めん連中も多い。できる限り俺もお前を守りはするが、それだけでは手が足りん事もあるだろうからな」
皇帝の座を与えられようとしているわたくしの命を狙う方々。どれほどの数がいるのかも分かりませんが、確かにたった1人で全てを抑え込むのは至難の業でしょう。
ただ陛下の戦いぶりを見ていると正直陛下だけで十分なのでは? なんて思わないでもありませんが、過信はよくありません。
自分の命を守るためにも、カトレア達にも協力していただくべきなのは間違いないです。
「ま、俺からのレゼメル撃破の追加報酬のようなものだ。遠慮なく受け取ってくれ」
「あの、陛下。僕そんな話聞いてなかったんですけど、この人達に一体どんな役職を?」
「フィアラを狙う者の情報を集めやすいよう、各所にばらけて用意した。まずカトレア、お前はアッシュと共にフィアラを守る『騎士』になってもらう」
「わー、騎士ですってフィアラさん! じゃあ私、今日から女騎士カトレア? かっこいいー!」
「張り切ってますわね~」
わたくしを護衛する騎士の任を与えられ、カトレアは大はしゃぎです。
アッシュの方は「そんな気軽に叙任していいのかな……」と呟いていましたが、陛下は聞こえないのか気にせず続けました。
「オルフェットは城の厨房で料理人として働いてもらう。食事に薬が盛られないかを常に見張れ」
「え、は、はい……! 頑張ります!」
「あとはラトゥだが」
「フ、流れからするに我は排除担当か? 怪しい物を発見次第殺して回ればいいのだな、楽勝だ!」
「いや、城中を走り回っていろ。万一冤罪があっては困る」
「なんで我がかけっこなんぞせねばならんのだ!?!?」
「そういう意味ではないと思いますわよ~」
陛下は多分諜報役を彼に任せたいのでしょう。
お城の中のお話しを聞きまわってよからぬ計画を立てている方がいないかを確認させたいのだと思います。
「ぬうう、ただ走るだけでは我の圧倒的な力を発揮できんではないか……!!」
「万一っていうか絶対無関係の人も殺しそうですもんね、足だけ使わせるのが正解かも」
「先に敵対者の芽を摘むようなものだ、別に構わんだろう」
「阿呆。フィアラを血の皇帝などと不名誉な仇名で後世に名を残させる気か。殺しは無しだ、不穏分子も相応の罪には問うが正式な手続きの後だ」
「……? カッコいいではないか、血の皇帝」
その反応に、陛下は眉間に皺を寄せてしまいました。
わたくしも不安極まりないので流石に陛下に言われた通りの事をするよう後で命令しておきました。
「……ともかく、今任命した通りだ。話は通しておくから、今日からそれぞれの持ち場についてもらうぞ」
「あら~……? あの、陛下~、ロズバルトは~?」
カトレア、オルフェット、ラトゥの3人の配置は聞きましたが、彼だけ名前が出ていません。
それに気付いて質問したところ、陛下は思い出したように口を開きます。
「おっとすまん、それだけ先に話しておいたから言い忘れていた」
どうやらロズバルトには一足先に告げられていたようです。わたくし達が聞いた覚えはないですから、彼のお願いを聞いていた時に話したのでしょう。
「それで、ロズバルトはどんなお仕事がありますの~?」
「ロズバルトはベラスティア帝国兵を束ねる大将軍になる」
「あら~、大将軍になりますのね~。それは大出世~……」
ふとロズバルトの方を見ると、またお顔に皺が寄っていました。
なるほど、どうやら彼の表情が硬かったのはこれが原因のようですね。なにせその役職はベラスティア全土の治安を守るべく活動する帝国兵士達の頂点で……。
「って、大将軍ですの~~~~!?!?」
とんでもない大役を任されていたことに気付き、わたくしは遅れて絶叫するのでした。




