お掃除ですわ~!!
「暗いなー。とりあえず窓作りましょうか」
早速、わたくし達はこのお城、フェリアス城を歩き回りつつお部屋を綺麗にしていくことにしました。
ヴァンパイアだったという城主が日光を避けるためか、ここには窓がありません。
カトレアが頭上に魔術の光を用意してくれているので見えないわけではないのですが、それが煩わしくなったのか、彼女は城壁に拳を叩きつけて四角い穴を開けて日差しが入り込むようにしてしまいます。
「まぁ~! 日光ですわ~!」
「……おい、掃除の意味分かってんのか? そんな穴開けたら外からゴミやら虫やら入り込んでくるだろうがよ」
「そのくらいわかってますよー。ほら、ちゃんと代わりは詰めておきますから」
そう言いながら彼女は砕け散った城壁の破片を拾い集め、それを黒鉄の両腕でお団子を作るようにギュッと握ります。指の隙間からは時折すごい勢いの炎が漏れて吹き出ています。
しばらくそれを繰り返し、カトレアの手が開かれた時には半透明の板が出来上がっていました。
「カトレア様、これは?」
「不格好だけど、ガラスです。これを入れておけば明かりはそのまま、何か入ってきたりもしないかと」
「器用なのですね、カトレア~」
「ふふふ、褒めてもらえたのでこのまま全部屋に窓を作っちゃいます!」
「いや器用っつーか、どうやったんだよこれ……?」
開けた穴にぴったり押し込まれたガラスを軽く叩きながら、ロズバルトは訝しんでいました。
「それにしても、ロズバルトは手慣れていますのね~」
しっかりとした照明をカトレアが確保してくださったので、早速わたくし達はお掃除を本格的に開始しました。
カトレアは宣言通りにお城中に窓を作りに行きましたから、ここには3人だけです。寝室として使えそうな部屋を2つ見付けまして、1つは綺麗にして2部屋目を掃除し始めた所です。
オルフェットと一緒にベッドに溜まった埃をはたき落としながら、わたくしは手慣れた様子で塵を集めて捨てていくロズバルトへ関心の声を上げます。
「掃除とか、よくしてたの?」
「ん? ああ……ファルメリアが亡くなってからは今までやってくれていた事、全部俺がやるようになったからな」
苦笑しながらオルフェットの質問へ答える彼に、わたくしは言葉に詰まりました。
そうです、ロズバルトは婚約相手を殺されてしまっていたのでした。確かに、それでは彼自身がお掃除などもしなくてはお家が汚れていく一方なのですから、自然と上達はしていくでしょうけれど。
「あ、それってこの前聞いた……」
「……申し訳ありません、お辛い事を思い出せてしまいますわよね」
「おいおい姫さん、頭なんて下げないでくれよ! ちょっとした昔話だぜ!?」
何気ない質問でしたけれど、それが彼の思い出したくない事を想起させてしまったのでは、と思い頭を下げます。
「ですけれど~……」
「いいんだっての。ファルメリアの事を忘れた訳じゃねえが、いい想い出なんだよこれは。最初は箒の使い方も分からなかった俺が今じゃぁ1人で塵一つない部屋を作れるようになったんだからな。……できなかった事ができるようになると、多少は気が紛れるからよ」
それを聞き、わたくしは顔を上げました。
ロズバルトの表情はあまり明るくありませんでしたが、それでもなんとなく、彼の言葉に嘘はないようにも思えました。
「メシもまあ、作れねえこともねえくらいにはなってな。……折角だ、今日は姫さん達の分も張り切って作ってみるかな!」
そう言って彼はパッと顔を変え、今夜のお料理を楽しみにしているように口元を上げてみせます。
「さっき厨房も見かけたし、早くここを掃除してそっちも綺麗にしねえとな。急ぐぜ、2人共!」
「わ、ロズバルトさん、何作るの?」
「そうだなあ、とりあえず焼くのは……たまに焦げるから、煮るだけで作れるモンにしたいな」
気が早い事に、もう今夜の献立を考え始めたようでした。オルフェットもそれが楽しみなようで、ワクワクした顔で聞いています。
そんな2人を見ていると、自然とわたくしも笑ってしまいました。
「うふふっ、その前にこのお部屋のお掃除を終わらせませんとよ~」
「おう。姫さんとオルフェットもしっかり頼むぜ」
ロズバルトが構わないというならそれでいいでしょう。彼にとっても気晴らしにはなるようですし、わたくしはオルフェットと共に手を動かす事にしました。
ベッドを綺麗にし、お部屋に備え付けられていた本棚も布巾を使って埃を払っていきます。……と、そんな時。
「……? なんでしょうか~?」
1番下の段の埃を落とした時、布巾になにか引っかかるような感覚がありました。
しゃがみ込んでよく見てみますと、そこには長方形の溝が。木製の蓋が、何かを隠しているような感じです。
気になったので爪を使って開けてみました。するとそこには、不思議なものが納められていました。
「姫さん、何やってるんだ?」
「ごめんなさい~、少し気になったものがありまして~!」
「えっと……おっきいメダル?」
「……割れちまってるじゃねえか」
隠されていたのは、両手に収まりきる程度の大きさの、金で出来た分厚いメダルでした。
ロズバルトが言うように、まるで半月のように欠けてはいますが。
「どこにあったんだよ、そんな立派なもの」
「そこの本棚に隠されておりましたの~」
「フェリアスの隠し財産って所か? 全部黄金で出来てるなら結構な値打ちもんに違いねえし、姫さんイイ物見付けたじゃねえか!」
「おほほ~! ですわよね、わたくしと~っても運が良いですわ~!」
思わぬ掘り出し物に、わたくしも気分が高まってまいりました。
こんなものを見付けられるだなんて、陛下と敵対してしまったからといって悪い事ばかりでもないのかもしれません。
そんなこともありつつわたくし達3人は寝室のお掃除を素早く完了させて厨房へと向かうのでした。




