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悩み迷うのですわ~!!

「帝位の簒奪だなんて、わたくしはなんてことを~……」


 しばらく時間が経ちまして、わたくしはカトレアと共に暗い夜道を歩いております。腕の傷の痛みも治まってきましたので。

 いつまでも年下の彼女に抱きかかえていただいてるわけにもいかないと考え、そして動かせるようになった腕で頭を抱えていました。


「そんなに悩まなくっても。私がいるんですから、その気になれば今からでも王様になれますよ?」

「何をなさるつもりか知りませんけど、とっても暴力の香りがいたしますわ~……」

「フィアラさんがお望みなら」


 カトレアは黒鉄の腕をアピールするように自信満々の顔です。

 確かにただ皇帝となるだけなら、それはとても手っ取り早いのでしょうけれど。


「い、いけませんわ。そんな、陛下を害するだなんて」


 悪い考えを振り払うように頭を振って、その提案は断りました。

 元、とはなってしまいましたがわたくしもアルヴァミラ家の人間。それが皇帝陛下の命を奪うだなんて、恐ろしい考えには至れません。


「でも、契約を果たせなかったらフィアラさんは死んじゃうんですよ?」

「あ~やっぱりそうなるんですのね。……ですが! 消えた話とはいえ本来わたくしの婚約相手となるはずだった方に、そのような事は気が引けますわ!」

「……あらあら、そうだったんですね」


 理由を知ってかカトレアは少し驚いたような顔をしました。

 そして両手の先に纏われていた鉄塊が突然消えて、普通のサイズに戻った手に白い手袋を嵌め直しました。


「納得しました。まだ期限にも余裕はありますし、そういうことなら最後の手段としておきましょう」

「ほ~、そんなこともできますのね~」


 かなり大きな装備が音もなく消えて、わたくしは驚きのあまり感心してしまいます。


「カトレアの武器は出し入れ自由なんですの?」

「はい。魔法を使うための触媒みたいなものなんですけど、必要ない時はしまっておけるんですよ、ほら」


 そう言って片手だけ手袋を外し、また先程の黒鉄の塊を手に装備して見せてくれました。

 なるほど、これを利用してカトレアは炎の魔術を使うのですね。


「それでブン殴ったりしてた辺り、丈夫みたいですわね~。便利そうですわ~!」

「明かりも出せちゃいますからね。……この辺は灯りもないみたいですし、照らさせてもらいますね」


 カトレアの手に装備された触媒から炎の塊が形作られていきます。

 掌で生まれたそれは一瞬で人の頭くらいの大きさまで育ち、わたくちたちの頭上へと浮き上がっていきました。

 深夜だというのに、まるでお日さまが昇ったかのように周囲が明るくなります。

 気付かぬうちにずいぶんと歩いたのか、わたくしたちは今、近くに建築物の見えない平原にいたようです。


「あら~素敵。未知の大地ですわ~」


 周りにはどこまでも広がる大自然。アルヴァミラの家で暮らしていた頃のわたくしなら知りもしなかっただろう光景に、わたくしはひとつ深呼吸をいたしました。


「……ところでカトレア、ここはどこだかわかりますの」

「え? いえ……どこに行くとも聞いてませんでしたので、適当に歩き回ってみたんですけど」

「あっ、うっかりしてましたわ~! わたくし、どちらへ向かうか言っておりませんでしたのね~!」


 とんでもない契約を結んでしまったせいで失念していましたが、カトレアは帝国の土地に詳しくないのでした。

 そしてわたくし自身これからどこへ行くべきなのかも分かっておりませんでしたので、彼女の気の向くまま、見たこともない場所へやってきてしまったというわけです。

 一言で申しますと、


「……迷いましたわ~~~~!!!!」


 急ぎ地図を広げてみましたけれど、広大なベラスティア帝国のどこにいるかは不明でした。よく考えたらわたくし地図の見方ちゃんと分かってませんでしたので。

 近くに何もないので、町などではなくその道中から外れてしまった辺りだとは思うのですけれど。


「カトレア、どうしましょう~~!!」

「大丈夫ですフィアラさん、真っすぐ歩いていけば多分どこかには辿り着きます!」

「わたくしと同レベルですわ~!」


 あながち間違いというわけでもありませんでしたが。なにせ広大な帝国にはこういった空白地帯もありはしますが、同時に無数の村や町もまた存在します。

 当てずっぽうに動いても、その内どこかしらには到着はできるでしょう。


「……でも、少しお腹が減ってきましたわ。飢え死にする前に見付けられるかしら~……」

「それは大変ですね。どうしましょう、ひとまずフィアラさんのお家を目指してみます? 風景に見覚えとかあったらそこから帰れそうじゃないですか」

「あ……いえその、家にはもう戻れませんの」


 すでにわたくしはアルヴァミラ家から追放された身。お腹を空かして帰ったからといって、暖かい出迎えも食事も期待はできないでしょう。


「では、深くは聞かないでおきますね。私も両親に迷惑をかけたりはしてしまってますし」


 わたくしの顔から何かを察したのか、それ以上カトレアは聞いていませんでした。

 そういえばアッシュも「気の合う誰かが召喚できるかも」みたいなことを言ってましたし、カトレアにもわたくしと似たような過去があるのかもしれませんね。


「それじゃ、諦めて夜道のデートでもしましょっか、フィリアさん」

「デート? ……まあそうでも思わないとやってられませんわよね、こ~んな真夜中に都合よく馬車にでも乗った旅人やら行商の方が現れて下さるはずもありませんし」

「おい、そこのあんたら」


 とぼとぼと歩みを再開しようとした時、まるでわたくしの言葉を聞いていたかのように誰かが声をかけてきました。


「まあ~! もしかして本当に通りすがりの!?」

「……殺されたくなかったら、着てるモンと有り金、全部置いていきな」


 きらきらと輝く目を向けた先、そこには鋭い曲剣や弓矢などで武装した薄汚れた集団が。

 わたくしの期待を裏切るように、現れたのは一目で盗賊と分かるような怖い方々でした。

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