顔合わせですわ~!!
「というわけで、今日から俺達と共にフィアラ戴冠の手伝いをしてくれる事となった、アッシュだ」
「よろしくお願いいたしますわね~」
そのままの足でわたくし達は玉座の間へ集合し、既に集められていたロズバルトら3人にアッシュの事を紹介します。
流石にずっと弟に背負われたままでいるのもどうかと思いますので、今はカトレアに支えてもらっています。
「ん、どうしたアッシュ。不満そうな顔だが」
「……あの陛下、あいつ反乱軍の」
「俺と共に皇都の危機を救った仲間だ、気にするな」
「えぇぇ……?」
1度戦った事のあるロズバルトを指差してアッシュは不服そうな顔でした。帝国に不和をもたらす組織のリーダーだったわけですから、仕方がないですね。
陛下はもう不問としてくれる方向でいらっしゃいますが、アッシュの方はそうもいかないようです。対するロズバルトもバツが悪そうに視線を逸らしていますし。
「大丈夫ですのよアッシュ、ロズバルトはそんなに悪い方ではありませんの~」
「そんな事言われても……。反乱軍って事は皇帝の命を狙うような集団だろうし、どう言い繕っても悪いんじゃ……」
「ほう、善悪の話がしたいならば、まず貴様が聖剣に支配されてこの帝国を襲った事からすべきでないか?」
猜疑の目で見られるロズバルトにラトゥが割り込んできてその話をしてしまいました。
「う……」
「おお効いているではないか! であれば貴様が引き起こした破壊にもっと目を向けてみるがいい! あれほどの損害を出して死人がいないなどと思うておるまいな、我が貴様に何度殺されたと思ってがあああああッ!!」
レゼメルの件で今も負い目を感じているアッシュに詰め寄ってきたラトゥでしたが、陛下の手で真っ二つにされて口を閉じました。
「まったく……こいつは人の心というものが分からんのか?」
「ククク、そんなものをヴァンパイアに期待されてもな……」
左右に分かたれたラトゥに溜息を吐きながら陛下はアッシュへ近付いて優しく肩に手を置きます。
「先程も言ったが、気にするな。お前がやった訳ではない」
「……でも、だとしてもレゼメルが、お城の人を……。やっぱり僕は」
聖剣の力で焼かれたお城の有り様からしても薄々は察していましたが、やはり犠牲は出てしまっていたのでしょう。
彼の意思でなかったとしても、自分の握る聖剣のせいで誰かが死んでしまう瞬間を見るのは、辛かったでしょうね……。
「大丈夫ですのよアッシュ、気にしないで、とは言ってしまっていいのか難しいですけれど、わたくしは決してあなたの事を責めたりはいたしませんから~……」
「姉さん……」
「この一件は俺が引き起こした事故のようなものだからな、アッシュはそう重く受け止めるな」
「そうだそうだ、人を殺した程度でそんなにくよくよするでないわ!!」
「……お前、誰の味方がしてえんだよ……」
アッシュの行いを責めたかと思えば急にラトゥは肩を持ち始めました。あまりの手のひら返しにロズバルトもしかめっ面です。
「帝国の人間が何人死のうが我の知った事ではない! 我が求めているのは散々何度も焼き殺してくれた事への詫びだ! リゲルフォード! 我らに寄越すとか言っていた褒美はどうなったのだ!?」
どうやら彼が問い質したかったのはそちら側の話だったようです。
確かに以前そんなお話はしてましたものね。お願いを叶えてくださる、なんて発言もありましたからレゼメルを倒して落ち着き始めた今ならその約束を果たしてくれると踏んだのかもしれません。
特にラトゥは聖剣レゼメルとの戦いで1番傷を負いましたし、その分追加で報酬を求めているのでしょう。
「お前にはもう渡しているだろう、約束通りの褒美を」
「この国で生きる権利だったか! よもやマジだったとは流石の我も驚きだぞ!! ……本当に無いのか? あれほど聖剣の破壊に貢献した我に?」
「したか……? まあどちらにせよフィアラの弟の心を傷付けた分で帳消しだな。これ以上願いがあるならまずは帝国に貢献してからにしろ」
「何ィィ!? そいつフィアラの弟だったのか!? む、言われてみれば中々可愛い顔をしているではないか……!」
ラトゥはアッシュがわたくしの弟である事を知らなかったようです。言っていませんでしたっけ……?
