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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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聖剣を砕く少女ですわ~!!

『馬鹿な……我が刃が、こんな小娘にッ!?』


 カトレアに粉砕され、紅蓮聖剣の断末魔と共に熱を帯びていた刃の欠片が急速にその赤い輝きを失っていきます。

 本体を壊されたレゼメルの声は聞こえなくなり、アッシュの体は糸が切れるようにその場へ崩れ落ちました。


「ふぅ……。流石に、ちょっと熱かったですね」


 手の中の聖剣の破片を床に落とし、カトレアは息を吐いてわたくしに視線を向けてきます。

 終わりましたよ、そう言ってくれているように見えて、すぐにアッシュの元へ駆けつけました。


「アッシュ! 無事ですの~!」

「……息はあるな、フィアラ、そのまま看ていてやれ」


 返事はありませんでしたが微かに息はあるようです。あんなに熱い中でしたが火傷などもほとんどないようで、ひとまず命に別状はなさそうでした。


「……カトレアも、ご無事ですのね~!?」

「えへへ、私結構頑丈なもので」


 照れながら言う彼女の体にはやはり傷のようなものはなさそうでした。服の端が若干焼けているくらいでしょうか。

 ……それにしても陛下さえ生死の境をさ迷う重傷を負う炎に身を投げ出して無傷というのは、果たして頑丈の一言で済ませていいのかしら。


「ふっ、それにしても呆気のない幕引きよな。リズモールと共に我を苦しめた赤き剣の最後がこんなものとは」

「あ……そういえばこれ、フィアラさんの家の家宝みたいなものでしたよね。……どうしよう、流れで壊しちゃいましたけど」

「気になさらないで。アッシュを救うためには仕方がありませんでしたわ~」


 眼前の床に落ちた紅蓮聖剣の柄から先には刃が残っていません。

 アルヴァミラ家の始祖であるリズモール様の使った聖剣ではありますが、いかに偉大とはいえ過去の人。いくらなんでもアッシュの命には代えられませんから。

 その力が本物であったのは間違いありませんが、カトレアを責めるつもりは一切ありません。……本当~にちょっとだけなら、勿体ないと思わなくもない所はありますが。


「おっかねえ剣だったな……。よく壊せたもんだぜ」

「破片は、片付けた方がいいですよね、フィアラ様」


 遅れてロズバルトとオルフェットもやってきます。

 もう力を失っている様子ですが、それでもレゼメルは凄まじい力を有する聖剣でした。このまま捨て置くわけにもいかないでしょう。


「そうですわね~、できればアルヴァーン大火山に戻しておきたいですわ~」


 理由あって火山より引き上げてしまいましたが、やはりリズモール様が眠る場所へお返ししたい所です。


「それでは破片を集めておきませんと……。あ、その前にカトレア、手袋お返ししますね~」

「預かっててくれてありがとうございます、フィアラさん!」


 レゼメルへ突撃する前に渡されていた手袋をカトレアに返すと、嬉しそうに受け取ってくれました。

 大切な想い出の残る品という話を聞いてからですと、確かに手袋を嵌める手付きに慈しみを感じる気がします。きっとご両親や友人からのプレゼントなのでしょうね。

 ともかく聖剣の破片の収集はアッシュを抱いているわたくしではできませんので、ラトゥにお願いしました。


「ラトゥ、回収はお願いしますわ~」

「それが正解だろう。何かあってもそいつなら問題ないしな」

「貴様、我をカナリアか何かだと思っているのか!?」

「まさか、もっと評価しているさ。死んでもすぐ生き返るから良心が痛まず済むだろう?」

「下に見ているではないか!!! 本当になんで貴様には眷属化の効力がないのだ!?」


