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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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紅蓮の聖剣皇帝ですわ~!!

 焼き溶かされたお城の奥、玉座にアッシュは座していました。

 凄まじい熱気の満ちる部屋の中、赤熱する聖剣レゼメルを傍らの床へ差してその身を玉座へ投げ出しています。

 以前会った時とは違い、溶岩のように赤く燃え上がる色をした鎧を身に纏った彼の風貌は、聖剣の炎の揺らめきのせいか王のような風格を持って見えました。


「弟さん、前より大人っぽくなってますね」

「おお、俺の鎧じゃないか。どこから引っ張り出してきたんだ?」

「……辛そう、ですわ~」


 聖剣に支配されたアッシュはほとんど表情がありませんが、それでもわずかに苦しみを訴えているような気がします。

 わたくしの思い込みかもしれませんが、彼は解放されたがっているように思えてなりません。


「じゃあ、早く助けてあげないとですね!」

「だな。……まあ俺もオルフェットもこんな熱い中動ける自信はねえが」

「構わん、貴様らはフィアラを連れて下がっていろ。あの聖剣、我が折り砕いてくれるわ!!」


 わたくし達を押しのけてラトゥが玉座の間へと乗り込んでいきます。

 1歩ごとに焼け付いた石床が音を立てて彼の靴を熱しますが、構う事無く堂々と歩くラトゥ。

 彼の接近に気付き、アッシュは顔をこちらへと向けました。


『敵か。貴公もこの、紅蓮聖剣レゼメルに刃を向けるか』


 アッシュの口から発された声は、アッシュのものではありませんでした。

 威厳あるその声色はまさに王のようで、その体を動かしているのはやはりわたくしの弟ではなく聖剣の方なのでしょう。


「フハハハハ、そうだ! 我の名はラトゥ・ノトリアス・フェリアス! 貴様を殺し、このベラスティアの新たなる王に」


 喋っている途中で聖剣が引き抜かれ、座ったままの姿勢でアッシュが振り抜きます。

 すると部屋全体を薙ぎ払うように業火が巻き起こり、ラトゥが焼かれてしまいました。

 城壁を熔解させる一撃は簡単に彼を焼き尽くし、灰に変えてしまいます。


「貴様ァ! まだ我が喋っている途中だろうが!! 普通名乗りは全て聞き終えてから戦いを」


 再生したラトゥが文句を言いますが、気にすることなくまた炎が彼を灰へ変えました。


「聞かんかぁ!!」

「ははは、興味を持たれておらんな、ラトゥ」

「敵があんな長々喋ってたら私も焼きますけどね、めんどうだし」


 聞く耳持たず、無慈悲に聖剣を振るうレゼメルに痺れを切らしてラトゥは襲い掛かります。

 ですが驚異的な威力の火炎が彼の行く手を阻み、近付く前に何度も灰にされていきます。


「……姫さん、こりゃ俺らはマジで離れてた方が良さそうだぜ」

「そうですわね~、戦いは陛下達にお任せしましょう」


 ロズバルトに頷き、オルフェットと共に玉座の間から距離を置きました。

 あまりに激しい火力に、とてもわたくしのようなか弱い乙女ではついていけません。

 弟の救出に手を貸せないのは歯がゆくもありますが、ここは戦える3人を頼るしかなさそうです。

 そんなわたくしの視線を受けて、陛下とカトレアは頼もしく頷いてくださいました。


「存分に任せておけ、今からアッシュにかけてやる言葉でも考えておいてやってくれ」

「お家もお城も焼いちゃいましたからねー。フィアラさんが慰めてあげないといけませんよ」

「はい、アッシュを……お願いしますわ~!」


 頷き、2人は駆けていきました。既にレゼメルと対峙しているラトゥに続き、玉座の間へと走ります。


『なんとしぶとい……!』

「遅いぞ貴様ら! 何度我が焼かれたと思っている!」

「別に死なんのなら回数なんてどうでもいいだろう?」

「おのれ貴様不死をなんだと思っている!?」


 紅蓮聖剣から放たれる炎を掻い潜り、陛下がアッシュの手にある聖剣を狙います。

 弟を操っているのはあの剣。であればそれを引き離そうとするのは当然の流れでしょう。