わたくしが首を傾げていると彼はアッシュの手を取り、下から顔を覗くように膝を折りました。
「フィアラの親族とあれば我も礼を尽くそうではないか。アッシュとか言ったな、先程の発言は忘れるがいい。仲良くしようではないか」
「姉さん、僕こいつ嫌い」
手を振りほどき、わたくしに隠れるようにアッシュはラトゥから離れました。
「ラトゥってわがままな所がありますものね~」
「そんな可愛く一言でまとめて良いものなのか私は疑問ですけど……」
人とは違う種族なせいか、ラトゥには自分勝手な部分が目立ちます。アッシュから嫌われてしまったのも無理はないでしょう。
「なっ、我の何が気に食わんと言うのだ! そう逃げんでもいいだろう! 何なら特別に貴様も我の眷属にしてやってもいいぞ!」
「それはちょっと嫌ですわ~、ラトゥ、あんまりアッシュには近付かないようにしてください」
「ぬおおおおおっ、我に命令するなああああああッ!!」
力を取り戻した今でも主従関係は変わっていませんようなので、ラトゥは全力で後退して玉座の間の外まで行ってしまいました。
別にそこまで遠くへ行かなくてもよかったんですけれど。
「……。というわけで、ここに集まった者の中には人を殺める事に躊躇わない者も多い。遺族への詫びならば俺も共にするから、お前も気負い過ぎない事だ」
「何がというわけでなのかはよく分かりませんが……分かりました」
ラトゥの騒がしさで少しは元気が戻って来たのか、陛下に頷くアッシュの顔はさっきよりも明るさを増していました。
これで彼が必要以上に自分を責める事はなくなったでしょう。
「――さて、丁度褒美の話も出た事だし、俺と共にレゼメルの破壊に協力してくれたフィアラ達にはどんな報酬が欲しいか聞いておかねばな」
アッシュが平常に戻りつつあるのを陛下も察したのか、切り出してきたのはその事でした。
聖剣の暴走を止めたわたくし達5人への褒美。ラトゥはまあ陛下の中で除外されているので、4人分ですね。
「では、まずフィアラから聞かせてもらうか」
「わたくしは大丈夫ですわ~。陛下から帝位をお譲りいただけるのですし、これ以上のご褒美なんて貰うわけには~!」
「そうか? 別に遠慮せずとも、ついでに世界全土の土地を帝国のものとするくらいまでなら叶えてやるが」
「い、いりませんわ~~!! いいですから他の子を優先してあげてくださいまし~~!!」
せっかくですが、わたくしは遠慮します。領土が増えても後で困るだけなんですから、いらないんですってば。
「ではカトレア、お前は」
「んー、私も別に。その分フィアラさんのお願いを叶えてあげてほしいなって思ったんですけど……。やっぱり、世界獲っておきます?」
「ですから結構ですってば~~~~!!」
どうしてこの人達はそんなに世界征服をしたがっているのでしょうか。そんなに魅力的です?
ともかくわたくしもカトレアも陛下からの褒美を辞退しましたので、残る2人へ視線が向かいました。
「オルフェット、ロズバルト、2人はどうだ? ……流石に、お前達も「何もいらない」とは言わんよな」
「え、じゃ、じゃあ僕は……美味しいごはんが、食べたいです」
「……子供らしい事だな。まあ無欲よりも叶えやすくはあるか。期待しておけ」
世界征服の次に出てくる願いとしてはささやかなものですが、陛下はしっかりとオルフェットと約束しました。
そして、残るロズバルトへと彼の瞳は動きます。
「残るはお前だな。一度は剣を交えた仲だが、気にせず言ってくれ。……美味い酒を飲みたいとでも言うなら、俺が相手になってもいいが」
「……じゃあ、まずは俺とあんただけにしてくれ」
「……ほう」
冗談交じりの陛下の言葉を遮り、ロズバルトはそう言い放ちました。
彼の昏い瞳の奥底にあるものを見抜いたかのように陛下は目を細め、玉座の間は鋭い静寂に満ちていきます……。




