自己犠牲など不要ですわ~!!
「フィアラ様……!」
陛下とアッシュがいなくなり、オルフェットはわたくし達の元へ駆け寄ってきました。
「……ありがとうオルフェット、あなたのおかげでロズバルトは守られましたわ~!」
オルフェットを抱いて、その行いを称賛します。
彼がカトレアを呼んできてくれたからこそロズバルトは殺されずに済んだのですから、わたくしからいっぱいの感謝を込めます。
「わっ……! えへへ、ありがとう、フィアラ様」
「いいなあ。フィアラさん、私にも!」
「はいはい、カトレアもどうぞ~」
そして、肝心の戦いで陛下を防いでくださったカトレアも一緒に抱きしめます。
皇帝陛下を倒せるだなんて以前仰っていましたけれど、まさか本当にあれほどあの方を追い詰められるだなんて。
本当にこの子には色々なことでビックリさせられっぱなしです。
「……ったく、何喜んでんだよ、姫さんはよ」
2人を労うわたくしに、ロズバルトは後ろで顔を顰めておりました。
「あ~、もしかしてロズバルトも抱きしめてほしかったり~?」
「そ、そこじゃねえ!」
「よかったー、私も流石にフィアラさんの腕の中とはいえおじさんと一緒は遠慮したいですし」
「その話はもう置いとけ! 何で俺なんかの味方しやがったんだって言いてえんだよ!!」
激怒する彼は、わたくしの事を理解できような目で見ながらそう言いました。
どうしてロズバルトは守られたのか、まるでその理由に見当がついていないかのようです。
「だってそんなの、一緒に暮らした仲ですもの~」
「っ……」
わたくしが返すと、彼は言葉を失ったようです。
ほんの短い期間ではあっても、彼の人となりを知るのには十分な時間でした。その結果、わたくしは自然とあんな行動を取っていたのです。
特にファルメリア様の話を聞いてしまったわたくしは、とても彼を見捨てる選択肢など取れはしませんでした。
「んなもん、たかが数日だろ」
「そのたかが数日であなたが優しい人だと知れましたのよ~?」
「……だからって、顔まで見せちまいやがって。分かってるんだよな? これで姫さん達も皇帝に盾突く反逆者として覚えられちまったんだぜ?」
「それはまあ、わたくしも覚悟はしておりましたし~……。だいたい、あのお話を聞いたわたくしがロズバルトを放っておけるなどとお思いですの~!?」
あのお話、で奥様の事だと察してくださったようで、彼はそれ以上何も言えなくなったようです。
お母様の妹の、その夫なのですから、わたくしからすれば身内のようなもの。多少遠い縁ではありますけれど、出会ったしまったからには助けずにはおれません。
「……クソ、黙ってるんだったな。そうすりゃ姫さんも反乱軍に囚われた人質として皇帝に保護してもらえたんだろうしよ」
「ま~! まだわたくしの事をそんな薄情な人間だと思ってますの~!? 何も仰らずとも共に過ごした日々までは無かった事にできませんのよ~!!」
ファルメリア様の件がなかろうと、ロズバルトと反乱軍で色々な事をした経験までは消えません。
きっと今したように彼の事を守るために陛下の前へ立ちはだかったことでしょう。
それを聞いた彼はがっくりと膝を突きます。
「んだよそりゃ。姫さんを仲間にしちまった時点で、こうなるのは確定だったってのかよ。はは……」
「どうしましたのロズバルト~?」
「怒ったり落ち込んだり、忙しい人ですね」
「せめて俺の命と引き換えに、姫さんはまともに生きられるようにしようとしたってのによ……」
そう零したロズバルトに、先程の彼の取った行動が思い起こされます。
突然人が変わったかのようにわたくしを取り押さえてみせたあれは、わたくしがただ彼に巻き込まれたかのように見せるための演技だったのでしょうか。
確かに、陛下も何かを見抜いたような言葉を投げかけていたような。
「わ、フィアラ様?」
ロズバルトの思惑に気付き、わたくしは2人から手を離すと立ち上がって彼へ真っすぐ体を向けます。
「いけませんわよロズバルト~! そんな自分だけが悪役になって全てを終わらせようだなんて、わたくしが許しませんわ~~~~!!」
「なっ……?」
困惑する彼に、わたくしは胸に手を当て声を張り上げます。
「わたくしとて私利私欲で皇帝の座を奪わんとする、いわば悪なのです! それなのにあなたお1人が全ての罪を被って死んでいく事なんて、決して認めませんのよ~!」
妻を殺された復讐を成すために反乱軍を取りまとめていたロズバルトが悪であれば、わたくしの行いもまた悪。
契約を果たし焼き殺されるのを回避するために陛下を討とうとしているのですから、自分のためでしかない分わたくしの方がより悪とも言えるかもしれません。
「いいですわね~!?」
「わ、分かったっての。……だいたい今更そんな事したって、手遅れだしな」
「ねー。もう私達って皇帝の敵になったわけですし」
カトレアの言葉に頷きます。そうです、反乱軍リーダのロズバルトだけでなく、彼女の力を借りて陛下に攻撃を仕掛けたわたくしもまた、正式にベラスティア帝国に弓引く者の1人として認識されたはず。
次に陛下と出会った時、きっと彼は容赦なくわたくしをも斬り捨てることでしょう。
「……そう考えますと、わたくし大胆な事をしてしまいましたのね~!」
皇帝という立場でありながら、陛下は神出鬼没なお方。隣町で出会った時のようにふらりと現れて瞬きする間も無くわたくしの首を刎ねにいらっしゃるかも。
それにあの恐るべき速度。四六時中常に警戒を怠ってはならない事を示していますし、今になって顔が青くなってきてしまいました。
「どうしましょう~……! やはりお面かなにかでお顔くらいは伏せておくべきでしたかしら~!?」
「今更かよ、姫さん」
「大丈夫、フィアラさんは私が守りますから!」
「と、とりあえずこの町からは離れた方がいいのかな……」
全部終わってしまってから後悔するわたくしにロズバルトは呆れたように笑いました。
カトレアもわたくしをむざむざ死なせはしないよう頑張ってはくれるのでしょうけれど、オルフェットも言ったようにこのままここへ留まっていては簡単に陛下が再来できてしまいます。
今回は偶発的な遭遇ではありましたが、いると分かった敵には的確な攻撃を用いてくる可能性は高いです。
そんなわけで、一旦わたくし達は町を出てどこか人目に付かない場所へと隠れる事に決めたのでした。




