満月のメダルですわ~!!
お部屋を移動したわたくし達はその後特に問題もなく厨房も綺麗にできました。
お鍋やお皿などもお城に残されていたものを綺麗に洗って使えるようにしましたので、後はロズバルトの出番です。
「さーて、そんじゃあ早速だが……」
「お手伝い? 僕なんでもするよ!」
「張り切ってますのね~、オルフェット」
わたくしとオルフェットに視線が向けられ、彼はロズバルトの指示を待っています。
料理をするのが好きなのでしょうか。もしかすると、ご家族と一緒に暮らしていた時はよく手伝いをしていたのかもしれませんね。
そんなオルフェットにロズバルトは瞳を閉じて笑いかけます。
「……いや、材料がねえ」
「……。ぇ……?」
ワクワクしていた顔が一転、みるみるうちに意気消沈してしまいました。
「すまねぇ、完全に失念してた。リゲルフォードがいつまた攻めてくるかも分かんねえし、速めにフェリアス城に来たのは良かったが……食料まで持ってくる余裕はなかったからな」
「じゃ、じゃあここまで歩いてきた途中で食べてたやつは……?」
「流石に最低限の携帯食料は持って来たが、もうなくなっちまったよ」
「……終わりですわ~」
ピカピカの調理器具と食器を前にして、わたくしはがっくりします。そんなのいくら用意しても食材がなければどうすることもできません。
そしてわたくし以上にオルフェットが気を落としていました。カトレアの作った窓から差し込む夕日を背に受けながら、厨房の石床へ膝を突きます。
「今から買いに行くのもな……。どっかに町でもありゃいいが、間違いなく日没までには帰れねえだろうし、諦めて今夜はメシ抜きか」
「そんなぁ……」
悲しげな声のオルフェットに、ロズバルトはしゃがみ込んで彼の頭に手を置きます。
「悪ぃな、期待させちまってたのに。買い物に行った時、好きなもの買ってやるからそれで許してくれ」
「うん……」
ややためらいがちではあったものの、最終的にオルフェットは頷きました。そんな彼をロズバルトは心底申し訳なさそうに見ています。
……なんだか、こうやって眺めていると2人が親子のように見えてきました。血の繋がりはありませんけれど、年の差がそんな雰囲気を出しているのでしょう。
「――まあいつまでもここにいたってしょうがねえし、今日は早めに寝るか」
しばらくしてそう言ったロズバルトに頷き、わたくし達は厨房から出るのでした。
「あ、フィアラさん達こんなところにいたんですね。もうご飯の準備ですか?」
厨房を出てすぐ隣の部屋、食堂でカトレアと再会しました。
お部屋の中央に置かれた大きくて長~いテーブルを迂回しながら彼女はこちらへとやってきます。
「いえ、ご飯は~……。それよりカトレア、もう窓作りは終わりましたの~?」
「はい! どの部屋にもしっかり日光が取り込めるようになりましたよ、今日はもうすぐ夜ですけどね」
笑いながらカトレアは答えました。
宣言通りにフェリアス城全体に窓を用意してきたようです。小さいとはいえお城ですし、大変な作業でしたでしょうに、凄く速くて驚きます。
「――そうだ、その途中でこんなの見付けたんですよ」
ふと思い出したようにカトレアはあるものをわたくし達へと見せてきます。
なんと、それはわたくし達3人も見覚えのあるものでした。
「お、そいつは……」
「さっきフィアラ様が見付けたやつだ!」
カトレアの手に乗せられているのは大きな黄金色のメダルでした。それも半月のように欠けた形の。
「? フィアラさんも拾ったんですか、これ」
「拾いましたわ~! カトレアのとおんなじ、半分のメダルを~!」
すぐにわたくしも先程入手した半月型のメダルを取り出しました。
そして「もしかして」と思いカトレアのメダルの断面にくっつけてみますと、ぴったり合うのです。
「まあ、絵柄も合いますわ~! これはやっぱり、2つで1つのものだったのかしら~!? それをわたくしとカトレアで見付けられるなんて、偶然ですわね~!」
「……えへへ、なんか嬉しいですね」
ひとつになった金のメダルには、月の彫刻とその上から紋章が掘られていました。お城のものですし、フェリアスの家紋だと思います。
フェリアス城に隠されたお宝を見つけ出し、対になったそれを2人で発見する事ができたなんてちょっぴり運命的ですね。
完成したメダルを見ながら、カトレアと共に喜びます。
「すげえな。ま、とりあえず明日になったら近くの村か町でも探してソイツを売って、食料を買いに行くか」
「ちょっと、いきなりそんな話しないでください。せっかくフィアラさんとの素敵な想い出ができたんですから、これを売ろうだなんてとんでもない!」
「いや、だからって売る以外に使い道ないだろそんなの……」
確かに、こんな偶然そうそう起きる事でもありませんし、できれば記念に残しておきたいですよね。
ロズバルトはカトレアの言葉に面倒くさそうな顔をしながら食堂の椅子に体を預けます。
「あれ、今食料買うって言ってました? もしかして食べる物何もないんですか?」
「うっ。……まあ、その、俺も疲れててな。完全に頭から抜け落ちててよ」
「えー!! それじゃあフィアラさんがお腹空くじゃないですかー!!」
「わたくしは~……多分大丈夫ですわよ、一食減るくらいでしたら~」
「そんな痩せ我慢しちゃいけません! フィアラさんこれ持っててください、私ちょっと食べられそうな木の実とかないか探してきます!」
わたくしにメダルを渡すとカトレアは大急ぎで外へと向かいました。
「お、おい! もう夕暮れなんだし、あんまり出歩かねえ方が……うおあっ!?」
カトレアを止めようとしてロズバルトは立ち上がりますが、椅子が脆くなっていたのか木が折れる音と共に彼の体が派手に転びます。
「ぐああ、痛ってぇ……」
「うわ、大丈夫、ロズバルトさん!?」
「立てますの~?」
「おお、なんとか。……ったく、やっぱボロい所はボロいんだな」
立ち上がり、彼はそのままカトレアを追いかけにいくつもりのようで、食堂から出て行こうとしました。
「流石にいくら強いからって暗くなってきた森で1人にするのは気が引ける。ちょいと様子見てくるわ」
「ロズバルトさん、僕も行きます!」
そして、それに続いてオルフェットも。
「あぁ? なんでお前まで」
「ロズバルトさん、さっき疲れてたって言ってたし……。カトレア様の言う通り、あんまり我慢しちゃだめです。だから食べられそうなもの、僕も探したくって」
「…………。仕方ねえな、俺から離れるなよ」
「はい!」
しばらく考えて、ロズバルトは彼も同行させることにしたようでした。
自分のためを思ってくれるオルフェットの想いを無碍にしたくはなかったのでしょう。
「つーわけで姫さん、しばらく1人にしちまうが待っててくれ! カトレア追っかけて、夜までには戻ってくる!」
「わかりましたわ~」
そう言って、ロズバルトはオルフェットと共に食堂から出て行きました。
わたくしはここに残ります。あまり動き回るのって得意ではありませんし、1人になるとはいえお城の中なら安全ですものね。
というわけで、わたくしは3人が戻ってくるまでの間、フェリアス城でお留守番をすることになりました。




