こうべを垂れる花ですわ~!!
「とりあえず、今日はここで一旦休みだな」
暴走した聖剣を止めるために皇都を目指し始めたわたくし達ですが、なにぶんフェリアス城は深い森の中。
とても1日で皇都まで行けるような距離ではありませんでしたので、日が落ち始めた辺りで近くの村の宿で休むことになりました。
宿屋の店主は皇帝陛下のお顔を見て大変ビックリされていましたが、陛下は気にする事なく代金を払っていました。
「……それで皇帝さんよ、俺みたいなのがあんたと一緒に行動していいモンなのかよ?」
そして、そんな陛下へロズバルトは疑問を投げかけました。
流れで一緒に来てくださっていますが、彼は本来ベラスティアに弓を引こうとした反乱軍のリーダーだったのです。
既に顔も知っていますし、なのにそれには触れない陛下がどんなお考えなのか気になったのでしょう。実を言うとわたくしもです。
「うん、俺には何の話か分からんが」
「俺が……反乱軍に居た事だよ。マジでお咎め無しだってのか?」
周囲の方に聞こえないよう声を潜めた彼を、陛下は笑いました。
「フ、まあ出頭するというなら止めはせんが……今は俺と共に窮地にある皇都を救うべく立ち上がった勇士として見ているから、できれば勘弁してほしいがな」
「お、俺が勇士……!?」
「柄ではないか? だが俺ならば壊滅した反乱軍など捨てて、皇帝と共に戦う道を選んで華々しく帝国へ迎え入れられる選択をするぞ?」
「別に俺は、受け入れてもらいてぇなんて訳じゃ」
「そうか。何にせよ無事に事が済めば望みの1つくらいは叶えてやる。今は俺の為に働く事だけ考えておけ」
「っ。望みを、か」
陛下の言葉を聞いたロズバルトは息を飲みました。
彼が反乱軍なんてやっているのは奥様の無念を晴らすため。皇都に平和を取り戻せた暁にはお願いを叶えてくれるというなら、ロズバルトにとっては願ってもない話でしょう。
「それにしても陛下、やけにロズバルトの肩を持ってくださるのですね~。わたくしとしては嬉しいですけれども」
「……まあ、フィアラのためでもあるからな」
困ったように笑う陛下に、わたくしは首を傾げます。
「わたくしの、ですか~?」
「以前、フィアラはロズバルトとの繋がりがあるような素振りを見せただろう。この男を処罰するとなれば、自然とお前も反逆に加わった者として罪に問わねばならなくなるかもしれんからな……」
「そ、そうでしたのね~……」
ロズバルトへの厚遇はわたくしの行いに目を瞑るためでもあったのですね。……ご迷惑をおかけします。
「おいリゲルフォード! ならば我への褒美はどうなる! 我は貴様の命を救ってやったのだぞ、相応の酬いはあるのであろうな!?」
「ん? そうだな……。まあベラスティアで生きるくらいは許してやる」
「なんだそれは!? まるで今まで許されていなかったかのような物言いではないか!」
「許していなかったからな。聞けば貴様、フィアラの血を吸ったそうじゃないか。はっきり言って万死に値する所に生きる事を許可したのだ、光栄に思うがいい」
「ぐおおお、許せん、なんという傲慢な物言いか!! 表に出ろリゲルフォード!! 貴様と我と、どちらが主か力で分からせてくれるわ!!」
「おお、決闘か? 良いな、睡眠前の運動にはもってこいだ! 行くぞラトゥ!」
「覚悟しておけ、我が勝ったら貴様に首輪を嵌めて犬のように扱ってやるからな!!」
「えっ、あの、皇帝様!?」
宿から出て行った2人にオルフェットが驚愕しましたが、本当に2人は戦いを始めるつもりなのか戻ってくる様子はありませんでした。
静かになった宿の中にはわたくし達4人が残されたのでした。
「……ひとまず、わたくし達はお先にお部屋に行きましょうか~」
「あ、ああ……そうだな」
男女分かれて、わたくし達はそれぞれのお部屋に向かいます。
宿の外からは剣戟の音と、高笑いと共に響く破壊音が幾度も聞こえてきました。
「……お2人共本当に戦っておりますのね~。あんまり村を壊さないでくださるといいのですわね、カトレア~?」
カトレアへ話しかけますが返事はありません。
見れば、ベッドに腰掛けた彼女は何かを考えているのか、じっと床へ視線を向けていました。
「……? カトレア~?」
「――え、あ……そうですね、あんまりうるさくされるとフィアラさんが眠れなくなるかもしれないし、ほどほどでやめてほしいですよね!」
また遅れてではありますが、ちゃんと返してもらえました。
……おかしなことを言っているわけではないのですが、どうしても違和感を覚えます。
「カトレア、何か悩んでいますの? 今日はなんだかいつもと違いませんこと~?」
「えー? いつも通りですよ。皇帝さん助けられてよかったなーって思ってただけです」
けろっとした顔でそう返されました。一見すると、本当に悩みなんてないかのようです。
ただ、カトレアがどこかおかしいのは間違いありません。テンションはこれまでと変わらないのですが、陛下を復活させたぐらいの頃から普段よりも口数が……。
そう考えて、わたくしはその時陛下に言われた事を改めて思い出しました。
「もしかして、陛下の仰った事が原因ですの~……?」
恐る恐る、カトレアへ問うてみます。
死の直前、陛下はわたくしに「愛している」と間違いようのない告白をいたしました。
その後アッシュがレゼメルに乗っ取られてしまった事を知り、お返事どころではなくなってしまったので何も返せてはいないのですが、彼女はそれが引っかかっているのかもしれません。
カトレアもわたくしへ好意を寄せてくださっているのは前から知っていますし、思う所があっても不思議ではないです。
「えー? まさか、そんなわけないじゃないですか。皇帝さんと付き合えるといいですねって話し合ってたんだし、理想通りの展開じゃないです?」
「確かにそういうお話もしましたけれど~。でも急にカトレアの元気がなくなって気が気ではありませんの~! ……聞かせてくださいませんこと?」
「……顔に出ちゃってたかあ。お恥ずかしいです」
自分の顔を手で覆いながら彼女は呟きました。
表情から察したわけではないのですが……まあこの際そこはどうでもいいでしょう。
「バレちゃったなら隠しててもみっともないですし、言っちゃってもいいですよね」
観念したのか、カトレアはようやく心の内を打ち明けてくれるつもりになったようです。
口を開く直前、彼女は申し訳なさそうな表情をわたくしに見せました。




