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魔力無しで家を追放されて婚約も破棄された令嬢が炎の魔女様と共に帝国の皇帝となるまで~けれど、皇帝陛下はわたくしを愛していらっしゃったそうですわ~  作者: カイロ
前編 追放令嬢フィアラ編

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邪悪なる吸血鬼の王ですわ~!!

 フェリアス城地下の隠し部屋にあったものは、なんと城主のフェリアスその人でした。

 魔方陣の上でぴくりとも動かない彼は絵画の中からそのまま飛び出てきたかのように美しい顔立ちで、しかし少しばかり違う点もありました。


「……なんだか、絵で見ました時よりも小さいような~?」


 わたくしが気になったのはそこでした。絵画では20代くらいの外見でしたが、今ここで目を閉じる彼はオルフェットと同じか少し上くらいの年齢に見えます。

 実際はこんな小さな方だったのでしょうか。まあ自身を描かせる際に美化したり、体型を変えるというのは珍しくないですからさして気にせずともいいでしょう。


「この方がこのお城の主という事は、この魔方陣は~……」


 彼が安置される魔方陣を撫でながら呟きます。帝国によって城主は封印されたというならこれは結界です。

 ヴァンパイアの王である彼は当時の帝国の方々の手でこの場所へ封じられたのでしょう。

 鍵を2つに分けたのも、暖炉の奥にこの場所への道を隠ぺいしたのも、間違って誰かが彼の封印を解かないようにするためだったのかもしれません。

 きっと誰も彼を倒す事ができず、解き放たれてしまえばもう止める事はできなかったのかも。


「これは、戻った方が良さそうですわね~」


 何かのはずみに封印を解いてしまわないとも限りません。

 そうなってしまっては危険ですし、カトレア達にこの事を相談するためにも隠し部屋からは一旦出ようとして――


「……」

「えっ!?」


 わたくしが立ち上がろうとした時、フェリアスの瞳がゆっくりと開かれてこちらへ視線を向けてきたのです。

 閉じられていたその眼は星の浮かぶ夜空のように暗い色をしており、まるで空をそのまま宝石にしたかのように綺麗でした。


「い、意識がありましたの~!?」


 まさか封印が施されている彼の目が開くとは思っておらず、すごく驚きました。

 わたくしの姿を確認した彼は、ゆっくりと口を開きました。


「お姉ちゃん、助けて」

「……わ、わたくしですの~?」


 助けを求める声に聞き返すと、頷きました。まあわたくししかおりませんし、そうなるのでしょうが。

 弱弱しく消え入りそうな声色での懇願でしたが、到底引き受けるわけにもいきません。

 どれほどの期間封印されていたのかは知りませんけれど、いくらこんなに辛そうな目と表情で訴えられても、危険なヴァンパイアを解放するわけには……。


「……その、そんなにお辛いんですの~?」


 何度も視線をさまよわせた末、ついそんな事を聞いてしまいました。なんだか虐められている子供と遭遇してしまったような気分なのです。

 無視してこの場を立ち去るのがためらわれてしまい、そんなわたくしに彼はゆっくりと頷きました。


「くるしい、息ができないよ」

「う、ううぅ~~……!」


 ますます見捨てられなくなるような事を言われ、この場から離れられなくなってしまいます。

 封印されるというのがどんな感覚なのかは想像もつきませんが、それほどまでに苦痛を伴う環境なのでしょうか。


「お願い、助けて……。この魔方陣を、傷付けて」


 彼を囲う封印を解くには、魔方陣を壊せばいいだけのようです。

 いえ、だからといってそんな事は……。でも悪さをできるような人にも見えないですから、ちょっとくらいなら……?

 揺れる心を一旦落ち着けながら、わたくしは口を開きました。


「……確認なんですけれど、あなたは悪いヴァンパイアではありませんの~?」

「違うよ」

「本当ですわよね~? 絶対、絶対の絶対に、嘘じゃありませんわよね~!?」

「うん、約束する」

「……で、でしたら、まあ仕方ありませんわ~!! こんなに可愛らしい子が苦しんでいるなんて見ていられませんもの~!!」


 結局、傾いていたわたくしの心は彼を助ける方向で動くのでした。

 念のために何度も確認しましたし、彼はきっと悪いヴァンパイアではないのでしょう。


「これでいいんですのね~~!?」


 靴裏で魔方陣を擦って消してみようとします。魔術で作られているならあんまり意味がないような気もしましたが、これは物理的に描かれているものだったらしく簡単に円の一部を歪ませることができてしまいました。

 仰る通り、ちょっぴり傷がついただけで陣から放たれていた光は瞬く間に弱くなり、霧散していきました。

 暗闇が部屋の中に戻り始め、合わせて少年もまたゆっくりと体を起こします。


「……ありがとう、お姉ちゃん。これで」

「立てます? さ、お手をどうぞ~」


 差し出した手を握り彼は笑みを浮かべました。

 さぞ久方ぶりに体を動かせるのが楽しいのでしょう、と思った時、手首にちくりと痛みが。


「いたっ。……えっ」


 気が付いた時には、彼がわたくしの腕にその顔を寄せて噛み付いていたのです。


「これで、我は再び自由を手に入れた――!」

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