 金属同士が激突する音が響きますが、レゼメルを弾き飛ばすには至りませんでした。


「……今度は届いたが、重いな!」

「あれを取り上げちゃえばいいんですね、それなら私が!」


 陛下の狙いを察してカトレアもレゼメルへ狙いを定めます。

 剣の閃きに合わせて巻き起こる炎の間を突き進み、黒鉄の掌で赤熱した刀身を掴み取りました。


『ぬうっ、させるものかッ!!』

「無駄無駄、私の方が力強いんですから……きゃぁっ!!」


 引っ張られ、立ち上がったレゼメルの体から突如爆発的な炎が。

 ラトゥを見ても分かるようにそれは致死の熱量。流石のカトレアも身体を庇うようにして退避します。

 間一髪で炎から逃れた彼女は青ざめた顔をしていました。


「っ、危ない……! あやうく燃やされるところでした!」

「聖剣だけを狙うのは厳しいか!」

「甘いぞ貴様ら、ならば狙うはその担い手よ!」


 そう言って、ラトゥはレゼメルへ迫り、アッシュの頭部へ鋭く手刀を突きこもうとします。

 が、陛下が彼の腕を切り落とし、カトレアの炎で焼かれました。


「な、何をする阿呆共!? 敵を見誤ったか!?」

「その言葉そっくりそのまま返します!」

「あれはフィアラの弟だと言っているだろう!! アッシュに傷を付けようと言うならまず貴様から斬るぞ!」

「別にいいだろう! 死んだところでまた我の眷属にすれば済むだろうが!」

『――敵の前で談笑とは、余裕を見せてくれる!』


 レゼメルが聖剣を床へ突き立て、力を込めると彼を中心として嵐のように炎が巻き起こります。

 玉座の間を埋め尽くすほどの火炎が吹き荒れ、陛下とカトレアは一旦わたくし達のいる場所まで後退しました。

 ラトゥは、その物言いに腹を立てた陛下が蹴飛ばしてしまったので逃げ遅れて嵐に飲み込まれました。


「ぐあああああああーーーーッ!!!!」

「なんという威力だ、ラトゥが幾度も焼失と再生を繰り返しているぞ」

「わ、我を力の物差しだとでも思っておるのか貴様ーーッ!!」

『こ、これでも殺せないのかこの男は!?』


 ラトゥの耐久力にレゼメルも驚きを隠せないようです。不死身のヴァンパイアですからね。


「ですが、これでは近付く事すらできませんわ~……!」

「……。フィアラさん、ちょっと」


 恐ろしい炎熱の嵐は隙間すらなく、超える事は到底叶いそうにありません。

 そんな時、カトレアがわたくしの元へ戻ってきてあるものを手渡してきました。


「これを」

「あら、これはカトレアの手袋~」


 彼女がいつも身に付けている、白い手袋をわたくしの手に握らせたのです。


「……フィアラさんに預けます。持っててください。すっごく、大事なものなので」

「あらあら、想い出の品なのかしら~?」

「はい、フィアラさんになら渡してもいいかなって」


 一見するとごく普通の手袋ですが、これを見るカトレアの瞳はとても熱の籠ったものでした。

 きっと、家族から送られた大切な品なのでしょう。紅蓮の聖剣に焼かれないよう、それを一時的に預けてくださったのですね。


「それじゃ、お願いします。絶対になくさないでくださいね!」

「え、カトレア!?」


 手袋を握らせると、彼女はそのまま玉座の間へと走りました。でも、そこには今も聖剣の巻き起こす炎が渦巻いて壁のようになっています。

 そこへ、彼女は臆する事なく飛び込んだのです。


「なっ……!? 待て、死ぬぞカトレア! あんなものは人の身では耐えられは――!!」


 陛下の制止すら構わず、戻ってくる気配すらありません。

 一瞬でラトゥを灰にする業火にその身を晒した少女が持つはずもなく、カトレアは……。


『!? 貴様、何を!?』


 カトレアの死に心臓が止まるような思いを感じた時、動揺するレゼメルの声が。

 あの炎の中で何が起きているのかを理解するよりも先、なんと炎の壁が消え始めました。

 嵐が晴れた玉座の間、その中心には紅蓮聖剣レゼメルの刀身に再び掴みかかり、アッシュの手から引き剥がして天に掲げたカトレアの姿が。


「さよなら、炎の聖剣さん!!」


 ちょっぴり衣服を焦がした彼女は、そう叫んで赤熱するレゼメルの刃を黒鉄の拳で握り砕くのでした。

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