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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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災厄の兆しですわ~!!

 連日の騒動の疲れが出たのか、本日の起床はだいぶ遅い時間となってしまいました。

 隣で寝ていたカトレアの姿もなく、ベッドから身を起こすとちょうど彼女が窓の外の景色を眺めているのが見えます。

 わたくしが目を覚ましたのに気付いたのか、カトレアはこちらへ顔を向けて微笑みます。


「おはようございます、フィアラさん」

「おはようカトレア~。何してますの~」

「いえ、大したことじゃないかもしれないんですけど……すっごい光ってたんです」

「光ってた~……」


 寝惚け気味で半覚醒状態のわたくしは頭を捻ります。いったい何を見たのでしょうか。


「なんだろ、さっきまであっちの方のおっきい山が光ってたんです。噴火とかかな」

「あら~、大きなお山が~……。……えっ、もしかしてアルヴァーン大火山ですの?」


 ぼうっとしていた頭が一気に覚醒します。この辺りで噴火するような山といえばひとつしかありませんから。

 ベッドから飛び起き、わたくしはカトレアと並んで窓の外を覗こうとしますが……曇った窓ガラスですから外の様子は完全には分かりません。


「カトレア、外に出ますわよ~!」

「はーい」


 急ぎ、わたくしはフェリアス城から出て遠くの景色が見渡せる所までやって来ます。

 わたくしとカトレアが眠っていた寝室の窓の位置を思い出しながら地平線の先にある山の方へ視線を向けますが……雲一つない青空が広がっていました。


「……よかったですわ~。アルヴァーン大火山が噴火したわけではありませんのね~」

「フィアラさん、アルヴァーン大火山ってなんです?」

「アルヴァミラ家で管理している火山ですわ~。リズモール様が死後、遺体はそこで葬ってほしいという遺言がありましたから、リズモール様の愛用した聖剣と共に棺が火口の中に沈められた、お墓でもありますのよ~」


 炎の魔術師であらせられるリズモール様は炎を愛していたという伝承があります。ベラスティアを歩き回る中で大火山へと訪れた彼はその圧倒的な熱気にほれ込んだのか、自身の名から取ってアルヴァーンの名称を付けたとされています。

 アルヴァミラのお屋敷も大火山からそう離れていない地に建てられていますので、もしも噴火であればお父様やお母様、アッシュが危ないのではと思いましたが、杞憂で済みそうですね。


「特に噴煙も上がっていませんし、カトレアが見たのは別のものかもしれませんわね~、雷ですとか~」

「んー……雷にしては赤っぽかった気もするんですよねー。それにジグザグじゃなくて真っすぐ伸びてたような……」


 彼女が見たのは雷光なのではないかと考えましたが、今朝に見た景色を思い出すかのように唸りながら首を横に振ります。


「雷でもありませんのね~。でしたらカトレアが見たのはなんなのでしょう~」

「フィアラさんも知らないのかあ。……じゃあひとまず、幸福の兆しってことにでもしておきましょうか。滅多に見れない光景ならきっと何かいい事が起きる前触れですよ!」

「あら、それは前向きな考え方で素晴らしいですわ~!」

「ふむ、我が見るにその輝き、凶兆であると見た。何か悪い事の起きる前触れではないか?」

「うわ……早速悪い事がやってきちゃった」


 いつの間にか会話に混ざり込んできたラトゥに、カトレアは自分の予想を撤回して嫌そうな顔を彼へ向けました。

 外套で日光から身を守るラトゥはわたくしと共にアルヴァーン大火山の方角を見ます。


「あらラトゥ、おはよう。それで、何か根拠でもございますの~?」

「カトレアの見た光は我は見ておらん。……が、赤い輝きというのはいつも災厄が訪れる前触れなのだ」

「えっ!? ……フィアラさん、ベラスティアってそういう言い伝えとかってあったんですか!?」

「いえ、初耳ですわ~。ヴァンパイアの方々の間で伝わっているものでしょうか~?」


 少なくとも、今の帝国にそんな話はありません。ということはヴァンパイアであるラトゥ達にだけ存在した言い伝えなのだと思われます。

 わたくしの想像に頷きを返し、ラトゥは話を続けます。


「あれは1000年前の話だ。我はベラスティアを我が手に納めるべく幾度も攻勢を仕掛けていたが、その度に戦場へ赤き光が降り注ぎ、凄まじき熱に同胞が次々と焼かれ……。我らの軍勢はいつも撤退を余儀なくされていた」

「熱を持つ赤い光~……? ……あのラトゥ、それってもしかしまして~」

「そう! あれは憎きリズモールの放つ光、炎だったのだ! それだけでない、我が封印された時も奴の持つ剣が我を焼いて……ぬうう、思い出すだけで帝国への憎悪が湧き起こるわ!!」


 当時の事を思い出し、ラトゥは地団駄を踏んでいます。

 彼が凶兆とする赤い光は、リズモール様の魔術の事だったようです。


「言い伝えっていうか、こいつ個人のトラウマじゃないです?」

「ん~……まあヴァンパイアの皆様にとっては悪い事の兆しなのかもしれませんわね~」


 逆に言えば、わたくし達帝国の民にとっては脅威を退けてくださる守護の輝きでもあります。

 むしろ正解は、カトレアが言う「幸福の兆し」の方となるかもしれませんね。


「ふぅ……。うむ、昔の話であるのも事実。我もそこまで気にしておるわけでないからな、好きに考えるといい」


 心臓に深く根差しているぐらいには気にしているような態度でしたが、しばらくして落ち着いたのかラトゥは冷静さを取り戻しました。


「さて、時にフィアラよ。時間はあるか?」

「わたくし? ええ、特にやらなければいけない事も思いつきませんし~」


 突然カトレアとの話に割り込んできたのは理由があったのでしょう。彼はわたくしの予定を確認してきます。

 すると、ラトゥは外套の中から腕を出し、わたくしへ鞘に納められた短剣を突き出してきました。


「フィアラ、その血を我に飲ませてもらおうか」

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