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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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不死身の仲間ですわ~!!

「……ほう、ではフィアラはこの帝国の王となろうとしているわけか」


 なぜわたくしがここフェリアス城を訪れたか、これまでの出来事を簡単に伝えますとラトゥは興味を惹かれたらしく、じっくりと話を聞いていました。

 カトレアと交わした指輪の契約に関する事は伏せています。オルフェットとロズバルトは知らないですし、余計な心配をさせてしまうかもしれませんから。


「そうですわ~。わたくし、ベラスティアの皇帝とならなくてはいけませんの~」

「えーっ。フィアラさんこんなの仲間にしちゃうんですか?」


 こんなの、とラトゥを指差しながらカトレアは嫌そうな顔をしています。

 その表情には未だ彼に対する不信感が拭えていない様子が伺えました。


「はい~。やはり陛下はお強いですし、1人でも仲間は多い方がいいかなと~」

「そんな心配しなくっても私1人で倒せますってば。こんなただ死なないだけの子連れてってもしょうがないと思うんですけど!」

「でも、ここに置いていくのも気が引けますし~」

「自分のお城だしいいじゃないですか。慣れ親しんだ実家なんですから別に危ない事もないし……。あ」


 陽が沈み、代わりに月の光が差し込む窓を見て、カトレアの言葉は途中で止まりました。

 そう、この城には今ラトゥが安全に暮らせる環境はなくなってしまったのです。

 城主がいないものとして行動した結果、明かりを取り込むための窓をたくさん作ってしまいましたので。


「そ、そんなぁ……。私のせいってことじゃん……」

「だ、大丈夫ですのよカトレア~! どちらにしても彼だけ残していくのもどうかな~とは思っていたと思いますし~!」


 落ち込む彼女を慰めます。仕方ありません、だって普通ずっと昔に封印されたヴァンパイアが生きているとは思いませんもの。


「まあ姫さんに手出しできねえってんなら、連れてこうってのは別にいいんだけどよ……役に立つのか? カトレアも言ってたが死なないだけが取り柄ってんじゃあ壁くらいにしかできねえぞ」

「舐めるなよ人間、我が力を取り戻せばどのような強者であろうと瞬きの間に肉片へと変える事ができるのだからな」

「だからその力がねえお前に何ができるのかって話をしてんだろうがよ!?」


 ロズバルトの問いかけに、ラトゥはニヤリと笑って自らの頭を指で示しました。


「案ずるな。我の力は何も戦闘面だけの話ではない。ヴァンパイア達を統べる王の叡智、役に立たんとは言わせぬぞ?」

「おお、知略か。まあ俺らには欠けてた方面かもしれねえな。……ちなみに、昔はどんな戦略で戦ってきたんだ?」

「フッ、教えてやろう。ヴァンパイアは弱点さえ突かれねば頑健でな。この点を活かして敵陣を正面から突破し、栄誉ある勝利を幾度も勝ち取ってきた」

「おい姫さん、駄目だこいつ。頭ん中も腕力とたいして変わんねえ」

「なんだ貴様!? 我らの恥じる事なき高潔な戦を愚弄すると言うのか!?」


 ……王様だっただけあってラトゥは清い戦いを心掛けてきたようです。

 ですがわたくし達のほとんどはか弱い身ですから、あまり真似できそうにはありませんね。


「別に、私1人でも大軍相手に真っ向から勝てますけどね」

「何も張り合わなくっても~……」


 対抗してか、カトレアはわたくしにそっと囁きました。

 確かに彼女の扱う炎の威力はとても高くて範囲も凄まじいですから、できない事はないのでしょう。


「……ともかく、皇帝との戦いに加われと言うのなら我は構わん。我を封じた男の護った国を滅茶苦茶にしてやれるのだからな」

「い、いえ~、滅茶苦茶にというのは~」

「おいおい、何を言い繕う必要がある。フィアラはリゲルフォードだとかいう男を殺そうとしているのだぞ。一国の主の座を狙うのであれば必然、国など揺るがすに決まっておろう」

「……!」


 ラトゥの言葉に、わたくしは声を失ってしまいました。

 今まではあまり深くは考えていませんでしたけれど、確かにそういうことなのです。

 リゲルフォード皇帝陛下は帝国を愛しています。いかなる理由があろうと、一時でもその座を他者へ譲ってくださるような方ではありません。

 婚約があった内はまだしも、今のわたくしは陛下とは敵対する関係。以前お助け頂いた時はお優しかったものの、カトレアと共に陛下へ立ち向かってしまった以上、もはや和解の道などないと考えるべきでしょう。

 だとすれば、もはや残されているのは陛下の命を奪い、血塗られた玉座へ腰を下ろす道だけなのかもしれません。


「っ。それは……? カトレア~……?」


 目を逸らしていた事実を突き付けられて手が震えます。

 ですが、そんな手をカトレアが優しく握って、わたくしをじっと見つめてきました。


「大丈夫です。私がフィアラさんを悪役になんてさせませんから」


 白い手袋越しに僅かに伝わる彼女の体温。

 そしてその瞳は「手を下すのは私ですから」とでも言いたいかのようでした。


「ですけれど、それでは」

「……えへへっ、それじゃその分、フィアラさんと楽しい想い出が作りたいなぁ」


 どうせわたくしには陛下と戦う力なんてありません。きっと戦うのも……そして殺すのも、彼女の役目となってしまうでしょう。

 自分を好いてくださっているカトレアにそんな事をさせてしまっていいのかと視線が揺れるわたくしに、彼女はそう続けたのでした。


「どうせ私は契約が終わったら消えちゃう身ですし、代わりにフィアラさんと楽しい事ができればそれでいいんです。だから、気にしないでくださいね」

「……いいんですの?」

「はい。元々いた所でも戦う事なんて珍しくありませんでしたし。そんなのよりも今日見付けたメダルの時みたいな、ずっと記憶に残る事、もっとフィアラさんと経験したいんです」


 そう言った彼女は陛下と戦う事も、殺す事も本当になんとも思ってはいないようでした。

 ひとたびは伴侶となろうとした方を殺めるという罪を背負う代わりに、一生の想い出を。

 それでいいとカトレアが仰るならば、わたくしもその甘い提案に乗ってもいいのでしょうか。


「……あれ? ところでフィアラさん、あのメダルってどこに」

「……。その~……。ラトゥのいた隠し部屋を開けた時に、床の中へ~」

「そですかー。……ロズバルトさん、そのヴァンパイア押さえといてもらっていいですか?」

「ラトゥは悪くないですから~~!!」


 早速想い出の品が消滅したと知って八つ当たりしようとするカトレアをわたくしは止めに入るのでした。

 直前に考えていた事はすっかり頭から抜け落ちてしまいましたが、その後彼女は暖炉を掘り起こしてメダルを取り出す事には成功しました。

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