 陛下に叫びながらも、わたくしの命令を無視もできないようで体は聖剣の回収に素早く動いています。


「……まあいい、我が宿敵の獲物を拾い集めるのも気分は良いからな。おっと、取りあえずこれは労働の対価として頂いてはおくぞフィアラよ」


 カトレアに砕かれた紅蓮聖剣レゼメルの柄を掲げ、ラトゥはそう申してきます。


「いいですけれども~、一体何に使うおつもりですの~?」

「特に使いはせん。我が打ち倒した証として、フェリアス城に飾ってくれるのよ」

「……お前は何もしていないだろう」

「したわ!!! 散々貴様らの代わりに攻撃を受け止めて引き付けてやっただろうが!!!」

「私達にも普通に攻撃飛んで来てたんですけど」


 彼の戦果については陛下とカトレアには首を傾げておいでですが、ラトゥも頑張ってくれたのは事実です。

 全部でないなら、少しくらいはあげてもいいでしょう。


「っ……あ……姉さん……?」

「あっ、アッシュ~! 気が付きましたのね~!!」


 この騒がしさで意識を取り戻したのか、アッシュは瞳を重そうに開けてわたくしを視界に入れました。


「大丈夫ですの? どこか痛い所とかは~……」

「だ、駄目だよ……」

「駄目? やっぱり何か怪我を~!?」


 見えない場所に負傷しているのかと思いましたが、彼は必死に首を振って否定しました。


「違う、あいつ……まだ、生きてるんだ」

「あいつ? って、まさか~!?」

「うおおおおっ、なんだ! 急に熱くなってきたぞ!?」


 その声に顔を上げれば、輝きを失ったはずの聖剣が再び赤熱を始めています。

 レゼメルの柄を握るラトゥが発熱を訴えると、同時にその腕が発火しました。

 突然の熱に柄を手離しましたが、それでもなお紅蓮の聖剣の輝きは増していく一方です。


『おのれ……このまま消えてなるものか!』


 取り落とされた聖剣の柄は、落ちている破片と共に赤白く熱されていき、炎の柱が立ち上りました。

 柱はそのまま人の形に変化し、アッシュと似たようなシルエットに。


「こいつ、まだ力を残していたか!」

『アッシュよ、貴様の体を、この我に寄越せ!』


 レゼメルの狙いはアッシュでした。人をかたどった炎がわたくしと弟の元へと歩いてきます。


「っ、嫌! アッシュは、あなたなんかには渡せませんわ~!!」


 アッシュを胸に抱き、レゼメルから庇うようにして背を向けましたが、相手は構う事無くこちらへ手を伸ばしてきます。

 一瞬で伸びてきたそれを思わず振り払いますが、ただの炎の塊では弾くこともできず、指先に嫌な痛みが。


「あ、つっ」

「っ!! どけぇ!!」


 レゼメルがアッシュに触れる直前、炎の塊をカトレアが叩き潰しました。

 揺らめいた人型の炎はそのまま霧散し、消え去ったようです。

 またレゼメルが人の形を取る前にカトレアは残されていた聖剣の破片を粉々に粉砕し、元の形を留めないほどに破壊しました。


「ああっ、我が飾ろうと思っていたのに!」

「そんな下らない事もう諦めろ! 刃が砕かれてなお力を使えるなら安心などできん!」


 完全に砕かれていく聖剣を見てラトゥは名残惜しそうにしています。

 しかし先程の行為は最期の悪あがきか何かだったのか、もうレゼメルは何の反応もありません。今度こそ、完全にその力を失ったようです。


「……ごめんなさいフィアラさん、大丈夫ですか!?」

「平気ですわ、ちょっと火傷してしまいましたけれど~」


 聖剣の力が消えた事を確認して、すぐにカトレアがわたくしの元へ戻ってきました。

 振り払おうとした手がすこし焼かれましたが、あの時点でかなり弱っていたのか元に戻らないほどの傷にはならなさそうです。

 最後の最後でちょっとだけびっくりはしましたが、今度こそこれで紅蓮の聖剣からアッシュを救い出す事ができたのでした。

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