月が王への道を示すのですわ~!!
「……退屈ですわね~」
カトレア達がフェリアス城の外へ行ってしまいましたので、わたくしは3人の帰還を待つのですが……。
やはりといいますか、外の光が入るようになったとはいえ日も落ち始めて薄暗くなりつつあるお部屋に1人で居るだけというのは、なんとも暇になってしまいます。
今からでもわたくしもカトレアの元へ向かいましょうか、なんて一瞬考えたりもしますけれど、流石に危険すぎますので実行はしません。確実に迷う予感がしますから。
「お掃除でもしていましょうかしら~」
テーブルの上に黄金のメダルを置いて、ロズバルトが壊してしまった椅子を片付ける事にします。
かなり脆くなっていたのか、壊れた椅子の破片はあちらこちらに飛び散っていますから、それを拾い集めて暇をつぶす事にしました。
「あらあら、こんなところまで飛んでおりますわ~!」
椅子の足の1本が、食堂に備え付けられた大きな暖炉の中にまで落ちています。
ちょうどロズバルトが座っていた位置からまっすぐ後ろに転がっていったのか、暖炉の一番奥にありました。
「まあ~大きい暖炉ですこと。時期によっては冷え込む地域なのかしら~?」
わたくしがしゃがむだけでなんなく中に入れてしまいます。城主の方が健在であった頃などは、やはりここでたっぷりの薪をくべて冬の寒さを乗り切っていたりしたのでしょう。
そんなことを考えつつ、わたくしは椅子の足を拾い上げようとして……少し考えてからやめました。
せっかくですし、壊れてしまった椅子はここに集めてカトレアが戻ってきた時にでも焼いてしまう事にしましょう。
もう修復もできないくらいにバラバラですし、この立派な暖炉が使われている所を見たくなりましたので。
「よし、それでは他の破片もこちらに~……。あら、これって~?」
顔を上げた時、暖炉の上方、煙突へと続いていく穴の手前に不自然な窪みがあることに気付きました。
外から見ていた時には発見できないような位置に開いたその穴は、手で触れてみると丸い形をしているようでした。
「この形、もしかして~!?」
隠されているような、何かを嵌め込めそうな窪みにピンときたわたくしは、椅子の事も忘れてテーブルに置いたものを持ってきます。
「……ぴ、ぴったりですわ~~!!」
カトレアとわたくしの見付けた大きな金のメダル。なんとそれは窪みの円と完全にサイズが一致するのでした。
2つに分けられ、そして隠されたメダルと暖炉の奥に存在した秘密の穴。ここまで条件が揃えば、自然と結論は絞られていきます。
このメダルは鍵で、この暖炉の窪みは鍵穴。これを収めれば、きっと何かが起こるのは間違いないでしょう。
「……これ、どうしましょう」
ですが、何も考えずにメダルを入れてしまうわけにはまいりません。何か起きるのは間違いないとしても、それが何なのかまでは予想が付きませんし。
城主フェリアスの遺した秘宝をしまうための隠し部屋なんかであれば危険は少ないかと思います。けれど、危険な怪物を解き放つような事になってしまう可能性だってあるかもしれません。
常識的に考えれば、カトレアやロズバルト達が戻ってくるのを待つべきでしょう。不測の事態が起きた時、1人では助からないかもしれませんから。
金色に輝くメダルを見ながら、わたくしは考えます。そして。
「……。えい」
結局、3人が帰ってくるのを待たずにメダルを嵌めてしまいました。
退屈で仕方のなかったわたくしに、この好奇心という誘惑を抑える事ができなかったのです。
押し込んだメダルはガチリと音を立てて外せなくなり、それから暖炉が振動し始めました。
「はあぁ~! 何が起こってしまいますの~~!?」
興奮とちょっぴりの恐怖がわたくしの心臓の鼓動を強くさせ、すぐに暖炉から飛びのきます。
振動と共にメダルを嵌めた部分の壁が下へと沈んでいき、その向こう側の隠された空間をわたくしへ公開しました。
「これは~……! 地下への階段ですわ~~!!」
そこにあったのはやはり隠し部屋へと続く道だったようです。
誰にも見つからないように秘匿されていたこの下方へと続く石造りの階段の先、一体何が存在するのでしょうか。
「結構深いのでしょうか~……あっ」
どこまで続いているのかを確認すべく隠し階段を覗き込んだわたくし。
その瞬間、激しい振動で手前へと転がってくる椅子の足がわたくしの靴の下へと滑り込んで。
そのまま体が1回転する感覚に続けて、わたくしは滑るように階段から落ちていくのでした。
「と、止まりませんわああああ~~~~!!!!」
仰向けに階段にお尻をぶつけながら落ちているのですが、かなり急な階段ですから変に止まろうとすれば今度は反動で頭から硬い角に頭をぶつけてしまうような気がして流れに逆らえませんでした。
そうして、しばらく体の背面を何度もぶつけながらわたくしは階段を下り切ってしまうのでした。
「い、痛いですわ~……」
背中もお尻も踵もズキズキします。一応立てなくなるような大怪我はしないで済んだようですので、我慢して立ち上がりました。
そうして体を起こすと、開けた空間へたどり着いていたのに気が付きます。お城の中とは違い、ここには元々明かりがあったようです。
「っ! あ、あれって~……!?」
お部屋の中心、青白いぼんやりとした光を放っているのは、魔方陣でした。ですが、驚いたのはそこではありません。
なんとその魔方陣の中心、光に包まれるようにして1人の男性が倒れているのでした。
眠っているかのように瞳を閉じた青年の髪は雪のように白く、そのお顔はわたくしに勝るとも劣らないほどの美貌を湛えていました。
「まさか城主の、フェリアスですの~~!?」
それはわたくし達がこのフェリアス城に入ってきた時に見た絵画に描かれていた、ヴァンパイアそのものだったのです。




