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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
後編 フィアラ戴冠編

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戴冠へ向けて、ですわ~!!

「フィアラ、俺に代わり皇帝となるお前にはこれから戴冠のための準備に励んでもらうことになる」


 話し合いの末、陛下は最後にそう結論を出しました。

 ただわたくしの命を救うためだけに皇帝の座を譲り渡して下さるとはいえ、その下準備も怠りたくはないようです。

 残された時間は少ないとはいえ、カトレアとの契約を成してからまだ1月も経っていません。ほぼ1年分の猶予はあるのですし、陛下がそうしたいと仰るのならばわたくしとしてもできるだけベラスティア皇帝としての振る舞いを身に付けさせていただきましょう。


「という訳で、まずは脅威を退けた事を民に知らせに行かねばならんな。俺が健在である事を示し、フィアラの存在もアピールしに向かう」

「わ、わかりましたわ~!」


 立ち上がり、陛下はわたくし達を連れ立って皇都へと繰り出す事を宣言しました。

 一時は反乱軍の一員とまで成り果てたわたくしが、まさか堂々と陛下の後を告げる事になるとは思いませんでしたが、これから頑張らせていただきます!


「あぅ、痛い~」


 グッ、と拳を握ろうとしたら、先のレゼメルとの戦いで火傷を負った側の手がビリビリと痛みます。

 火の中に手を突っ込んでしまったような痕がありますが、しばらくすれば綺麗に治るような範囲です。とはいえ痛み自体はありますから無理に動かさないよう気を付けなくてはいけませんね……。


「……フィアラさん、やっぱりその手、痛むんですか?」

「ちょっぴりですけどね~。見た目ほど酷くはないのですけれど、しばらく物を持つのには苦労するかもしれません~」

「そうですよね。……ごめんなさい、私がもっと早く動くべきでした」


 火傷を見て、カトレアはわたくしを守り切れなかった事の責任感を感じたのか後悔の表情と共に頭を下げてきました。


「そんな、謝る事ではありませんわ~! まさかあの状態のレゼメルが動けるだなんて思えませんもの~!」

「でも警戒はしておかないといけませんでした。伝説の聖剣ってくらいなんだし、もしもあの姿のレゼメルがまだ力を維持してたら……取り返しのつかない事になってましたから」

「心配してくださるのは嬉しいですけど、それはもしもの話でしてよ~? ……ほら、触ってくださいまし~! わたくしの手、しっかり残っていますで……あいたた」

「痛いんじゃないですか……」


 焼けた手をカトレアの両手に握らせます。しっかり痛みはあるのですが、それでも彼女の体温が手袋越しでもちゃんと感じ取れます。

 確かにレゼメルが弱っていなければこの手が残っていたかどうかさえ定かではなかったと思います。

 でも、そうはならずに済んだのですからカトレアにはあまり責任を感じて欲しくはありません。


「もう……。フィアラさんのそんな顔、見てられません」

「え……? カトレア、これは~」


 痛さを堪えて微笑みかけたのですが、そんなわたくしに彼女は手を離しました。

 そうして、自身の嵌めていた白い手袋をわたくしの手に付けさせたのです。


「しばらく、フィアラさんに貸してあげます。すっごくいい生地だから少しは楽になるはずですから」

「確かに、ちょっと痛くなくなったような~」


 手袋の上から指先を撫でてみると、先程よりも痺れるような痛みが薄らいだ気がします。

 手首の先まですっぽり覆った生地は何が材料なのか、すべすべしていて肌に吸い付くような感触で手全体との一体化したような感覚でした。

 通気性もしっかりしていて、まるで蒸れる感じもありません。これならずっと付けていられそうです。


「……よかったー。やっぱりフィアラさんは苦しんでるよりもそっちの顔の方が可愛いですよ」


 手袋の感触を気に入ったわたくしの顔を見て、彼女は笑いかけてきました。


「これからいろんな人に顔見せするんですし、できれば怪我も隠しておきたいですもんね」

「そうですけど~……これ、カトレアの大切なものだったのではありませんの~? わたくしが使ってしまってもいいのでしょうか~……?」


 わたくしの手に嵌められたこれは、カトレアにとって非常に大事な物です。レゼメルと戦う時、わざわざ預けてくるほどなのですから。

 ご友人か両親か、それとも兄弟姉妹なのかは分かりませんがとても丁寧に扱っているのが伺い知れます。もしかすると、故人からの贈り物だったりするのかも。

 そんな心配をよそに、彼女は首を縦に振りました。


「フィアラさんには、特別です。乱暴に扱ったりもしないって信じてますし……、無傷で守り切れなかったお詫び、とでも思っていてください」


 わたくしを信じ、彼女はこの白手袋を貸して下さったようです。これにどれくらいの想いが込められているかは想像もつきませんが、何にせよ唯一無二の品であることは変わりません。

 その信頼にこたえるためにも、大事にしなくてはいけませんね。


「ぬ? 片手だけに手袋とはこれまた奇怪だな。我の目からは非常にダサく移るぞ」


 そんな所へラトゥがこちらへ寄ってきてカトレアからお借りした手袋をした腕を持ち上げました。

 まあ、ちょっと不格好なのは否定できないのですけれど……。


「……ラトゥ、そのくらいにしてくださいませ~。目が怖いですので~……」

「怖い? なんだ、我の瞳の美しさに恐怖でもしているのか? ……んん、よく見ればカトレアも片手手袋ではないか! どうした、それは何か意味のある行為なのか?」

「――そうですね。結構便利なんですよー」

「ほお、どんな利便性があるのだ」

「それはですね、ラトゥをいつでも殴り飛ばせるようになったりするんです。こんなふうに」


 黒鉄の触媒を装着し、ラトゥの横面に強烈な拳が叩き込まれました。

 ロズバルトの頭上を飛び越えて壁に彼の体が半分ほど突き刺さります。


「お、おお……便利でよかったな」

「……また修繕箇所が1つ増えたな。まあ誤差のようなものだがほどほどに頼む」


 レゼメルの炎で溶かされた壁に埋まる彼に視線が集まり、しかしラトゥへの同情の視線はないようでした。


「でもやっぱり両手に嵌めてた方が可愛いですよね。はいフィアラさん、こっちも大切にしてください♡」

「い、命に代えましても~……」

「えー、そこは流石に自分の命を優先してくださいよー」


 笑顔でもう片方の手袋もわたくしの手へと預けられました。

 ともかく、本当に彼女の大切な品であるのはしかと伝わりました。汚したり、傷付けたり、絶対にしないように心がけます。

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